RPG009 ペットはボコってHP1割以下にしてテイムします 改良版

初書 ミタ

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第1章

6 始まりの回想 0話

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第0話

薄っすらとした意識の中、俺の眼前には
空高く大きな雲がいくつも漂っているのが見えた。
それは、バナナに変化したり、リンゴに変化したりしていた。

「ここは、どこだ・・・」
だんだんと意識がはっきりしてくると、俺の背中に当たる
雑草の感覚が強くなる。俺はどこで何をしているんだ。
目が覚めるまでどこにいたかなどは全く覚えていない。
おそらく疲れ果てて意識を失ってしまったのだろう。
記憶をたどる限り、近くに街がないかなどと、
ただっぴろい草原をさまよい歩いていた姿が
幻影のように浮かんでは消えていく。
地図もなく、見つかる可能性は低かった。
だが、生き延びるためにさまよい歩いていた。
しかし、見つけることはかなわなかった。
俺の目の前にあるのはただただ真っ暗な絶望だ。
俺の所持品はおそらく麻布でできた上下の服、
決して見栄えは良くなく、明らかにおんぼろな布切れだ。
乞食が好んで着そうなものだ。

幸いなことに高原は気候が穏やかで寒さで凍え死ぬ
などということはなさそうだ。
他には3日分あるかないかの水と食料だ。
相当節約して飲み食いしていたようだがそれでももう
これだけだ。早く街を探さないと飢えて死ぬのは確実だ。
俺にもわからないのはフライパンを所持していることだ。
記憶にはないが俺はコックでもやっていたのだろうか。
おあつらえ向きに卵も1個だけ持っている。
しかし、ニワトリのような鳥の卵ではないのは明らかで
おどろおどろしい色艶の蜘蛛系のモンスターのような外見の卵だ。
間違っても調理して食べようとは思えなかった。
俺の住んでいた大阪の上下水道は薬品が入っているとはいえ
けっこう、品質の良い水らしいし、空気は排気ガスのそばなので
良いわけないだろうが、個々の環境は非常に良い。
祖父母の住む田舎並に水も空気も澄んでいる。

気温も程よく非常に過ごしやすいためにのんびりしすぎた。
なのでおれはとりあえず水を汲むことにした。
水は何とかなると思っていたのだ。
すぐそばに清流が流れ、小魚が元気に泳いでいる様子だった。
しかし、いざ飲もうとして手ですくおうとすると
『採集スキルがありません』的な感覚が伝わってきて飲めない。
当然、皮袋で汲むこともできなかった。
食べ物も、そこいらの木になっている果物を採ろうとするのだが、
『採集スキルがありません』という理由で、食べることはできそうにない。
やはりここは普通の生活空間とは明らかに違う場所だと
肌身にしみてわかってしまう。
きゅーきゅー と鳴るお腹の音さえなければずっと寝ていられるのだが、
生きていくためにはそうはいかない。
そういった、進退窮まった状態でおれはそいつに出会った。

出会ってしまった。幸いなことに戦闘スキルはある様子で、
攻撃して倒すことは可能だと、脳内のガイタンス的なものが
教えてくれる。そいつは俺のもといた世界ではゲームでも漫画でも、
『超』がつくほど有名な『雑魚』だ。
さすがに今のおれでもこんな物体に負けることはないだろう。
そう過信していた。正直食べられるかは不明だが、
水分は非常に多そうに感じられる。
想像の中で、メロンのような味だろうか、スイカのような味が
するのではないだろうかと、喉の渇きと空腹を満たすためそいつを狩って、
むしゃぶりつこうという妄執に囚われていた。
そして、おれはほんの軽い気持ちでそいつに襲いかかった。
それは人生で初めて経験する、本当の絶望の始まりだった。
『米原 和樹』の攻撃 そういう脳内のアナウンスに従い、
俺はフライパンにかなり力を込めて殴りつけた。
その一撃はそいつ、青い色をした間抜け顔の『スライム』にヒットし
倒すはずだった。しかし現実には『フライパン』はスライムの表面を
滑るように滑らかになぞり地面に「ゴンッ」と鈍い音を立ててぶつかった。
それでもダメージは与えたらしくスライムの左上に表示されている
『青色の体力ゲージ』らしきものは、1割ほど削られ、
そのスライムは痛みからか本能からか、怒り狂いながら、
こちらに全力で突撃してきた。
それは俺がいかに無力で無為なのか、自分自身の経験として味わうこととなった。
スライムはまっすぐこちらに向かってきた。
どうやら体当たりをする気のようだが動きは鈍い。
その気になれば余裕で避けられた攻撃だっただろうが、
スライムに殺されるなど想定の埒外であり、スライムなど早くかたずけようと
無視して殴り続けるという愚かな決断を下してしまった。
その遅くて鈍い攻撃の威力は、俺の腹部に正面からぶつかって
かなりのダメージを与えたようだ。俺の目の前に表示される
『黄色い体力ゲージ』らしきものは半分近くまで減っていた。
それだけではない、まるで至近距離からロベカルのフリーキックを
喰らったような強烈な痛みが走り、立ってはいられなかった。
悶絶し、苦しそうに転がる俺を見てスライムはとどめを刺そうとしてきた。
ふと何かが口から吐き出されて、それを見たらそれは『赤い血』だった。
生死の分かれ目だと感じた俺は全身全霊でスライムの攻撃を避けると、
スライムに背中を見せて一目散に逃げ出そうとした。
『死ぬ』と文字通り『死ぬほど痛い』だろうし、この世界の構造が
どうなっているかは分からないが、もしかすると俺はあの世に
行くことになるのだろう。場合によっては世界から消滅し『無』に帰する。
元いた世界と同じで今のおれにとって『死ぬ』ということは完全な未知であり、
いかなる書物も賢者の知恵もその真実を教えてはくれない。
まだ宗教に熱心で『信仰』でもあれば違っただろうが、俺はそれこそ
小便をもらしながらそれこそ命がけで逃げ回った。ものすごく怖い、あと一撃で死ぬ。
すでに痛みと恐怖で硬直し、疲弊しきった身体で逃げることは難しく、
真に絶望して諦めた俺の前で、『俺を殺すべく行動した』そのスライムは
その目的を遂げることなく、上空から降ってきた一本の『銅の槍』に貫かれ、
水の入った袋が弾ける様に、『絶命』した。
天国に行けますようにとでも祈っていたのか、恐怖のあまり大便をもらした俺は
ギュッと目を閉じていた。しかし、しばらくしてもなにも起こらないので、
その目をそっと開けてみると、『憐みと侮蔑』に満ち溢れた表情を隠そうともせず
その御尊顔を拝見することとなった。
そこには、一人の少女がいた。まるで天使のようだった。

「なっさけないわね。初心者エリアでスライム一匹相手に瀕死とかありえない
でしょ。」と彼女はおっしゃった。その表情と寸分たがわない、ゆえに心の底からの本音だろう。
金色の長い髪にエメラルドブルーの目を持つ美しい少女だ。
身長はかなり低く130cmくらいだ。普通ならとても強そうには見えない、
しかしその時の俺には『命の恩人』補正がかかっていたので凄腕の戦士に見えていた。
銅の槍と銅の鎧を装備した彼女は腰の袋に手をやり、しばらくごそごそしていたが、
目的のものを見つけたらしく『薬草』らしきものを取り出すと俺に手渡してきた。
「ほら、のみなさいよ。体力は少し回復するわよ。」
彼女にとってそれは何か対価を要求するでもなく、恩を売るでもなく、
ごく自然な行為であった。
俺は緊張の糸が切れ、助かったという安心感と、
まったく無関係な他人を何の見返りもなく助けてくれた彼女への感謝で
ただ、ただ、感動して号泣しながらひたすらお礼の言葉を言い続けていた。
「うわっ、なんなんのよ。あなたは。・・・キモイ」
俺のあまりの態度に驚いたのか、彼女は赤面していた。
「そこいらを採集スキルで探索すれば簡単に拾えるものだ。」
そう言うともごもごと恥ずかしそうに口ごもりながら黙ってしまった。
そして、遠慮する必要はないとばかりに大仰に手を振った。
彼女から渡された薬草をもぐもぐとほおばり飲み下した。
ニガヨモギやドクダミのような薬っぽい味を想像していたが、
以外にオレンジ味だった。
「意外においしいですね。」
それが彼女の外見と相まって小児科医で出される甘いシロップを
思い出し、つい笑ってしまった。
笑われた理由が分からなかったようで、
「なんだよ、何がおかしいんだ?死にかけておかしくなったのか?
まあ、装備が整うまでは、戦闘系のスキルはお勧めできないよ。」

「体の痛みと倦怠感が消えました。」
そう言うついでに改めて、
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。」
と俺なりの最大限の感謝を捧げた。
ボロ布をまとった俺だが、いつかこの恩は返そう、そう思った。
「なぜ。」
少し喉に詰まった。そして間を置いて俺は彼女に問いかけた。
「なぜおれを助けてくれたんですか?」
俺も同じ状況なら助けはするだろう、だが彼女の様子はそれだけとは
思えなかった。彼女が、かわいそうとか、困っている人がいるという
単純な善意から助けたのなら、『憐みや侮蔑的』な表情を俺に
向けるはずはないだろう。もっと優しく接したはずだ。
彼女は俺がなぜそんなことを聞いたのか考え込んでいるようだった。
「なぜそんなことを聞く?」
彼女は心の底から理解できないとばかりにいぶかしんだ表情を向けてきた。
「困っている人がいるから、困っている人を助ける。当然のことじゃないか。」
おそらく本音だろう。純粋無垢な正義。それゆえなぜ彼女が
俺にあんなことを言ったのか、率直に聞いてみた。
「この世界に友人がいた。だがそいつは草原でスライム相手に死んだ。」
そう言葉を詰まらせると彼女は続けた。
「私もレベルやステータスを上げて先に進むことも考えた。
だがそれが何になる。」
「自分自身で工夫し努力し先に進むものに、強くなり高みに登れるものに
真の意味で助けなど必要ない。」
「私の力など必要とされないだろう。だから、初期エリアに残り
殻のついたひよこを助けて回っている。」
草原に出かけた初心冒険者が簡単に死に、2度と戻らないことが多く
そういう人を助けるために彼女はここを動かず、初心者を導いているのだ。
俺が落ち着いてきたのを見て、彼女は怒り心頭といった様子で
俺を批判してきた。
「それにしてもお前弱すぎるぞ。何を考えているんだ。」
俺があまりにも弱いので初期の職業を考えなしで選んだ子供だと思っているようだ。
回復役のヒーラーや召喚士の単独戦闘など無謀だ。常識だろう。
彼女は吐き捨てた。
彼女は基礎的なことを教えるためにうんざりしながらこう言葉を紡いだ。

「こういう場合、攻撃力が重要だ。火力だ火力、そして魔法より物理だ。
ここいらの雑魚は魔法なんて使ってこない戦士系ならまず余裕だ。」
「それにスライムは見るからに打撃耐性がある。斬るか刺すだろう
フライパンで殴るあほを見たのは初めてだ。」
彼女は軽く絶句しているようだった。
「テイマーなら多勢に無勢でモンスターをぼこれると考えてました。」
「テイマーはペットをゲージにしまって物理系や魔法系とソロでも
状況に合わせて戦えると思ってました。」
浅はかな考えですみませんと付け加える。
「まぁ、確かに言っていることは間違いではない。
ゲーム終盤のエンドコンテンツで最強職はテイマーだろう。」
そうですよね、と俺に同意してくれた彼女に笑顔を向けると、
冷淡にこう放った。
「だがそれは、ペットのスキルやレベル上げに廃人じみた努力が
あってこそだ。将来を考えるならそれなりの覚悟をしておくんだな。」
何かを言い忘れている気がすると言い出した彼女は考え込んでしばらくすると
こう言った。
「自己紹介がまだだったな。『竜騎士』の『露原 樹(つゆはら いつき)』
よろしくな。」
そういうと、俺の手を握り助け起こそうとしてくれた。
だけど俺は薬草の効果で肉体的なダメージは回復していたが
精神的に無気力状態で、腰が抜けて立てなかった。
顔から火が出るほど恥ずかしかったが、それをストレートに言うのは
憚られた。俺が立たずに漏らしたものを始末していると、
まったく気がつかない様子で俺の横に腰を下ろすとポツリとつぶやいた。
「スタミナを回復しないとな。」
俺が立ち上がるまで、そばに座り続けていた。

そいつ、『露原いつき』は俺が人生で初めて『親友』と呼べる存在だった。

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