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第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)
第十話「現場」
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「この場所で間違い無いのですね」
「ああ、嬢ちゃんがこの船に来る三日程前の事だ。魔物の集団がここを襲った」
エゴイストは大型ガレオン級を凌ぐ大きさの船が連なって出来ている。
あちこちの改装を得てすでに船何隻分という話は出来ないくらい複雑になっているが、ゆうに50隻は超えるであろう巨大船の集団は、進路方向の全面に船を管理・コントロールする場所がある。真ん中のエリアはesの居住する塔(船長室)を中心に居住区が、後方には歓楽街が広がっている。
今回の襲撃は船団の前方にある「管理船室」のエリアが狙われた。
最も右舷に位置する箇所は武器や食料などの「貯蔵庫」が配置されている。
街程の広さがある船団とはいえ、海の家では補給は困難。
何処からか物資を補給せねば街の維持は不可能なのだ。
それを知ってかしらずか魔物の集団はそこを狙って襲ってきた。
「でもまあ不可解なこともあるんだがな」
「不可解とは?」
「これだけ船体に打撃を与えておきながら、魔物は乗船しなかった……ここから大量の魔物が進行してきたら壊滅……とまではいかなくても街はパニックになるんだが」
ツェッペリンは葉巻に火をつけ、海を見つめた。
「船の上には上がってこられないのか……他に何か理由があるのか……」
潮風が少女の銀髪をなびかせる。
パッと見た限り爆発物が使われた痕跡はない。少しだけ魔物の仕業にみせかけた人間の企みの可能性も探ったが何とも確証が持てない。
こんな大きな船を破壊する力を持つ者…。
黒猫の主人ならば、幾らかのあてがあるだろうに…。
少女は伸ばせば触れられた主人の感触を探して指を泳がせた。
「どんな理由があるにせよ、魔物の正体が分からないと結論のつけようがありませんね」
「そこは嬢ちゃんお得意の占いでパパッと分かるんじゃねえのかい?」
「流石に無からは何も見出せません……何か痕跡でもあればよいのですが……」
痕跡…。
アリスは何かを探す様に破壊された箇所に寝そべりある匂いに気付いた。
「これは……赤い……血……?」
たしかに赤い血を流す魔物がいないわけでは無い。
だがその血にのこる微かな臭いにアリスは違和感を覚えた。
「魔物特有の異臭が無い……人?……動物の血か……」
そして更に船体に引っかかった繊維状の物を見つける。
アリスはツェッペリンに危ないと警告されながらも壊れた船体の割れ目ギリギリまで迫った。
割れ目といっても大の大人が数人は入れるであろう亀裂は何とか海水を防ぐ高さまであるものの、嵐が来ようものならこの部分から海水が浸水し大参事を招くことは明確だった。
今も急ピッチで改修作業が行われているが、Esの調査依頼と作業を止めさせアリスは調査を続けていた。
(糸……?いや毛でしょうか……この細長い繊維は……)
船体の亀裂に引っかかるように垂れ下がった繊維状の物を見つけアリスはしばらく観察していた。
触った感じでも匂いでもなんでもいい、より確信に近づけることが出来れば。
そう思い触れた途端、身体中をある力が流れていくのが感じ取れた。
「これは……この感覚は……魔力?」
アリスは触れてから時間が経つにつれ消えていく魔力を感じ取っていた。
「残された時間は僅か……でもこの魔力量ならば……使えるかもしれません」
今度は先ほどより力強く、指先ではなく手のひらで繊維状の物に触れた。
アリスは体中を巡る魔力に神経を集中させ持ち主を探る。
何も見えない……暗闇?
冷たい……水の中……海だ。
更に深い……光が見える……。
うねる巨体……体の芯に響く鼓動……これは……声?
「うおーい!何かわかったのかい?嬢ちゃんよ?」
周りから見ればただ目を閉じて物思いにふける様にしか見えない少女に、とっくに葉巻を吸い終え少々飽きてきた大富豪が声をかける。
「えぇ恐らくは」
潮風がゆっくりとアリスの銀髪を揺らす。
よく人形の様な顔というが、表情が無いという表現よりは表情など無用な程美しい物を言うのかもしれない。
これまで多種多様な美しい物を見、手に入れてきたツェッペリンは世界が広いことを改めて認識する。
と、同時にそんなこと考えている場合ではない事にも気が付き慌ててアリスへ確認する。
「恐らくはって、中半端な答えだとあのesにどんな目に合わされるかわかったもんじゃねーぞ?」
相変わらず表情一つ変えず、少しだけ目線を端にやったアリスは、聞こえないように何かをブツブツとつぶやく。
そしてツェッペリンに向かって潮風にかき消されない程度の大きな声で話し出した。
「鑑定の結果を検証したいですね……この船に動物や魚に詳しい人はいますか?」
「動物や魚?魔物でなくてか?」
再度葉巻に火をつけ煙をたゆらせながら考え込んでいたツェッペリンは、突然ニヤリと表情を変えると歓楽街の方へ向かった。
「ちょっとお待ちを…一体何処へ?」
ツェッペリンはその野太い指で杯を空ける仕草をしてこう言い放った。
「お嬢ちゃんも流浪の冒険者だろ?情報を集めるならどこへいくよ」
アリスは暫くキョトンとし、急に何かを察すると同じ様にニャリ笑った。
「ああ、嬢ちゃんがこの船に来る三日程前の事だ。魔物の集団がここを襲った」
エゴイストは大型ガレオン級を凌ぐ大きさの船が連なって出来ている。
あちこちの改装を得てすでに船何隻分という話は出来ないくらい複雑になっているが、ゆうに50隻は超えるであろう巨大船の集団は、進路方向の全面に船を管理・コントロールする場所がある。真ん中のエリアはesの居住する塔(船長室)を中心に居住区が、後方には歓楽街が広がっている。
今回の襲撃は船団の前方にある「管理船室」のエリアが狙われた。
最も右舷に位置する箇所は武器や食料などの「貯蔵庫」が配置されている。
街程の広さがある船団とはいえ、海の家では補給は困難。
何処からか物資を補給せねば街の維持は不可能なのだ。
それを知ってかしらずか魔物の集団はそこを狙って襲ってきた。
「でもまあ不可解なこともあるんだがな」
「不可解とは?」
「これだけ船体に打撃を与えておきながら、魔物は乗船しなかった……ここから大量の魔物が進行してきたら壊滅……とまではいかなくても街はパニックになるんだが」
ツェッペリンは葉巻に火をつけ、海を見つめた。
「船の上には上がってこられないのか……他に何か理由があるのか……」
潮風が少女の銀髪をなびかせる。
パッと見た限り爆発物が使われた痕跡はない。少しだけ魔物の仕業にみせかけた人間の企みの可能性も探ったが何とも確証が持てない。
こんな大きな船を破壊する力を持つ者…。
黒猫の主人ならば、幾らかのあてがあるだろうに…。
少女は伸ばせば触れられた主人の感触を探して指を泳がせた。
「どんな理由があるにせよ、魔物の正体が分からないと結論のつけようがありませんね」
「そこは嬢ちゃんお得意の占いでパパッと分かるんじゃねえのかい?」
「流石に無からは何も見出せません……何か痕跡でもあればよいのですが……」
痕跡…。
アリスは何かを探す様に破壊された箇所に寝そべりある匂いに気付いた。
「これは……赤い……血……?」
たしかに赤い血を流す魔物がいないわけでは無い。
だがその血にのこる微かな臭いにアリスは違和感を覚えた。
「魔物特有の異臭が無い……人?……動物の血か……」
そして更に船体に引っかかった繊維状の物を見つける。
アリスはツェッペリンに危ないと警告されながらも壊れた船体の割れ目ギリギリまで迫った。
割れ目といっても大の大人が数人は入れるであろう亀裂は何とか海水を防ぐ高さまであるものの、嵐が来ようものならこの部分から海水が浸水し大参事を招くことは明確だった。
今も急ピッチで改修作業が行われているが、Esの調査依頼と作業を止めさせアリスは調査を続けていた。
(糸……?いや毛でしょうか……この細長い繊維は……)
船体の亀裂に引っかかるように垂れ下がった繊維状の物を見つけアリスはしばらく観察していた。
触った感じでも匂いでもなんでもいい、より確信に近づけることが出来れば。
そう思い触れた途端、身体中をある力が流れていくのが感じ取れた。
「これは……この感覚は……魔力?」
アリスは触れてから時間が経つにつれ消えていく魔力を感じ取っていた。
「残された時間は僅か……でもこの魔力量ならば……使えるかもしれません」
今度は先ほどより力強く、指先ではなく手のひらで繊維状の物に触れた。
アリスは体中を巡る魔力に神経を集中させ持ち主を探る。
何も見えない……暗闇?
冷たい……水の中……海だ。
更に深い……光が見える……。
うねる巨体……体の芯に響く鼓動……これは……声?
「うおーい!何かわかったのかい?嬢ちゃんよ?」
周りから見ればただ目を閉じて物思いにふける様にしか見えない少女に、とっくに葉巻を吸い終え少々飽きてきた大富豪が声をかける。
「えぇ恐らくは」
潮風がゆっくりとアリスの銀髪を揺らす。
よく人形の様な顔というが、表情が無いという表現よりは表情など無用な程美しい物を言うのかもしれない。
これまで多種多様な美しい物を見、手に入れてきたツェッペリンは世界が広いことを改めて認識する。
と、同時にそんなこと考えている場合ではない事にも気が付き慌ててアリスへ確認する。
「恐らくはって、中半端な答えだとあのesにどんな目に合わされるかわかったもんじゃねーぞ?」
相変わらず表情一つ変えず、少しだけ目線を端にやったアリスは、聞こえないように何かをブツブツとつぶやく。
そしてツェッペリンに向かって潮風にかき消されない程度の大きな声で話し出した。
「鑑定の結果を検証したいですね……この船に動物や魚に詳しい人はいますか?」
「動物や魚?魔物でなくてか?」
再度葉巻に火をつけ煙をたゆらせながら考え込んでいたツェッペリンは、突然ニヤリと表情を変えると歓楽街の方へ向かった。
「ちょっとお待ちを…一体何処へ?」
ツェッペリンはその野太い指で杯を空ける仕草をしてこう言い放った。
「お嬢ちゃんも流浪の冒険者だろ?情報を集めるならどこへいくよ」
アリスは暫くキョトンとし、急に何かを察すると同じ様にニャリ笑った。
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