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初めての一目惚れ②

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「なんなの、仁科さんって。とんでもないゲス野郎ね!」

 話を聞き終えた蘭は、自然と手が握りこぶしを作っていて怒り心頭だ。

「でも、瑠璃子って人が人間性というか正体を教えてくれたようなものだし、早くわかって良かったのよ」
「美桜……」
「私、結局仁科さんのことも好きじゃなかったんだろうね」

 昨日のワイン事件は驚いたものの、仁科さんと恋愛が始まる前に終わってしまったのは、正直なところショックな気持ちははさほどない。
 彼とはもう二度と会うことはないのに、それならそれで仕方ないと思う冷静な自分がいる。

 会っているときは楽しく過ごせていたけれど、恋愛感情には発展していなかったのだ。
 少しでも恋心があったのなら、プロポーズされたときにドキドキしたり嬉しかったりしただろうし、二股、三股されたとわかればショックで胸が痛くなったはずだ。腹が立って、涙を流していたかもしれない。
 でも、最低だな、と心底引いてしまっただけだった。そんなふうに冷静でいられたのは、恋をしていなかった証拠だと思う。

「誰でもいいから適当に相手を見つけて食事に行ってるわけじゃないんだけどね。私って男運悪いよね」

 自虐的にヘラリと笑うと、蘭が心配そうに眉尻を下げた。

「美桜が悪いわけじゃないよ。デートしてみなきゃ、相手のことわからないもん。ていうか今回は完全に仁科が悪いよ。女をなんだと思ってるんだか!」

 仁科、って急に呼び捨てにするから笑いそうになった。蘭の中ではもう敬称を付けて呼べる人ではないようだ。
 仁科さんも三雲さんも恋に発展しそうな前段階までいったものの、そこまでで終わってしまった。
 それを思うと、なんだか最近の私は男運に恵まれていない気がして気持ちが沈む。

 世の中、自分の思うようにならないことも多い、というのはうちの母の口癖だ。その代表格が恋愛や結婚だろう。
 運命の出逢いなんてゴロゴロ転がってるものではないけれど、自分の“男を見る目”に関しては自信喪失になった。

「恋したいよね。好きな人がいるだけで、毎日楽しいもんね」

 何気なく言ってみただけだったけれど、私の言葉で少しだけ蘭の顔が柔らかく微笑んだのを見逃しはしなかった。

「蘭?……え?」
「実はね、好きな人は出来たんだ」

 恥ずかしそうにしながらも笑みを隠せない蘭が本当にかわいい。
 元々美人な上、こんなにかわいい部分を見せられたら、男なら誰でも惹かれるのではないかと思うほどだ。

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