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「顔を合わせるどころか連絡すら取らなくなってたけど、晴瑠のことはずっと応援してたよ。今、バレー選手として大活躍してて本当にうれしい」
「俺も音羽ももう大人だ。ガキだったあのころとは違う」
たしかにあれから五年経っているので、それはそうなのだが。
彼の目力の強さに、違う意味が含まれている気がしてならない。
「そうだね。あのころは私も子どもだったから、晴瑠がどんどん遠くへ行っちゃう気がしてた。バレーで成功する道に進むならよろこばなきゃいけないのに、やっぱりさみしくて。いろんな気持ちが交錯してたの」
私は当時のそんな自分が嫌いだった。
彼が手の届かない人になって置いてきぼりになるのも嫌だったし、だからといって私を優先してバレーをおろそかにしてほしくもなかった。
“あきらめる”なんて自分勝手に決めたけれど、要するに私は向き合うことから逃げだしたのかもしれない。
「今の俺たちに障害になるものはなにもないよな? ランニングの途中、あんな場所で再会するなんて夢にも思わなかった。きっと神様がもう一回チャンスをくれたんだ」
晴瑠が私の肩に手を回し、グイッと自分の方へ引き寄せる。
「“チャンスの神様”は前髪しかないって言うだろ? 俺は二度と後悔したくない」
「晴瑠……」
「もう絶対に逃がさない」
彼の言葉は熱量が高く、臆病な私の心をどんどん溶かしていく。
至近距離でそんなふうに言われたら、気持ちが高ぶって仕方がなくて。ぽろり、と涙がこぼれた。
「俺を好きだって言えよ」
「…………」
「言わないとキスできないだろ」
きちんと言葉にしないとダメなのだ。五年前、そうしなかったから曖昧なままこんなに長く引きずってしまった。
年月だけは過ぎたけれど、私はあのころから一歩も前に進めていない。
「大好き。出会ったころからずっと好き」
まるで熱に浮かされたようにそうつぶやくと、晴瑠が私の後頭部を支えて唇を重ねた。
角度を変えて何度もキスを繰り返したのち、彼の唇がそっと離れていく。
「私、晴瑠のそばにいてもいいんだよね……?」
「逃がさないって言ったろ? それに、今日の試合で証明したじゃないか。音羽の応援があれば俺は無敵だって」
うれしくてハニかみながら笑う私に、晴瑠がもう一度短くキスを落とす。
チュッというリップ音が車内に響いた。
この五年間、それぞれの道を歩んでいた私たち。
切れてしまったと思っていた運命の赤い糸が再び固く結ばれたのだから、もう決して離れることはないだろう。
――― Fin.
「俺も音羽ももう大人だ。ガキだったあのころとは違う」
たしかにあれから五年経っているので、それはそうなのだが。
彼の目力の強さに、違う意味が含まれている気がしてならない。
「そうだね。あのころは私も子どもだったから、晴瑠がどんどん遠くへ行っちゃう気がしてた。バレーで成功する道に進むならよろこばなきゃいけないのに、やっぱりさみしくて。いろんな気持ちが交錯してたの」
私は当時のそんな自分が嫌いだった。
彼が手の届かない人になって置いてきぼりになるのも嫌だったし、だからといって私を優先してバレーをおろそかにしてほしくもなかった。
“あきらめる”なんて自分勝手に決めたけれど、要するに私は向き合うことから逃げだしたのかもしれない。
「今の俺たちに障害になるものはなにもないよな? ランニングの途中、あんな場所で再会するなんて夢にも思わなかった。きっと神様がもう一回チャンスをくれたんだ」
晴瑠が私の肩に手を回し、グイッと自分の方へ引き寄せる。
「“チャンスの神様”は前髪しかないって言うだろ? 俺は二度と後悔したくない」
「晴瑠……」
「もう絶対に逃がさない」
彼の言葉は熱量が高く、臆病な私の心をどんどん溶かしていく。
至近距離でそんなふうに言われたら、気持ちが高ぶって仕方がなくて。ぽろり、と涙がこぼれた。
「俺を好きだって言えよ」
「…………」
「言わないとキスできないだろ」
きちんと言葉にしないとダメなのだ。五年前、そうしなかったから曖昧なままこんなに長く引きずってしまった。
年月だけは過ぎたけれど、私はあのころから一歩も前に進めていない。
「大好き。出会ったころからずっと好き」
まるで熱に浮かされたようにそうつぶやくと、晴瑠が私の後頭部を支えて唇を重ねた。
角度を変えて何度もキスを繰り返したのち、彼の唇がそっと離れていく。
「私、晴瑠のそばにいてもいいんだよね……?」
「逃がさないって言ったろ? それに、今日の試合で証明したじゃないか。音羽の応援があれば俺は無敵だって」
うれしくてハニかみながら笑う私に、晴瑠がもう一度短くキスを落とす。
チュッというリップ音が車内に響いた。
この五年間、それぞれの道を歩んでいた私たち。
切れてしまったと思っていた運命の赤い糸が再び固く結ばれたのだから、もう決して離れることはないだろう。
――― Fin.
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