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第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第十一話「ダンジョン~爆炎~」

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 初めて対峙するキマイラに対して、有効な攻撃手段が無いか確認する事と、アリスが伝え聞いているという話が真実か確認する必要もあるため、とりあえずいくつかの牽制を行うことにした調査隊は、まず、エルミアの魔法攻撃をキマイラに対して行ってみた。

「ホントにあんたはそんなバケモノなのかしらね……風の精霊に乞う、汝が叡智、不滅の光、虚ろう生命、その槍で我が敵を穿て!“サンダーランス”!」

 雷系の中級魔法であるサンダーランスは、複数の雷の槍が相手に降り注ぎ敵を殲滅する魔法なのだが、魔法が発動すると、キマイラは俊敏な動きで次々とサンダーランスを躱していった。

「これだけ躱すって事は、実は耐性が無いとか……じゃなかったか」

 途中でいくつかの魔法がその体に当たったが、当たった瞬間に魔力が雲散霧消していき、全くダメージを残さなかった。

「この感じ、魔法の属性とかではなく、完全に魔法をはじくって事だね」

 魔法が全く通らない事を確認したエルミアは焦りを感じ始めていた。

 次に物理攻撃がどの程度通るのかを知るためにクラークが攻撃を仕掛けた。クラークは身体強化魔法を習得しており、その強靭な肉体も相まって、自身の身長ほどもある大剣を得物として使っていた。このクラスになると切るというより叩き潰すといった使い方に近いが、この場合、キマイラへの攻撃としては理にかなっているように思えた。先ほど俊敏な動きを見せていた事を踏まえ、他の四人で牽制を行いつつ、本命のクラークの打撃を食らわせていくのだが、先ほどの魔法攻撃よりはましという程度にしかダメージが通らず、想像以上に物理攻撃への耐性があると証明されたに過ぎなかった。

「弱ったわね。多少なりともダメージが残せないかしら」

 そうエルミアが呟いた刹那、目の前のキマイラが突然大口を開けた。

「危ない!ブレスが来ます!」

 アリスのその叫びと同時に、キマイラの口から火炎のブレスが解き放たれた。

 幸い、ブレスのダメージを受けたものはいなかったが、厄介な攻撃手段を持っている事を改めて印象付けた。

 膠着状態に陥りかけた戦況を打開すべく、アリスはキマイラの目を狙ってナイフを投擲すると、先ほどと同じように毒蛇のしっぽがそれを弾こうと動いた。その瞬間、キマイラの近くに瞬間移動のように近づいたアリスはその手に持つ双剣でその毒蛇を切り落とし、次の瞬間には元いた場所へ戻っていた。

「ギィヤァァァァー」

 キマイラが尻尾を切り落とされた痛みに叫びをあげたのだと誰もが思った瞬間、切り落とされたはずの毒蛇はその切り落とされた切り口から、また新たな鎌首を作り出し、先ほど以上に凶悪な顔で調査隊メンバーを威嚇するのだった。

『やはり尻尾は再生するのか……このトカゲめ』

 思わず突っ込みを入れるタロだったが、いよいよもって打つ手なしの様相であった。

 それからしばらく調査隊メンバーとキマイラの攻防が続いたが、時にキマイラはその翼を使って上空から攻撃してくることもあり、次第に調査隊メンバーに疲労の色が見え始めた。

『ちぃ!いつまでもこんな事を続けていたら、先に疲労でこちらがやられる。何か方法は無いか…』

 タロはジリ貧になりつつある調査隊に何か手は無いかを考えあぐねていた。その時、自分の立ち位置が若干出過ぎている事に気づかなかったため、自分に近づくキマイラに気づいた時には、既に回避不可能な位置まで近づかれていた。

 調査隊の目には、キマイラのその目が捉えた黒猫へ必殺の一撃をくれるかに見えた。

「タロ様!!」

 黒猫である主人を護るべく動こうとした刹那、アリスは致命的なミスをした事に気付く。キマイラの真の狙いが自分である事に。タロを狙うと見せかけ、その強力な爪をまさに振るわんとしつつ、毒ヘビである尻尾が明確にアリスに向かって牙を剥く。

「アリス!」

 その場から跳び退りながら、従者の名を呼ぶ黒猫だったが、再びアリスのいる方に目を向けた時、思いもしない光景を目の当たりにした。
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