羽化の囁き

神楽冬呼

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第8話 結実(注※R18)

「うわあ…すごい」
部屋で開けた救急箱はもはや救急箱ではなく、緊急医療処置セットだった。
精製水に消毒液にゴム手やドレープ、注射器一式に点滴器具、点滴に使うブドウ糖輸液まであるし、鉗子、剪刀、メス、縫合セット、ガーゼ、綿棒などは滅菌パックされている。
(これは重いはずだ…)
と言うか、もう手術してしまうのか?と問いたくなる品揃えである。
とりあえずマスクをつけ良く手を洗い、消毒してからゴム手袋をはめる。
ドレープを広げ、その上で滅菌ガーゼを開け、消毒液に浸した。
「…慣れてますね」
一連の流れを見ていた要が呟く。
「要くん、私が里子に出されていたの知ってるよね?養父母が診療所を経営してたの」
「ええ、火災で…」
「うん、そう。そこでね、よく手伝ってたの」
鉗子で摘んだガーゼで幹部を消毒する。
深く刺さっているように見えたけど、傷は塞がって見える。
「…将来は継ぎたいなって思ってた」
10歳の頃、とある老夫婦が葵を養子にと施設から引き取ってくれた。
子がなく、診療所を継ぐ後継者が欲しいとのことだった。
優しく穏やかな夫婦でとても可愛がってくれていたが、学校から帰宅すると診療所兼住居は燃えていた。
老夫婦も焼死、また何もなくなった。
あの頃から、何かを失う事に慣れてしまった気がする。
全て、何においても、得る事ができるものはいつか失うものなんだと、思っていた。
だから、要に対する執着を自分の中に感じた時に、戸惑ったのだ。
失いたくない、奪われたくないと思う独占欲や嫉妬、そんな感情に振り回されるなんて思ってもみなかった。
「あとは、包帯巻いて終わり」
縫合テープを貼り終わり、葵は包帯を手にする。
「こう言うのもいいですね」
向かい合い包帯を巻く葵に要がしみじみと言う。
「架南も手当てしていたでしょう?」
架南の能力は治癒だった。
葵は多少の能力の覚醒はあるが、自分への負荷をコントロールできず、能力を使う事は止められている。
「架南のそれは一瞬のことで、こうして包帯を巻いて貰うことはありませんでした」
要はそう言うと少し寂しそうに笑う。
包帯を巻き終わり顔を上げると、真っ直ぐに見つめる要と視線がぶつかった。
「できることなら、他の人にはして欲しくないですね…手当て」
「………?」
「手つきが微妙に色っぽい」
要が葵の手を取り、ゴム手袋を外す。
それが少しくすぐったい。
「ゴムを通して触れる指先が焦らされているようだ」
甘く静かに響く要の声が胸の中の何かを刺激する。
そこから生まれる熱が現れるかのように、頬が熱くなるのを葵は感じた。
要は形の良い唇の端にそっと笑みを乗せると、葵の手を口元へと運ぶ。
指に触れる要の唇が、ひんやりと冷たい。
伏せられた瞳を縁取る、要の長い睫毛に葵は見惚れた。
要の唇が指先へと進み、人差し指に舌が触れる。
「……っ」
ぞくりと下腹部に何かが込み上げ、葵は慌てて手を引いたが、要が手を離さなかったので思いがけず距離が縮まった。
至近距離で見つめる要の瞳から目をそらせない。
「…要くん、私ね」

胸の中に宿る熱は甘く切ない。
膨らんで膨らんで、どんどん熱を帯び、破裂してしまいそう。
伝えることで、解放できるのだろうか。
自分の中で何かが変わるだろうか。
この熱情のやり場を得るのだろうか。

「要くんをもっと知りたい…」
要が僅かに目を見張る。
鼓動が急激に速さを増す。
伝えたくても、今まで口にできなかった。
秘密を抱えた要を困らせるのではと、思ったりもした。
だけど、きっと知りたいのはそこではない。
嫉妬にまみれて、よく分かった。
すべが、違う。
知りたいのは、秘密ではなく、肌の温度や熱情、そこから感覚で得られる要の気持ち。
言葉だけではなく、感覚から得たいのだ、確信を。
体がそう求めてる。
驚いている様子だった要の瞳が細められ、頬が柔らいだ。
更に身を寄せ、両手で包みこむように葵の頬に触れる。
「オレも…葵さんを知りたい」
唇が寄せられ、唇の温度を感じる間も無く舌が触れた。
要の舌の動きに応えるように、葵は舌を絡ませる。
ぞくぞくと沸き起こる体の奥の何か。
以前はそれがわからなくて、感じる事が怖かったけれど、今は違っていた。
この感覚を失いたくない…
もっと深く、その感覚の奥深くに入り込みたいと思ってしまう。
何度唇を合わせてもわからない息の継ぎ間、互いの熱い吐息を交わす。
いつもよりも長い口付けに、葵は夢中になり要の腕を掴んだ。
指先にざらりとした包帯の感触…
「…あっ」
慌てて唇を放す。
「ごめんなさい、怪我してるのにっ」
「葵さん…」
体を離そうとする葵の肩を要が掴んで止める。
「今更、もう無理ですよ」
熱を込めた真摯な瞳に貫かれる。
その言葉の意味が葵にはよく分かった。
体の芯が熱い。
葵は頷いて要の首筋に手を回した。


ベットに座り対峙する。
要が葵の髪に触れ、ついばむようなキスをした。
緊張を解きほぐすような、優しく柔らかい口付けを交わしながら、要の手が葵のシャツのボタンを外していく。
一つ一つ外されていく度に胸が高鳴り、吐息が乱れた。
要の指が鎖骨をなぞるように肩へ流れ、シャツが肌を滑ると、要の手がそれを追うように葵の腕を下りた。
袖口から葵の手を抜き取ると口付けが止み、要もシャツを脱いだ。
細身だかしっかりと筋肉のついた体が現れ、葵は目をそらす。
男性の裸を間近に見たことはあったけれど、要の体は驚くほど綺麗に見えて直視できない。
急に自分の体が要にどう見えているか、不安になった。
最近は、ブラもショーツもキャミソールもセットで身に付けるようにしているし、今日身につけているものはお気に入りの可愛いデザインだし、それは大丈夫なんだろうけど…
(脱ぐ…のよね)
改めて裸を見せるとなると、かなり恥ずかしい。
その不安を読み取ったように、要が逸らした葵の頬に手を滑らせ身を寄せると、耳朶へとキスをする。
「キスする場所や部位によって、意味や男性心理が異なることを知ってますか?」
頬から頸へと、頸から肩へ、要の指が触れるか触れないかの距離で移動し、キャミソールとブラ紐を肩から外した。
「耳へのキスは誘惑…」
耳元で囁かれる声に沸き起こるリビドー。
耳朶から首筋へ下りた口付けに、葵が小さな吐息を漏らすと、そっとベットに押し倒された。
要を見上げ葵は瞳を揺らす。
今まで何度も何度も、そうやって要の視線を受け止めてきたのに、今日は何だかいつもと違う。
自分の中にある熱量が違うだけで、見えるものも変わるのだろうか。
それとも、熱っぽく見える要の瞳は、自分と同じ熱を内に抱えているからなのだろうか。
口付けを受け、要の熱い舌に舌を絡め取られる。
要の左手が葵の柔らかな胸の膨らみを掴み、葵は息を呑んだ。
くすぐったさの中にある僅かな気持ち良さ。
今まで感じた事のない感覚だった。
そして、要の口付けが唇から首筋へ、首筋から鎖骨の間を抜け下りていく。
「あっ…」
思わず葵の声が上がる。
アンダーバストに触れた指先がなぞるように食い込み、ぞくりと快感が走ったかと思うと、頂きに舌が絡みついた。
下腹部から突き抜ける快感に背中が反る。
更に、要の右手が太腿に触れ、内へ内へと移動していく。
自分の声とは思えない甘くねっとりとした声が溢れて止まらない。
もう快感と気恥ずかしさの中、訳がわからなくなっていた。
要の指がショーツの中に入り、秘部に触れ、じっとりとした熱を含んだひだの割れ目に指先が入り込んだ。
「……っ!」
電流のような刺激が触れられた部位に走り、腰が浮く。
触れられるたびにそれが繰り返され、葵は吐息と一緒に声をあげた。
足の指先が痺れた様に震えて、下腹部の熱が込み上げてくる。
「…もう、ダメ」
堪らず葵は要の腕を掴んだ。
「慣らさないと、痛いですよ…」
要が葵の耳元へと囁きながら、中指をゆっくり膣へと突き入れた。
「…っい」
異物が入る違和感に、一瞬頭の中が鮮明になり、葵は要の背中にしがみつくように手を回す。
「ほら…」
気遣うような声が少し切ない。
通常の手順がどうなのかわからないけれど、きっと手間をかけて愛撫してくれている。
要に、処女であることは言っていない。
勘付いてはいるのに、尋ねてはこない。
そんなにどちらでも構わないと示すかの様に…
大切にされているのがわかる。
指が優しく中をかき回す…奥へ奥へ進みながら。
「んんっ…」
指先にぐっと力を込められた瞬間、じんわりとした快感が湧き上がる。
腰に力が入らないのに、指の動きに合わせて腰が浮く。
「葵さん、力を抜いて…」
どこの力を抜けばいいのかわからず、葵は小さく首を振る。
「指を増やしますよ」
そう言うと、鈍い痛みと共に圧迫感が増した。
指先が内部で擦り上げる度に、膣の奥から何かが沸き起こる。
(なに、これ…気持ちいい)
声を吐き出しているのか、息を吐き出しているのか、葵は分からず乱れた呼吸を繰り返した。
下腹部で沸き起こる何か、それが膣の奥からくるものなんだと葵は知る。
「…ああっ!」
込み上げて込み上げて、行き場を失った熱が放出されるように、快感が頭の芯を突き抜けた。
体の奥、膣の内部が痙攣している。
弛緩した筋肉が緩むように、体中から力が抜けるのがわかった。
要が唇を塞ぎ、葵の小刻みに震える太腿を持ち上げる。
労わるような柔らかいキスにうっとりと葵は目を細めた。
何も考えられない。
深く唇を分け入ってくる口付けに、応えようとした時、膣口に圧を感じた。
「……ん、…っあ」
指より大きく太い熱が、分け入る。
鈍い痛みに葵は目を固く閉じ、要の背中を強く掴んだ。



「葵、ゆっくり息を吐いて」
要の声が近くて遠い…
緩々と葵は息を吐く、それに合わせて要が更に奥へと押し進めた。
(…痛いし、熱い)
粘膜が引き延ばされるような鈍い痛みに、背筋に嫌な汗が滲む。
口を閉じ歯をくいしばる葵の頬に要が口付ける。
「全部、入りましたよ」
ゆっくりと目を開けると優しい要の微笑み。
「……ほんと?」
「まだ終わりではないですけどね」
そう言う要の頬が薄っすら色づいて見えて、葵はなぜかホッとした。
要の熱、紅潮、気持ちの高鳴り、繋がった部分からも感じられる。
「…要くん、愛してる」
じんじんと滲むような痛みも、全てが愛おしい。
要は頬をほころばせ微笑むと、コツンと葵の額に自分の額を合わせた。
「その何倍も愛してます」
頬に触れる要の手のひらがいつもより熱い。
「これからをしっかり、教えていきますね」
葵はその言葉の意味をこの後に知ることとなった。
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