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第一章 内務長官編
第15話 イリスの死
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総統室で執務をおこなうニクティスのもとに急報が舞い込んできた。
「総統閣下、至急申し上げたいことがあるとアニス様が参っております」
アニスと言う名前を聞いたニクティスは険しい顔つきに変わった。どうやら来てしまったようだ。
「通せ」
「はっ」
許可を得たアニスは取り次ぎに連れられ総統室にやってきた。総統室に入ったアニスは敬礼をする。
「総統閣下、お久しぶりにございます」
「元気だったか。君もすっかり出世したね」
「ありがとうございます。不肖の息子ゆえ、佐官としての務めをこなすのが精一杯な日々を送っております」
「ぜひその調子で励んでくれ。それで、今日はどうしたのかね?」
「はっ、精進いたします。その・・・大変申し上げにくいのですが、昨日、我が父イリスが他界しました」
「そうか・・・」
ニクティスは思わず天を仰いだ。覚悟をしていたが、いざ現実になると衝撃は計り知れないものがあった。ああ、私を残して逝ってしまうのかと。
「つきましては、これが父からの遺言です」
アニスは一封の封筒を差し出し、ニクティスがそれを受け取る。
「ありがとう。これは一人の時に読みたいと思う。イリスの葬儀だが、国葬として一週間後に執り行う。これからその旨を公布しよう。今は家のことに専念するといい」
「ご配慮いただきありがとうございます。それでは失礼いたします」
アニスは敬礼して去っていった。総統室に一人残ったニクティスは遺言を手に取るのであった。
◇◇◇◇◇
敬愛すべき友、ニクティスへ
残念ながら僕はここまでのようだ。これをもって大恩あるサミュエル連邦への最後の奉公としたい。
知っての通り、現在の我が国はウェスタディア帝国、シャルナーク王国と敵対関係にある。その一方で、ベオルグ公国は形こそ他国だが、実態は我が国の領土と言えるだろう。
この状況を踏まえ、僕は一つの策を進言したい。最も時間をかけずに大陸統一を成し遂げられる策だと思っている。
順番に説明しよう。手始めにベオルグ公国を我が国の領土に取り込む必要がある。元首であるクレールに領土を増やそうという野心はない。むしろ保身のみを考える小物だ。身分を保証したうえで見返りを渡せば大いに叶うことだろう。
次にベオルグ公国の隣国であるツイハーク王国を征服する。ここでウェスタディア帝国が救済に出てくるようであれば無理に攻めなくてもいい。計略をもって対抗すればいい。
その次に攻めるのがシャルナーク王国だ。その頃には我が国の圧倒的な物量で攻め滅ぼすことができるだろう。もし、シャルナーク王国がその前に力をつけるようなら、ツイハーク王国より先に滅ぼしてもらってもかまわない。もっとも、シャルナーク王国は前の戦いで消耗しているはずだからそんなことは起こらないと思う。あまり心配しなくていいだろう。
最後は、ウェスタディア帝国との戦いに終止符を打つだけだ。きっとこの国なら統一を成し遂げられることだろう。これを書き残すことが元帥としての僕にできる最後の仕事だ。
ここからは僕の独り言だと思ってほしい。君と初めて出会ったのは、サイオンジ先生の私塾だったね。サイオンジ先生を見送った日をつい昨日のことのように思い出すよ。そして、今度は僕の順番らしい。僕の次はきっと君の番だろう。
前に君が見舞いに来てくれたあと、僕なりにこの国の在り方を考えたんだ。そして、一つの結論にたどり着いた。この国を新しく形作っていくのは、きっと僕たちとはまた違う才能を持った若者なのではないかってね。
ニクティス、もうこの国を若い者に任せても良いのではないかな。一緒に後進の成長を見守ろうじゃないか。もし隠居を決めたのなら、僕の策を後進に伝えるかは君に任せる。さて、僕は一足先にサイオンジ先生のもとへ行くけど、ニクティスは焦らずゆっくり来るといい。忙しい君がわざわざ僕の家に来てくれたこと、僕は一生忘れない。僕はいつでも君とともにある。ありがとう。また来世で会おう。
イリス
◇◇◇◇◇
ニクティスの持つ一枚の紙は、すっかり涙で湿っていた。部屋に一人の男の熱い叫びが響く、まるで亡き友への鎮魂歌を奏でるように。
「総統閣下、至急申し上げたいことがあるとアニス様が参っております」
アニスと言う名前を聞いたニクティスは険しい顔つきに変わった。どうやら来てしまったようだ。
「通せ」
「はっ」
許可を得たアニスは取り次ぎに連れられ総統室にやってきた。総統室に入ったアニスは敬礼をする。
「総統閣下、お久しぶりにございます」
「元気だったか。君もすっかり出世したね」
「ありがとうございます。不肖の息子ゆえ、佐官としての務めをこなすのが精一杯な日々を送っております」
「ぜひその調子で励んでくれ。それで、今日はどうしたのかね?」
「はっ、精進いたします。その・・・大変申し上げにくいのですが、昨日、我が父イリスが他界しました」
「そうか・・・」
ニクティスは思わず天を仰いだ。覚悟をしていたが、いざ現実になると衝撃は計り知れないものがあった。ああ、私を残して逝ってしまうのかと。
「つきましては、これが父からの遺言です」
アニスは一封の封筒を差し出し、ニクティスがそれを受け取る。
「ありがとう。これは一人の時に読みたいと思う。イリスの葬儀だが、国葬として一週間後に執り行う。これからその旨を公布しよう。今は家のことに専念するといい」
「ご配慮いただきありがとうございます。それでは失礼いたします」
アニスは敬礼して去っていった。総統室に一人残ったニクティスは遺言を手に取るのであった。
◇◇◇◇◇
敬愛すべき友、ニクティスへ
残念ながら僕はここまでのようだ。これをもって大恩あるサミュエル連邦への最後の奉公としたい。
知っての通り、現在の我が国はウェスタディア帝国、シャルナーク王国と敵対関係にある。その一方で、ベオルグ公国は形こそ他国だが、実態は我が国の領土と言えるだろう。
この状況を踏まえ、僕は一つの策を進言したい。最も時間をかけずに大陸統一を成し遂げられる策だと思っている。
順番に説明しよう。手始めにベオルグ公国を我が国の領土に取り込む必要がある。元首であるクレールに領土を増やそうという野心はない。むしろ保身のみを考える小物だ。身分を保証したうえで見返りを渡せば大いに叶うことだろう。
次にベオルグ公国の隣国であるツイハーク王国を征服する。ここでウェスタディア帝国が救済に出てくるようであれば無理に攻めなくてもいい。計略をもって対抗すればいい。
その次に攻めるのがシャルナーク王国だ。その頃には我が国の圧倒的な物量で攻め滅ぼすことができるだろう。もし、シャルナーク王国がその前に力をつけるようなら、ツイハーク王国より先に滅ぼしてもらってもかまわない。もっとも、シャルナーク王国は前の戦いで消耗しているはずだからそんなことは起こらないと思う。あまり心配しなくていいだろう。
最後は、ウェスタディア帝国との戦いに終止符を打つだけだ。きっとこの国なら統一を成し遂げられることだろう。これを書き残すことが元帥としての僕にできる最後の仕事だ。
ここからは僕の独り言だと思ってほしい。君と初めて出会ったのは、サイオンジ先生の私塾だったね。サイオンジ先生を見送った日をつい昨日のことのように思い出すよ。そして、今度は僕の順番らしい。僕の次はきっと君の番だろう。
前に君が見舞いに来てくれたあと、僕なりにこの国の在り方を考えたんだ。そして、一つの結論にたどり着いた。この国を新しく形作っていくのは、きっと僕たちとはまた違う才能を持った若者なのではないかってね。
ニクティス、もうこの国を若い者に任せても良いのではないかな。一緒に後進の成長を見守ろうじゃないか。もし隠居を決めたのなら、僕の策を後進に伝えるかは君に任せる。さて、僕は一足先にサイオンジ先生のもとへ行くけど、ニクティスは焦らずゆっくり来るといい。忙しい君がわざわざ僕の家に来てくれたこと、僕は一生忘れない。僕はいつでも君とともにある。ありがとう。また来世で会おう。
イリス
◇◇◇◇◇
ニクティスの持つ一枚の紙は、すっかり涙で湿っていた。部屋に一人の男の熱い叫びが響く、まるで亡き友への鎮魂歌を奏でるように。
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