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第3章 特別任務

特別任務 15

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 それから準備は急ピッチで進められた。カルハイムまでは急いでも3日はかかる、手回り品を素早くまとめ、食堂で黒パンの塊や干し肉、チーズをもらい袋につめた。一向がシエンナの城砦都市の門をくぐった頃にはすっかり暗くなっていた。冷たい風が吹いて来てマントをはためかせる。レイはノースレオウィルから持ってきたストールを耳まであげローブをかぶった。

 街道に灯りはなく闇に溶け込む暗い道を歩速で馬を進める。レイに取っては何度も警備で通った道だったが緊張感が走る。

 レイはトーブの横に馬をつけ静かに言った。

「もめるなよ」
「うっさい。分かってる」

 後ろのノアに目を向ける。

「おい、寝るなよ」
「だ、大丈夫だ」

 目を瞑り前屈みになったその姿はとても大丈夫そうには見えなかった。

「だいぶ前のノアに戻ったな」
「アヌシビ様の薬が切れたんだ。それに誰かはあんまりあの格好気に入ってなかったみたいだしね」

 ノアはわずかに目を開けそう言ったあと、また目を瞑り前屈みになった。レイはそのゆらゆら揺れている体を見ながら「?」と考えたが、よく分からなかった。やがて、緊張してるのは俺だけかと思って空を見ると、星がきれいに瞬いていた。



 3時間ほど進み、いつもの警備で立ち寄る北の詰所に到着するとそこで仮眠をとった。厩舎での仮眠となったが、わらに包まれるだけで暖がとれ、短いながらもしっかりと寝ることができた。暗いうちに簡単な朝食を済ませ、日が登るとすぐに馬を走らせた。背中に背負ったシエンナの紋章入りの盾に朝日が反射する。風は冷たいながらも久々に良い天気になったので気持ちがよかった。
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