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「ピピ・ピピ・ピピ!」
午前七時、目覚まし時計が鳴り始めた。そのまま放っておくと、段々ベルのテンポが速くなってくる。
うるさいな……。
「ピピ・ピピ!」
「むにゃ…」
「ピピピピピピピピピピピピーーーーーードカッ!プチッ」
俺の踵落としで目覚まし時計を止めた。 静寂。寝ぼけ眼でむくりと起き上がる。
俺は今蹴り止めた目覚ましを拾い上げて優しく言った。
「たまには変わった起こし方しないと、君、長生きできないよ。ね?」
「あー、毎朝ダルイなぁ~、ふぁ~あ、ああ?」
「ん?なんだ、この目覚ましに付いてる赤いのは。」
……血か?まさか!
俺は慌てて自分の足裏を見た。付いてる。踵に、ほんのちょびっとだけど、赤い血が。
さっき、この目覚ましを蹴った弾みでなったんだろうけど、痛くない。
俺は自分の踵と目覚ましのボタンの上に付いている血痕を見ている内に、妙に気味が悪くなって来たので、目覚ましに付いた血をティッシュで拭き取り、踵のも拭き取った。
「季節外れの蚊でも踏み潰したかな。」
重い頭でヨロヨロと部屋を出て、洗面所に向かい、顔を洗った。
うん、少し目が覚めた。次、歯磨き、ガシュガシュ、シャカシャカ、ん、これで完璧目が覚めた。
腹減った。「おーい、母さん朝めし、…あれ?」
きれいに片づけられたキッチン。俺は目の前が真っ暗になった。
「飯も、母さんもいない……」
いつも早起きの母さんが、こんな時間まで起きて来ないなんて…もしかして病気?
ぐわん、ぐわん、と鳴く俺の腹の虫をなだめながら廊下を歩いて両親の部屋の前まで行った。
「父さん、母さん、入るよー。」
カチャ、とドアを開けたら、ガランともぬけのからだった。
「どこ行ったんだ~?こんな朝早くから~。まさかお二人とも俺を養うのが嫌で夜逃げ…まさかね?」
不安。
「可愛い一人息子を放って、どこ行ったんだぁ~?」
と、後ろを振り返った途端、目に飛び込んできたモノに俺は石像みたいに固まってしまった。
そこには俺そっくりの奴が立っていた。
暫く、俺は声も出ずに奴を凝視し続けていた。奴も、俺を穴の開くほど見ていた。
「俺は双子だったのかなぁ。」
そう、ほんとに瓜二つ。同じ顔、同じ身長、オマケにパジャマまで俺と同じのを着てるし!
すると奴が遠慮気味に「やあ。」と挨拶した。声まで同じときた。
うーん…でも、双子なんてもんじゃない。
まるで、
「ドッペルゲンガー!」
二人同時にその言葉を言って俺の声と奴の声がハモった。考えてる事も同じなのか?
「お前は誰だ⁈」と俺。ショックで声がひっくり返っていた。
「俺は、……お前じゃないのか?だってお前は過去の俺だもん。」と、落ち着き払った俺の顔で奴が言った。
「ひえー?」、何だって?こいつの過去が俺?なんじゃそりゃ!頭の中がこんぐらがってきた。
「どうなってるんだ?」
パニック状態の俺に奴は同情してか、優しくポン、と俺の肩を叩いて言った。
「お前の気持ちはよくわかるよ……だがよく聞けよ。」
奴があんまり真剣な顔なので、つい俺は素直に頷いてしまう。俺が真剣な話をする時の真顔と一緒だから。
「いいか。ここは三ヶ月後の世界だ。つまり、俺は三ヶ月後のお前なの。お前は三か月前の俺。お前はこの未来に跳ばされてるんだよ。タイム・スリップとかいうやつだと思う。」と奴。
「……お前は未来の俺?」と俺。
「そう!」と奴。
そうか、わかった。こいつが俺自身だっていうことは、やっぱりドッペルゲンガーじゃないのか?ドッペルゲンガーを見たら死期が近いっていう、アレのことだよな。
「ギャーッ!なんでこんな事になったんだぁ?」再びパニックになる俺。
「俺はどうなるんだよ?」俺は奴の肩を掴み、ブンブン揺さぶって喚いた。
「死にたくない!」
奴は暫くされるがままに、ガクガクと首を振っていたが、段々と腹が立ってきたらしい。
「いいかげんにしろ!」と俺の両頬を捻り上げて言った。
「三ヶ月もたった俺がここにいるんだから、俺がドッペルゲンガーなわけないだろうし、もとの時間にだって戻れるに決まってるだろう!?」
「あだだだだだっ」痛い。
奴はそのまま続けて言った。
「それから、お前をこの時間に跳ばしたのは、お前の(俺のでもあるんだけど)目覚まし時計だよ!」
この言葉に俺はあんぐりと口を開け、ほっぺたを引っ張られた間抜け面のままで突っ立っていた。
「なんで、目覚ましが……?」ハッと我に返って俺は奴を殴りつけようとするが、奴はそれを読んでいて、すんなりかわして俺に命令する。
「目覚ましに言うんだ。ごめんなさい、もう二度と君を乱暴に扱いませんって。」
なんだこいつは。バカか?目覚ましにごめんなさい?人でもない、まあ譲歩して犬や猫でもない、感情を持たない無機物に、ただのぜんまい仕掛けに何で謝らなきゃならないんだよ!とぶつぶつ言っている俺の前に目覚ましを持ってきて言った。
「さあ!」
コッチ、コッチ、コッチ………。規則正しい針の音。こんな時計に何ができる?
しかしそれを持つ奴の顔は真剣そのもの。我ながら愛想が尽きそうになるぞ未来の俺よ。
もしかしたら俺は近い将来、気が狂うのかもしれない。
例えば三か月後にはもう狂人かも。
「本当に言うの?」
うん、と奴は大きく頷いた。
仕方ない、奴がもしも狂人になってたら、逆らうと危ないしな………。
俺は大きく息を吸ってから頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。もう君を乱暴に扱ったりしません!」
さあ、言ったぞ。俺は奴に、もううんざりだという表情でこう、
「これでいいー」カチ!と、俺が言ってる最中に、目覚まし時計がやけに大きな音を立てて七時十五分の針をさした。「ーかぁ?」言い終わるか終わらないかの内に、周りが透きとおって行く。奴の姿も透明になり、俺は体が宙に浮いたような感覚に襲われた。視界が真っ白になった。
「はっ。」
気が付くと、自分の部屋の布団の上にいた。
「夢だな、きっと。」
あんな事はありえない。
けれど、あの時父さんと母さんがいなかった事が気にかかる。
あ、そうだ。目覚まし時計は………いつもどおり?
違う。七時を過ぎてる。十六分も!でも、ベルを止めたあとがあるし、気になるなぁ………。
時間だ。
パチリと瞬時に目が覚める。
「俺の体内時計も正確になったなぁ、こいつのなる五分前には起きちまう。」
と、七時五分前の目覚ましの停止ボタンを押す。
あれから三か月間いつも、この調子だ。そしてアレが夢か現実だったのかを確かめられる今朝、あの日のとおり両親はいなかった。昨日はちゃんといたのに。
この分だと……。
やっぱりいた!
フラフラと、母さん達の部屋に歩いて行く過去の俺が!
そして十五分後、過去の俺は例によってもとの時間に帰って行った。
深い溜息。自分が自分に言われた事を、また自分に伝えるなんて、なんて日だ。
じっと目覚ましを見る。父さん母さんはどこに行ったんだ?
ピンポーン♪
「!」
玄関口にダッシュしてドアを開けると、そこには充血した目を眠たそうにこすっている両親が立っていた。
「ごめんねえ~、お前の寝てる間に父さんと久しぶりにドライブ・シアター観に行ってたのよ~。たまにはいいでしょ?」ホホホホと顔赤らめて笑う母さん。
リア充爆発ですか。
「すまんな、心配させて。」と大アクビしながら父さん。
心配しましたとも、三ヶ月も前からね!
俺は、俺は……突っ立ったまま二人を出迎えて………アホらしい。
俺は部屋に戻って、今までの三ヶ月間の気苦労を思い返した。
もしかして母さん達まで違う時間に跳ばされたんじゃないかと不安だった。でもこれで安心した。が、俺の心配をよそに、息子をのけ者にしてコッソリ映画を観に行った根性に、段々と腹が立ってきた。
「なんて親だ。心配して損した!」
そして思わず手にしていた目覚まし時計を乱暴に放りなげた。とその途端、「カチ!」とひときわ大きな針の音がした。「うわっ、やっちまった!」と思った時にはもう遅い。「げっ、また?」体が透けて行く。
「あ……」また、ジェットコースターに乗って降りて行く時の、あの宙に浮く感じ。気が遠くなっていくと思うのは、周りの景色が歪んで見えるからなのか。
(ひゃー――――――………)
今度は凄い。空白が長い。でも見えない。確かにそこに俺はいるのに、色も形も、自分の姿さえ見えない空間。
多分ここが時間を行き来できる亜空間なのかな。
もしも……もしも、タイムスリップして違う時間に行けたらなんて、思った事もあったさ。
でもやっぱりこれはないぜ。俺の目覚まし、乱暴に扱い過ぎて超能力時計になっちまったのかなぁ。生き物みたいに防衛本能までできちゃって。自分の主人を違う時間に跳ばすなんて、なんて奴だ。
おお、世界が見えてきた。今度はどの時間に跳ばされたんだろ。一年先か、もしかして三十年もたった未来かも?
「ぎゃああああああああ!」
巨大な爬虫類の顔が俺の目前、十五メートル先にあった。恐竜だ。生きたホンモノの。
ここは恐竜時代だ!
俺は死に物狂いでそこから逃げた。が、あちらこちらによだれを垂らした、いかにも肉食ですと言わんばかりの恐竜の姿が目に入る。うわ~、これ映画で見たことあるわー…だめだ、助かる見込みないじゃんか。
………ああ、ティラノが俺を!
「いいかげんにしろー!俺がお前にした事はこんなに酷い事か?そんなわけない!…はずだぞ。ただ、ちょっとキツメに蹴ったり叩いたりしただけだ。俺に復讐するならそのくらいにしやがれってんだ。無機物の癖に!」
「カチッ!」
あの目覚ましの時間を移動する直前に聴こえる音がした。
お!開き直って強気で出たのが良かったか?またあの感覚……助かったぁ。
ここは、どこだろう。まあ、あの人食い竜どもの世界じゃなけりゃ、もうどこだっていいや。
さっきは恐竜時代だから、今度は信じられないくらい先の未来かもしれない。俺は今いる場所を観察し始めた。
ここは外ではないみたいだが、天井がとんでもなく高い。そして広い。
床は黒い色のプラスチックでできているらしく、仕切りの壁がない。それにあの、巨大なビルみたいなの、あれ、なんだか見た事あるよな…いったいここはどこなんだ?ちょっと待て?まさかと思いながらもさっきのビルみたいなのをじっと目を凝らして見てみた。本棚だ。嘘みたーい。マンガ雑誌ばっかり並べてる、まるで俺の本棚みたいだ。
だけどあんな映画館のスクリーンほどもあるデッカイ本を誰が読む?巨人…あいつ!またとんでもない所へ俺を連れて来やがったんじゃ………
「ピピ・ピピ・ピピ!」
うわっ、なんだ?
「ピピ・ピピッ」
ぎゃあーっ耳が痛い!このデカ過ぎるアラームの音は、はっ、そうか。この下で鳴ってるんだ!
この聴き慣れたリズムはあいつだ。俺の目覚まし。すると、ここは、目覚まし時計のボタンの上!
この広い場所はよく見れば、見慣れた物ばかり、俺の部屋だった。
ただあまりに巨大化してるので、そうと分からなかった。違う、巨大化じゃなくて、俺がミクロ化されたんだ。
時間だけじゃなく、物質まで自由に変化させられるのか、あいつは。この部屋の広さからすると、俺は蚤みたいに小っさくなってる。なんだってあいつはこんな事をするんだ。あいつの目的は一体なんだ?復讐か?
復讐なら、さっきの恐竜時代で俺を殺せたはずだ。だけど、恐竜に喰われる寸前でここに跳ばされた。
待て、その時なんて言った?俺、確かそれ相応の復讐をしろ的なこと、言ったような……あっ!
向かいにある山みたいな物がモゾモゾと動き始めた。
あれは俺だ。あれが俺なら、やばいっちっくしょう!あいつまさか、三ヶ月前のあの朝に俺を戻したんじゃ…
「むにゃ。」
うわーーーーーーっやめろやめろやめろー!
「ピピピピピピピピピピピピーーーーーードカッ!プチッ」
彼は今蹴り止めた目覚ましを拾い上げて優しく言った。
「たまには変わった起こし方しないと、君、長生きできないよ。ね?」
カチコチカチコチ………。
パラドックス・タイムが再び始まる。
午前七時、目覚まし時計が鳴り始めた。そのまま放っておくと、段々ベルのテンポが速くなってくる。
うるさいな……。
「ピピ・ピピ!」
「むにゃ…」
「ピピピピピピピピピピピピーーーーーードカッ!プチッ」
俺の踵落としで目覚まし時計を止めた。 静寂。寝ぼけ眼でむくりと起き上がる。
俺は今蹴り止めた目覚ましを拾い上げて優しく言った。
「たまには変わった起こし方しないと、君、長生きできないよ。ね?」
「あー、毎朝ダルイなぁ~、ふぁ~あ、ああ?」
「ん?なんだ、この目覚ましに付いてる赤いのは。」
……血か?まさか!
俺は慌てて自分の足裏を見た。付いてる。踵に、ほんのちょびっとだけど、赤い血が。
さっき、この目覚ましを蹴った弾みでなったんだろうけど、痛くない。
俺は自分の踵と目覚ましのボタンの上に付いている血痕を見ている内に、妙に気味が悪くなって来たので、目覚ましに付いた血をティッシュで拭き取り、踵のも拭き取った。
「季節外れの蚊でも踏み潰したかな。」
重い頭でヨロヨロと部屋を出て、洗面所に向かい、顔を洗った。
うん、少し目が覚めた。次、歯磨き、ガシュガシュ、シャカシャカ、ん、これで完璧目が覚めた。
腹減った。「おーい、母さん朝めし、…あれ?」
きれいに片づけられたキッチン。俺は目の前が真っ暗になった。
「飯も、母さんもいない……」
いつも早起きの母さんが、こんな時間まで起きて来ないなんて…もしかして病気?
ぐわん、ぐわん、と鳴く俺の腹の虫をなだめながら廊下を歩いて両親の部屋の前まで行った。
「父さん、母さん、入るよー。」
カチャ、とドアを開けたら、ガランともぬけのからだった。
「どこ行ったんだ~?こんな朝早くから~。まさかお二人とも俺を養うのが嫌で夜逃げ…まさかね?」
不安。
「可愛い一人息子を放って、どこ行ったんだぁ~?」
と、後ろを振り返った途端、目に飛び込んできたモノに俺は石像みたいに固まってしまった。
そこには俺そっくりの奴が立っていた。
暫く、俺は声も出ずに奴を凝視し続けていた。奴も、俺を穴の開くほど見ていた。
「俺は双子だったのかなぁ。」
そう、ほんとに瓜二つ。同じ顔、同じ身長、オマケにパジャマまで俺と同じのを着てるし!
すると奴が遠慮気味に「やあ。」と挨拶した。声まで同じときた。
うーん…でも、双子なんてもんじゃない。
まるで、
「ドッペルゲンガー!」
二人同時にその言葉を言って俺の声と奴の声がハモった。考えてる事も同じなのか?
「お前は誰だ⁈」と俺。ショックで声がひっくり返っていた。
「俺は、……お前じゃないのか?だってお前は過去の俺だもん。」と、落ち着き払った俺の顔で奴が言った。
「ひえー?」、何だって?こいつの過去が俺?なんじゃそりゃ!頭の中がこんぐらがってきた。
「どうなってるんだ?」
パニック状態の俺に奴は同情してか、優しくポン、と俺の肩を叩いて言った。
「お前の気持ちはよくわかるよ……だがよく聞けよ。」
奴があんまり真剣な顔なので、つい俺は素直に頷いてしまう。俺が真剣な話をする時の真顔と一緒だから。
「いいか。ここは三ヶ月後の世界だ。つまり、俺は三ヶ月後のお前なの。お前は三か月前の俺。お前はこの未来に跳ばされてるんだよ。タイム・スリップとかいうやつだと思う。」と奴。
「……お前は未来の俺?」と俺。
「そう!」と奴。
そうか、わかった。こいつが俺自身だっていうことは、やっぱりドッペルゲンガーじゃないのか?ドッペルゲンガーを見たら死期が近いっていう、アレのことだよな。
「ギャーッ!なんでこんな事になったんだぁ?」再びパニックになる俺。
「俺はどうなるんだよ?」俺は奴の肩を掴み、ブンブン揺さぶって喚いた。
「死にたくない!」
奴は暫くされるがままに、ガクガクと首を振っていたが、段々と腹が立ってきたらしい。
「いいかげんにしろ!」と俺の両頬を捻り上げて言った。
「三ヶ月もたった俺がここにいるんだから、俺がドッペルゲンガーなわけないだろうし、もとの時間にだって戻れるに決まってるだろう!?」
「あだだだだだっ」痛い。
奴はそのまま続けて言った。
「それから、お前をこの時間に跳ばしたのは、お前の(俺のでもあるんだけど)目覚まし時計だよ!」
この言葉に俺はあんぐりと口を開け、ほっぺたを引っ張られた間抜け面のままで突っ立っていた。
「なんで、目覚ましが……?」ハッと我に返って俺は奴を殴りつけようとするが、奴はそれを読んでいて、すんなりかわして俺に命令する。
「目覚ましに言うんだ。ごめんなさい、もう二度と君を乱暴に扱いませんって。」
なんだこいつは。バカか?目覚ましにごめんなさい?人でもない、まあ譲歩して犬や猫でもない、感情を持たない無機物に、ただのぜんまい仕掛けに何で謝らなきゃならないんだよ!とぶつぶつ言っている俺の前に目覚ましを持ってきて言った。
「さあ!」
コッチ、コッチ、コッチ………。規則正しい針の音。こんな時計に何ができる?
しかしそれを持つ奴の顔は真剣そのもの。我ながら愛想が尽きそうになるぞ未来の俺よ。
もしかしたら俺は近い将来、気が狂うのかもしれない。
例えば三か月後にはもう狂人かも。
「本当に言うの?」
うん、と奴は大きく頷いた。
仕方ない、奴がもしも狂人になってたら、逆らうと危ないしな………。
俺は大きく息を吸ってから頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。もう君を乱暴に扱ったりしません!」
さあ、言ったぞ。俺は奴に、もううんざりだという表情でこう、
「これでいいー」カチ!と、俺が言ってる最中に、目覚まし時計がやけに大きな音を立てて七時十五分の針をさした。「ーかぁ?」言い終わるか終わらないかの内に、周りが透きとおって行く。奴の姿も透明になり、俺は体が宙に浮いたような感覚に襲われた。視界が真っ白になった。
「はっ。」
気が付くと、自分の部屋の布団の上にいた。
「夢だな、きっと。」
あんな事はありえない。
けれど、あの時父さんと母さんがいなかった事が気にかかる。
あ、そうだ。目覚まし時計は………いつもどおり?
違う。七時を過ぎてる。十六分も!でも、ベルを止めたあとがあるし、気になるなぁ………。
時間だ。
パチリと瞬時に目が覚める。
「俺の体内時計も正確になったなぁ、こいつのなる五分前には起きちまう。」
と、七時五分前の目覚ましの停止ボタンを押す。
あれから三か月間いつも、この調子だ。そしてアレが夢か現実だったのかを確かめられる今朝、あの日のとおり両親はいなかった。昨日はちゃんといたのに。
この分だと……。
やっぱりいた!
フラフラと、母さん達の部屋に歩いて行く過去の俺が!
そして十五分後、過去の俺は例によってもとの時間に帰って行った。
深い溜息。自分が自分に言われた事を、また自分に伝えるなんて、なんて日だ。
じっと目覚ましを見る。父さん母さんはどこに行ったんだ?
ピンポーン♪
「!」
玄関口にダッシュしてドアを開けると、そこには充血した目を眠たそうにこすっている両親が立っていた。
「ごめんねえ~、お前の寝てる間に父さんと久しぶりにドライブ・シアター観に行ってたのよ~。たまにはいいでしょ?」ホホホホと顔赤らめて笑う母さん。
リア充爆発ですか。
「すまんな、心配させて。」と大アクビしながら父さん。
心配しましたとも、三ヶ月も前からね!
俺は、俺は……突っ立ったまま二人を出迎えて………アホらしい。
俺は部屋に戻って、今までの三ヶ月間の気苦労を思い返した。
もしかして母さん達まで違う時間に跳ばされたんじゃないかと不安だった。でもこれで安心した。が、俺の心配をよそに、息子をのけ者にしてコッソリ映画を観に行った根性に、段々と腹が立ってきた。
「なんて親だ。心配して損した!」
そして思わず手にしていた目覚まし時計を乱暴に放りなげた。とその途端、「カチ!」とひときわ大きな針の音がした。「うわっ、やっちまった!」と思った時にはもう遅い。「げっ、また?」体が透けて行く。
「あ……」また、ジェットコースターに乗って降りて行く時の、あの宙に浮く感じ。気が遠くなっていくと思うのは、周りの景色が歪んで見えるからなのか。
(ひゃー――――――………)
今度は凄い。空白が長い。でも見えない。確かにそこに俺はいるのに、色も形も、自分の姿さえ見えない空間。
多分ここが時間を行き来できる亜空間なのかな。
もしも……もしも、タイムスリップして違う時間に行けたらなんて、思った事もあったさ。
でもやっぱりこれはないぜ。俺の目覚まし、乱暴に扱い過ぎて超能力時計になっちまったのかなぁ。生き物みたいに防衛本能までできちゃって。自分の主人を違う時間に跳ばすなんて、なんて奴だ。
おお、世界が見えてきた。今度はどの時間に跳ばされたんだろ。一年先か、もしかして三十年もたった未来かも?
「ぎゃああああああああ!」
巨大な爬虫類の顔が俺の目前、十五メートル先にあった。恐竜だ。生きたホンモノの。
ここは恐竜時代だ!
俺は死に物狂いでそこから逃げた。が、あちらこちらによだれを垂らした、いかにも肉食ですと言わんばかりの恐竜の姿が目に入る。うわ~、これ映画で見たことあるわー…だめだ、助かる見込みないじゃんか。
………ああ、ティラノが俺を!
「いいかげんにしろー!俺がお前にした事はこんなに酷い事か?そんなわけない!…はずだぞ。ただ、ちょっとキツメに蹴ったり叩いたりしただけだ。俺に復讐するならそのくらいにしやがれってんだ。無機物の癖に!」
「カチッ!」
あの目覚ましの時間を移動する直前に聴こえる音がした。
お!開き直って強気で出たのが良かったか?またあの感覚……助かったぁ。
ここは、どこだろう。まあ、あの人食い竜どもの世界じゃなけりゃ、もうどこだっていいや。
さっきは恐竜時代だから、今度は信じられないくらい先の未来かもしれない。俺は今いる場所を観察し始めた。
ここは外ではないみたいだが、天井がとんでもなく高い。そして広い。
床は黒い色のプラスチックでできているらしく、仕切りの壁がない。それにあの、巨大なビルみたいなの、あれ、なんだか見た事あるよな…いったいここはどこなんだ?ちょっと待て?まさかと思いながらもさっきのビルみたいなのをじっと目を凝らして見てみた。本棚だ。嘘みたーい。マンガ雑誌ばっかり並べてる、まるで俺の本棚みたいだ。
だけどあんな映画館のスクリーンほどもあるデッカイ本を誰が読む?巨人…あいつ!またとんでもない所へ俺を連れて来やがったんじゃ………
「ピピ・ピピ・ピピ!」
うわっ、なんだ?
「ピピ・ピピッ」
ぎゃあーっ耳が痛い!このデカ過ぎるアラームの音は、はっ、そうか。この下で鳴ってるんだ!
この聴き慣れたリズムはあいつだ。俺の目覚まし。すると、ここは、目覚まし時計のボタンの上!
この広い場所はよく見れば、見慣れた物ばかり、俺の部屋だった。
ただあまりに巨大化してるので、そうと分からなかった。違う、巨大化じゃなくて、俺がミクロ化されたんだ。
時間だけじゃなく、物質まで自由に変化させられるのか、あいつは。この部屋の広さからすると、俺は蚤みたいに小っさくなってる。なんだってあいつはこんな事をするんだ。あいつの目的は一体なんだ?復讐か?
復讐なら、さっきの恐竜時代で俺を殺せたはずだ。だけど、恐竜に喰われる寸前でここに跳ばされた。
待て、その時なんて言った?俺、確かそれ相応の復讐をしろ的なこと、言ったような……あっ!
向かいにある山みたいな物がモゾモゾと動き始めた。
あれは俺だ。あれが俺なら、やばいっちっくしょう!あいつまさか、三ヶ月前のあの朝に俺を戻したんじゃ…
「むにゃ。」
うわーーーーーーっやめろやめろやめろー!
「ピピピピピピピピピピピピーーーーーードカッ!プチッ」
彼は今蹴り止めた目覚ましを拾い上げて優しく言った。
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