七色の君へ

餅月箕白

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第一章『Another World』

【第六話:親方!空から男の子が!】

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帝国歴二百八年 五月 十一日

 この日は、朝から慌ただしかった。早朝、店の外でものすごい音が鳴り、外に出てみればそこには一人の男が倒れていたのだ。地面の跡から見て、空中で撃ち落とされ、落下し地面に激突した衝撃で大ダメージを食らった。と、私達は推測している。あれから、男を手当てしたり、看病したりと色々大変で、結局この日はそれで終わってしまった。でも、正直なんでこんな事になったかは分からない。
 この男、見るからに戦闘系の人だから、目覚めた途端に襲ってこないか心配になってるシーナ。何とか事情を聞き出したい百合明さん。
 私はと言うと、正直あの男の事を初めて見た気がしないのだ。謎の既視感に襲われ、しばらく考え込んでいた。

五月 十二日

 その朝、男は目覚めた。右肩に弾丸を食らっていたため、包帯を使った応急処置を施すことしか出来なかった。全身ボロボロではあったが男は耐性スキル等を持っているのか、そこまで重症にはなっていなかった。
「ん、、、ここは」
僅かではあるが目が開いた。
私が男の面倒をみると言い出したので、今晩は私がつきっきりで看病していた。
「起きたみたいだね」
「お前は、、、」
「出会ってすぐの人に『お前』はいただけないなぁ。私は、雨草 滴。あなたは誰」
「俺は、、、あ、、、、戸塚 黒兎だ。助けてくれて、ありがとな」
「で、黒兎君。なんで、空から落ちて来たの?ゆっくりでいいから話して」
 黒兎は、一息つくと話し始めた。
「俺は、とある村の村人だった。俺は、村では羊飼いをしていてな、いつものように生活していると、遠い空から飛行船が飛んで来て、俺は連れ去られた。俺は、必死の抵抗で、飛行船から脱出することに成功したが、そのまま下へ落下してしまったんだ。そしたら、身体から光が溢れ出て来て、いつの間にかあんなところに、、、」
「いやいや、おかしいから!それはもはやラ〇ュタだから!それに、あなた弾丸撃ち込まれてたよ。何があったの、本当のことを話して」
 黒兎は、ため息をつくと、また話し始めた。
「俺は、とある街からこの街の偵察に来た偵察員だ。組織名は言えないが、俺はこの街に来た途端、何者かに撃ち抜かれ、そのまま落ちたんだよ。麻痺毒が付与された弾丸だったんだ、動けなくて落ちたんだ」
この男、敵なのか、、、。それよりも、黒兎か、、、。何処かで、、、。あ!
「あなた、もしかして学年No.2の戸塚黒兎!?」
「なんだよ、いきなり。そうだ、、、って何でお前がそれを知ってるんだ」
「何でって、私あなたと同じ高校に通ってたから。ほら、No.4の」
黒兎は、納得したようだ。頷いて、続けた。
「ああー、あの時のか。通りで聞いた名前だと思った。あ、俺一度聞いて見た人物は絶対に忘れないんだ」
「暗記力の鬼か!」
「それで、あなたを撃ち落とした人の顔とかは覚えてないの?」
黒兎は、寝ながらではあったが腕を組み必死に思い出した。
「確か、、、ピンク色の髪、、、ポニーテールだったな。あとは、、、大口径のスナイパーライフル、眼鏡をかけてたな。それ以上は思い出せない、、、」
(まぁ、大分覚えてるね、、、)
 特徴がはっきりしてるなら、探しようはある。ギルドに聞きに行ってみるか。

 ー冒険者ギルドー

 私は、黒兎のくれた手がかりを頼りに犯人を炙り出すことにした。
そのためには候補者をギルドで絞る必要がある。ギルドなら、きっと、見つけられるはずだ。
ギルドの受付カウンターのお姉さんに私は黒兎からもらったヒントを話し候補者を出してもらった。すると、簡単に候補者が浮かび上がった。
 候補者は、二人。一人は、この街からずっと南に行った周辺最大の街『リーレット』その街最大のギルド『もっちもち堂』に所属している。もう一人は、『リーレット』からさらに南へ行ったところにある世界最大のギルドハウス『紅月(あかつき)』に所属している。
 両方ともこの一帯では、とても名の通ってるギルドだ。両ギルドのリーダーは、とても怪しい術を使うらしい。正直今行くのは危険でしかない。私は、店に戻った。

ー鍛冶屋・桜ノ園ー

 私は、黒兎にその話をした。すると、
「紅、、、月、、、」
と、とても張り詰まった表情で声をもらした。
「紅月に何かあるの?」
「ああ、、、紅月のリーダーは俺の妹を殺した張本人だ、、、」
「な!?」
 嘘嘘!どういうこと?黒兎には妹さんがいたのか。
「俺は、、、紅月のリーダー『鬼島 桃谷』に復讐するために強くなった。全ては、妹の仇をとるためだ」
 鬼島 桃谷、、、。それが紅月のリーダーなのか。
「黒兎、一つ提案があるの」
「何だ」
「私達の仲間にならない?」
私が真剣な表情で言うと、黒兎は質問してきた。
「何故、俺がお前達の仲間になる必要がある。俺は一人でも戦うぞ」
「それは無茶よ、相手がどんだけ巨大か分かってるの?少なくとも、私達はこれからギルドを立ち上げる。だから、私たちと一緒に戦おうよ、一人じゃ何も出来やしないよ」
「くっ、、、」
(でも、待て。コイツらを利用すれば、紅月の奴らに近づけるかもしれない。なら、)
「いいだろう、お前らの仲間になろう」
「え?いいの?」
黒兎は、呆れている。
「はぁ、、、誘ったのはお前だろ、、、」
こうして、黒兎が仲間になった。しかし、まだあと一人仲間にしなくてはギルドを立ち上げる事は出来ない。私は、黒兎の治療を終え、黒兎も復活。今日は、これから黒兎の実力を見せてもらうことにした。
黒兎が扱っている武器は、〈ムラサメ+9〉、〈デザートイーグル .50AE +12.4〉。ムラサメは、紫色の刀身の長剣だ。シーナが作ってるどの剣よりも頑丈な耐久性を持っており、使い手である黒兎が最も使いやすい重さをしてあるオーダーメイド武器だ。デザートイーグル .50AE は、オートマチックピストルの中では最強と謳われる程の強さを持っている武器だ。そんじゃそこらの銃よりは圧倒的な殺傷能力を持っている。
 私達がやってきたのは、エレジオから少し離れたところにあるナスカル平原。ここは、私がいつも狩りをしている所で、稀に中等ゴーレムやスライム群等少し強力なMOBが出現する。今回、黒兎が戦うのは中等ゴーレム〈初期型歩行仕様ゴーレム〉だ。大きさは、十メートルくらい。弱点は眉間にあるクリスタル。私達でも協力しないと倒せない相手だ。今回はあくまで『力を見る』だけなので、倒す必要はない。
 いつでも戦闘開始できる状態の黒兎に私が合図を送った。すると、黒兎は腰のバックルからデザートイーグルを引き抜き、速射。弾丸は、ゴーレムの眉間にあるクリスタルのど真ん中に貫いた。それから二発三発をヒットさせ、ゴーレムのHPゲージが三割程削れたところで黒兎はゴーレムに突進。振り下ろされたゴーレム巨腕攻撃を利用し、その腕に乗りゴーレムの動きに合わせ乗る位置を変え、クリスタルまでたどり着くとムラサメを鞘から引き抜き、片手剣単発突進技《アサルトホーン》をクリスタル命中させた。強力な一撃を食らったゴーレムのHPゲージは、一気に削られゼロになった。
黒兎はクリスタルを鷲掴みにし、引っこ抜いた。核を失ったゴーレムは崩れ落ち、光の粒子となって爆散した。
 一瞬の出来事だったので、私達は唖然としてしまった。怪我が完治していないとはいえ、これだけの戦闘力を持っているとは思っていなかったのだ。
『これは、強い、、、』
私達三人は、同じことを言ってしまった。
「ほら、どうだ?これでいいのか」
黒兎は、手に入れたクリスタルを私に手渡した。
「う、うん。強いね、黒兎」
「まぁな、これくらいやらないと、世界の連中とはやりあえないからな」
「ふ、ふーん」
やっぱり、世界の壁は厚かった。
私達は思い知らされたのだ。私の場合、百合明さんとの決闘で、調子に乗っていたのかもしれない。世界の猛者達は、これ以上の強さを持っている、この事実は私達の心に強く刻まれた。
 「で、どうするんだ。メンバーは、俺を入れて四人か?なら、もう一人入れないとメンバーが足りないぞ」
「そうなんだよねぇ、でも私一人心当たりがあるんだ。メンバー」
「それは、誰だ滴」
百合明さんが、不思議そうに聞いてきた。
「私の親友、秋園桜。居場所がやっとわかったの、探しに行くんだよ」
それを聞いた黒兎は、少し考えた。
(秋園か、確か学校でも相当人気の人物だったな。No.3の愛川といい、雨草滴、お前は人を引き寄せる何かを持っているのか)
 シーナは、ちょっぴり不安気だった。
「ん~、この世界に降り立ったのって三ヶ月前でしょ?アキちゃんもう、その場所には居ないんじゃないの?」
「いや、そうでもないらしい。人によって降り立つ時が違うそうだ。三ヶ月前のあの日、全ての人々が降り立てば混乱は避けられないだろうからな」
と、黒兎が説明した。
「という事は、桜さんは最近降り立った可能性があるというわけね」
と、百合明が言った。
「そう、だからアキが目撃された場所に向かえば、会えるんじゃないかなって」
「でも、アキちゃんが居なかったらどうするのさ」
「その時は、見つかるまで探すまでだよ!」
「滴、ほんとに凄いよ。そこまでするの」
「いや、ただ私が欲張りなだけだよ。これは、言ってるだけだよ、ワガママなだけだよ。でも、少しでも可能性があるなら私はそれに賭けたい。たとえ、もう手遅れだったとしても、私は親友を放っておけない」
「なら、絶対見つけないとね」
とシーナ。
「そうだな、やれるだけやるぞ」
と黒兎。
「私たちがギルドを結成するのも遠くないな!」
と百合明。

 私達は、明日リーレットに向けて出発する。そこに拠点を置く、もっちもち堂。敵となるか、味方となるか、まだ分からないけど、これから私達の本当の冒険が幕を開けるのは間違いない。
  私は、胸に手を起き厚い決意を固めた。

【第七話】に続く、、、。
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