婚約破棄された公爵令嬢ですが、家族も元婚約者もすべて失いました

あう

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第12話 崩れゆく家族の仮面

第12話 崩れゆく家族の仮面

 セリシアの言葉が大広間に響いた瞬間、空気が一変した。

「ですが、これは始まりに過ぎません。次にお話しするのは――私を悪女に仕立て上げるために行われた、組織的な捏造と不正についてです」

 その一言に、継母エルヴィラの手にしていた扇子が、かすかに震えた。

「……何を馬鹿なことを。セリシアさん、いい加減になさい。これ以上の虚言は、ルヴァリエ家の名誉を傷つけるだけですよ」

 エルヴィラは気丈に言い放つが、その額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

「名誉、ですか」

 セリシアは静かに微笑んだ。

「その言葉を口にする資格が、あなたにございますか? お義母様」

「なっ……!」

 動揺するエルヴィラをよそに、セリシアは国王へ向き直る。

「陛下、さらに証人をお呼びしてもよろしいでしょうか」

「……許可する」

 国王の低い声に応じて、大広間の扉が再び開かれる。

 入ってきたのは、王国の財務監査官と数名の文官、そしてルヴァリエ公爵家の元会計係だった。

「彼らは、ルヴァリエ公爵家における財務不正について調査を行った者たちです」

 会場がざわめく。

「財務不正……だと?」

 父アルドリックの顔色が一気に青ざめた。

 最初に進み出た財務監査官が、厳かな声で報告する。

「王国財務監査局所属、バルフォアと申します。我々の調査により、ルヴァリエ公爵家の資金の一部が不正に流用されていたことが判明いたしました」

「そ、それは誤解だ!」

 アルドリックが声を荒らげる。

「誤解ではございません」

 監査官は冷静に書類を掲げた。

「これらは、公爵家の資金が継母エルヴィラ様の私的口座へ移されていた記録です。また、その資金の一部は、貴族への贈賄や虚偽の証言を依頼するために使用されていました」

「ば、馬鹿な……!」

 エルヴィラの顔が蒼白になる。

 続いて、元会計係の男性が震える声で証言した。

「わ、私はエルヴィラ様の指示で帳簿の改ざんを行いました……。逆らえば解雇すると脅され、やむなく従ったのです」

「黙りなさい! その者の言葉はすべて嘘です!」

 エルヴィラが叫ぶが、その声にはもはや威厳はなかった。

 セリシアは静かに言葉を重ねる。

「さらに、お義母様は私を社交界から孤立させるため、虚偽の噂を流しました。私が使用人を虐待しているという話も、その一つです」

 その言葉に応じるように、数名の元使用人たちが前へ進み出た。

「セリシア様は、私たちに常にお優しく接してくださいました。虐待など、一度たりともございません」

「虚偽の証言を強要されたのは事実です。断れば家族に危害を加えると脅されました」

 証言が重なるたびに、会場の貴族たちの視線はエルヴィラへと突き刺さっていく。

「ひどい……」

「なんという悪辣さだ……」

 ささやき声は、もはや隠されることなく広がっていった。

 セリシアは、最後に父アルドリックへと視線を向ける。

「お父様。あなたはこれらの不正をご存知でしたね?」

「わ、私は……その……」

 アルドリックは言葉を失い、視線をさまよわせる。

「エルヴィラに任せていただけだ! 私は関与していない!」

 必死の弁明に、セリシアは静かに首を振った。

「ですが、お父様はすべての書類に署名をなさっています。公爵としての最終責任は、あなたにございます」

 そう言って差し出された書類には、確かにアルドリックの署名が記されていた。

「そ、そんな……」

 膝から力が抜け、アルドリックはその場に崩れ落ちた。

 四面楚歌――。

 もはや彼らを庇う者は、誰一人としていなかった。

 国王は深く息を吐き、厳しい眼差しで彼らを見据える。

「レオンハルト、そしてルヴァリエ公爵アルドリックとエルヴィラ。この件について、もはや弁明の余地はあるまい」

 重々しい沈黙が流れる。

 ミレイナは涙を流しながら首を振り、エルヴィラは蒼白な顔で立ち尽くし、アルドリックは崩れ落ちたまま動けない。

 その様子を見つめながら、セリシアは静かに目を閉じた。

 かつて家族であった者たち。

 しかし、彼らは自らの欲望のために彼女を切り捨てた。

 そして今、その報いを受ける時が来たのだ。

 セリシアは再び目を開き、凛とした声で告げる。

「以上が、私に対して行われたすべての陰謀の真実でございます」

 その言葉は、大広間に厳かに響き渡った。

 断罪の舞台は整い、あとは王の裁きを待つのみとなったのである。
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