婚約破棄された公爵令嬢ですが、家族も元婚約者もすべて失いました

あう

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第15話 それぞれの末路

第15話 それぞれの末路

 王宮の夜会から数日後――。

 王都ヴァルディアでは、セリシア・ルヴァリエが新たに公爵として就任したという話題で持ちきりだった。同時に、断罪された四人のその後についても、社交界の関心は尽きることがなかった。

 ルヴァリエ公爵邸の執務室。

 広々とした部屋の中央で、セリシアは整然と積み上げられた書類に目を通していた。かつて父が座っていた執務机に腰掛ける姿は、すでに一人の当主としての風格を備えている。

「セリシア様、本日の報告書をお持ちいたしました」

 執事ハロルドが恭しく一礼し、数通の書簡を差し出した。

「ありがとう、ハロルド」

 セリシアは微笑みながらそれを受け取る。

 最初の書簡には、元王太子レオンハルトの処遇について記されていた。

「……辺境の離宮へ移送、ですか」

「はい。王族としての身分は降格され、外部との接触も厳しく制限されているとのことです」

 ハロルドの説明に、セリシアは静かに頷いた。

 かつて“真実の愛”を掲げていた彼は、今や孤独な生活を送ることとなった。権力も名誉も失い、自らの過ちと向き合う日々が続くのだろう。

 次に手に取った書簡には、ミレイナのその後が記されていた。

「修道院への収容……」

 そこには、質素な生活と厳しい規律の中で、彼女が現実を受け入れられず取り乱している様子が報告されていた。

「わたくしが王太子妃になるはずだったのに……」

 そんな言葉を繰り返しているという。

 セリシアは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに表情を戻した。

「すべては、自ら選んだ結果ですわね」

 三通目の書簡には、継母エルヴィラについての報告があった。

「投獄後も、自らの罪を認めようとはせず、周囲に責任を押し付けているようです」

 かつて社交界で権勢を誇っていた彼女も、今やすべてを失い、冷たい石の壁に囲まれた生活を送っている。

 そして最後の書簡――父アルドリックについて。

「強制労働刑……」

 誇り高き公爵であった男は、身分を剥奪され、過酷な労働に従事しているという。

 セリシアは静かに書簡を閉じた。

「お嬢様……」

 ハロルドが心配そうに声をかける。

「お気遣いありがとう、ハロルド。ですが、私は大丈夫ですわ」

 セリシアは穏やかに微笑んだ。

「彼らは家族でした。ですが同時に、私を裏切り、陥れた者たちでもあります。今はただ、それぞれが自らの罪と向き合い、償っていくことを願うばかりです」

 その言葉には、憎しみではなく、すべてを乗り越えた者の静かな強さが込められていた。

 そこへ、侍女マリアが嬉しそうな表情で入室する。

「セリシア様、帝国のカイル皇子殿下がお見えです」

「まあ、カイル殿下が?」

 セリシアの表情が柔らかくなる。

 応接室へ向かうと、カイルが穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

「突然の訪問をお許しください、セリシア公爵」

「ようこそお越しくださいました、カイル殿下」

 二人は優雅に挨拶を交わし、席に着く。

「本日は、正式にお祝いを申し上げたく参りました。公爵就任、誠におめでとうございます」

「ありがとうございます。殿下には、どれほど感謝してもしきれません」

 カイルは一瞬言葉を選ぶように沈黙した後、真剣な眼差しでセリシアを見つめた。

「そしてもう一つ、個人的なお話をさせていただきたいのです」

 セリシアは静かに頷く。

「私は、貴女と王国と帝国の未来を共に築いていきたいと考えています」

 その言葉の意味を理解し、セリシアの胸が高鳴る。

「それは……」

「すぐにお答えをいただく必要はありません。ですが、私の想いをお伝えしておきたかったのです」

 誠実で真っ直ぐな想い。

 セリシアは微笑みながら答えた。

「ありがとうございます、カイル殿下。公爵としての責務を果たしながら、ゆっくりと考えさせていただければ幸いですわ」

「ええ、それで十分です」

 二人の間に、穏やかで温かな空気が流れる。

 窓の外には、明るい陽光が王都を照らしていた。

 すべてを失った者たちの物語は終わり、新たな未来への扉が開かれている。

 セリシア・ルヴァリエ公爵の人生は、復讐ではなく希望と共に進んでいく――。

 その確かな一歩が、今、刻まれたのだった。
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