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第3章 特別任務

特別任務 34

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 アヌシビの前で正座させられているディックとソルト。二人の両脇にはシエンナの騎士が立ち肩を押さえつけられている。

「あなた達ですか? 最近シエンナの街中で悪さをしてる子供とは」

 アヌシビが静かな声で訊いた。

「子供じゃねえ」ディックが喰ってかかる。
「フッ、元気はありそうね。どう、その力、ここで使ってみる気はない?」
「?」

 ディックとソルトは顔を見合わせた。



 入団試験で幼さから笑われているディックとソルト。ディックは憤慨し他のテスト生と喧嘩になった。「ソルトをバカにする奴はゆるさん! 俺らの方が上だ!!」

 年上のものに混じり見習いの訓練をこなしていく二人。上手くいかぬことも多く、笑われては喧嘩をし悔しい思いもしたが、それでも決して諦めなかった。

 叙任式にて正式に騎士と認められた日のことを忘れたことは一度もなかった。自分はもちろん、ソルトと共にここで生きていける。その嬉しさを、二人で言葉なくシエンナ騎士の紋章の入ったマントをずっと抱きしめて噛み締めていた。
 
 それからシエンナの騎士としてこなしてきた仕事の数々が頭をよぎる。未熟さゆえにいろんなものと喧嘩をしたが、しっかりと仕事はこなし8年の歳月が流れた。生きるために、バカにされぬためにいつも全力だった。

 弱い夕日に照らされたシエンナの広場で寝転んでいた。レイとのレスリングで力の全てを使い果たしたことに笑えてきた。隣をみるとレイも同じように寝転び、体から白い湯気を立ち上らせていた。……心が気持ちよかった。

「ここで暮らせて悪くなかったぜ」

 ディックの前には、シエンナ騎士の正装をしたソルトが立っていた。

「生きろ、ソルト! 俺の、分まで……」


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