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和歌の記憶

marriage

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3月
N中等部の卒業式は、ビデオチャットでそつなく終わる。

「あっさりしてるもんだな」

晶は呑気に裸でベッドにねっ転がって呟いた。

「まあ、ネット中学だもん」

私も上半身は制服だが、下半身はパンツ1枚だ。
卒業式チキンレースである。

MacBookを閉じてオフラインにして、
後ろにいる晶に振り向いた。

「卒業したし、なんかお祝いしよ!」

晶にそう言うと、彼は突拍子もなく。

「よし!ハイキングだ!」

「はい?!!!!!」

私は面食らった。



だらしない格好から、
ちゃんと制服に着替え、
晶と一緒に新宿から中央線に乗る。

「どこにいくの?」

「奥多摩」

「なんで!どうして!よりによって卒業当日!」

大分わかりかけた彼がまた判らなくなる!
プロポーズにしても、山登りしたら頂上は夜だろ!
いや、プロポーズにしても…奥多摩

正直わからない…なにかんがえてるのですか?

そう思いながら奥多摩に向かう。
駅を出たらすぐにタクシー捕まえて郊外に…

ハイキングなのに…タクシー?
いや、制服着てるしね、さすがに違うのわかるよ。

そんなこと考えていると、木目調の可愛いおうちがみえた。
大体3階建てかな?そんな感じのお家。

晶はそこで止めてくださいと言って、私達は降りた。

木目調のお家に私達は近づく。
え?まさか…いつ用意したの!?

「今日からここに引っ越す。2人の店だ」

私は呆気にとられた。

「この木目調…マリアージュフレールの…」

「うん、そう。和歌に惚れた場所だったから、イメージした雰囲気にした。店の名前も決まってる。」

そうだったんだ…晶…わたし知らなかった。

そして晶はティファニーの水色の箱を開けて
一粒の小さいダイヤモンドが付いた指輪をみせた。

「marriage
マリッジ
だ、
この店はオーナーシェフがいない。来てくれないか?」

「………!」

「30日に結婚しよう、和歌」

私達は、この夢の為に、どんなに犠牲を払ったか…
何度も挫けそうになり、その度に夢を諦めず
ずっとずっと待っていた。

「ここからがスタートだ
…和歌はもう辛いことは抱え込まなくていい。
一緒に乗り越えよう。

俺たちは…1人じゃないんだ!」


………晶っ!!!

涙が…涙が…止まらないよう…

「……はい」

断る理由は無い。
本当に本当に本当に本当に

「奇跡ってあるんだね」

「奇跡は願わないと叶わない
…言わないと手を差し伸べられない。
そういうことだよ、和歌」

「神様も、近くの人も、きづかないよね…」

「そういうことだ。」

人は1人では生きていけない、
どうしようもない所だってある。
だけど、分かって、理解して、抱きしめて
苦しみを分かち合えたら…

「晶、私達、もう1人じゃ無いよ!」

晶が、
最初私を拒んだ意味も、
私を愛してくれた意味も理解できたかもしれない。

「一緒に頑張ろう!」

晶はにっこりと微笑んでくれた。





一年半後、私は調理師免許を取得して、
新しいお店を開いた。

その半年後に、サプライズのお客様が来るのは
私達は、まだ知らない。
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