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第2章 訓練の日々

訓練の日々 26

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 大きく変わったひとつは、集団での訓練が多くなったということだ。

 ある時はテストゥドと呼ばれる戦術を学ばされた。皆がかたまり大盾を前方、上方に密集させ楯の壁を作り、弓矢や投石を防ぎながら移動する。大盾が前面及び上部を完全に覆うので、飛び道具には抜群の効果を発揮するのだが、皆が息をピッタリ合わせないと隙間ができ、すぐに形が崩れてしまう。
 
「おい! ノア、腕が下がってるぞ、しっかり上げろ」

 ストラブルの長槍がノアの大盾を叩く。

「守備特化だが、弓矢など遠方からの攻撃から強力に身を守ってくれるからな。手をぬくな、そして皆で協力しろ!」

 ストラブルが形を見ながら、隙間を指摘する。

「モーラ、もっと引っ込め。隙間ができるとそこを射抜かれるぞ。そら、ビック&スモール。お前らは要注意だ、細心の注意を払え」

 トーブが「ビック&スモール、クックックッ」と笑う。

「トーブ、お前は余裕あるな! よし、今日は居残り特別レッスンだ」
「ゲッ~」 

 その日の晩。トーブは、ブルズブートキャンプなる筋トレ特殊メニューを追加でやらされた。クランプで腕をプルプルさせながら、トーブが言う。

「ブル隊長! 俺、魔法使いなんですけど」
「これからの魔法使いには筋肉も必要だ。しっかり励め」

 そんな、二人をレイが見ていた。

「なんだ? レイ。お前もやりたいのか? 大歓迎だぞ」
「えっ?」とトーブがレイを見た。
「お願いします」

 とレイがトーブの隣でクランプを始める。
 レイはトーブを見て「付き合うよ」と呟いた。トーブの事が気になった事ももちろんあるが、自分の中にある、もやもやした気持ちを無くしたかった。

「よーし。よし。今日は大サービスだ。地獄コース行ってみるか」

 とストラスブルが俄然やる気を出して、レイの隣でクランプを始めた。

「ハーハッハッハ、筋肉は裏切らん。迷った時は筋肉を鍛えろ。ハッハッハ」と笑うストラスブルの声と、「まじかー」とトーブの嘆きが広間に響き渡った。
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