シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~

葵刹那

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第一章 内務長官編

第21話 帰国・・・そして結婚!?

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 サミュエル連邦の新総統就任を見届けた俺たちは、往路と違う道を進み、クヌーデル城を経由して王都ヘルブラントに戻ってきた。

「もうすぐヘルブラントじゃな」

「ああ、長いようで短かった旅だった」

 旅の終わりというと楽しい想い出が多く駆け巡るものだろうが、俺の心中はあまり穏やかではなかった。あまりにも鮮烈なシリウスの演説が頭から離れないのだ。就任早々ベオルグ公国を追い込む通貨供給の停止を宣言する。その意味がわかる者なら、ベオルグ公国が悲惨な末路を辿るのは容易に想像できる。ベオルグ公国が滅亡したらどうなるのか。それはサミュエル連邦一強を意味する。そうなってしまったら我が国単体で対抗することは非常に難しい。取りうる策は連合軍を組み、同時攻撃で叩くくらいだ。それでも勝てるかどうかはわからない。こうなってしまった以上、サミュエル連邦の体制が定まらない今のうちに出兵することも考えなくてはならない。そんなことを考えながらヘルブラントに向けて馬を進める。

「おぬし、ずっと考え事をしておるな」

 ナルディアが指摘する。

「そうだな」

「ジークよ、そんなに状況が悪いのかのう?」

「まだ悪くない。でも、これから悪化するかもしれない」

「そうであれば、急ぎ父に知らせようぞ」

「ああ、そうだな」

ーーーーー

 俺たちはヘルブラントに戻ってきた。町の発展具合でいえばサミュエル連邦の首都ミスリアと雲泥の差がある。その差を改めて実感するわけだが、故郷というだけで愛着が湧くものだ。隣を進むナルディアもきっと同じような気分になっていることだろう。

 荷物を置きに我が家へと戻る。俺たちの帰還を知ったハンゾウたちが集まってくるが、積もる話は後にして城へと向かった。城に着くと、門衛を顔パスで通過する。すぐにティアネスのいる王宮へ向かった。

「国王陛下、ご無沙汰しております」

「ジーク、ナルディア、待っておったぞ。ちゃんと見聞を広めることが出来たか?」

「はっ、多くを知ることができました」

「うむ、余はとても楽しかったぞ」

「そうかそうか、それは良かった。しかし、おぬしが旅に出たの同時期にあのイリスが死ぬとは・・・。これで枕を高くして眠ることができるわ」

 イリスの死はミシェルが知っていたように間者によってこのシャルナーク王国にももたらされている。

「父上、それがそうも行かぬのじゃ」

「なにかあったのか?」

「ナルディア、ここは俺が説明しよう」

 ナルディアは頷いて承諾の意思を示す。俺はティアネスに対して、新総統シリウスのことを話した。また、ミスリアで目の当たりにした都市の発展状況も併せて報告する。報告を聞いたティアネスは渋い顔をするのであった。

「まさかサミュエル連邦がそこまで進んでおるとは・・・」

「率直に申し上げて、首都だけを見れば我が国は足元にも及ばないでしょう。幸いにして、ミスリアを除いた都市は我が国と大差ありません。早急に叩いておく必要があるかと」

 うーむと唸るとティアネスは黙考し始めた。俺とナルディアは固唾を呑んで見守る。しばらくしてティアネスはゆっくりと目を開いた。

「ジーク、一年でどうだ?」

 これは一年後に出兵するという意味だろう。

「頃合いかと」

 まだ間の戦いから時間が経っていない。兵士の練度を高める意味でも内政を進める意味でもすぐ攻めるわけにはいかない。1年後であれば俺も十分に準備ができる。さっそくティアネスに提案してみることにした。

「国王陛下、お願いがあります」

「ほう、おぬしの願いであれば何でも聞こうではないか」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして申し上げます。私にナミュール城をお預けいただけませんか」

 ナミュール城はヘルブラントの北側に位置する城である。有事の際はヘルブラントを守る最終障壁として機能することになる。ティアネスは心底驚いた顔をしていた。そして、なぜかナルディアも驚愕している。そういえば、俺の計画を話したことなかったっけ・・・。あとで怒られそうな予感がする。

「おぬしにナミュール城を任せるのは構わんのだが、その真意を教えてくれ」

「もちろんです。真意というほどのものではないですが、直属の部隊を作りたいと思います」

 俺が鍛える直属の精鋭部隊と言ったところだろう。

「なるほど、その拠点としてナミュール城を使いたいというわけじゃな」

「おっしゃる通りです」

「そう言うことならワシも賛成だ。ナミュール城をおぬしが守ってくれるなら安心して眠れるわい。内務長官としての仕事はどうする?」

「そのまま兼任したいと思います。ナミュール城とヘルブラント城との距離もそう遠くありませんので。必要があれば私にご連絡いただくというのでどうでしょうか?」

「うむ、異存はない。あとはどのくらいの兵が欲しい?」

「ここから1万ほど率いて参りたいと存じます」

「1万だけで良いのか?」

「この1万は精鋭部隊でなくてはいけません。数が多くても烏合の衆ではだめなのです。その代わり、選りすぐりの兵をお与えください」

「わかった。メイザース将軍に選抜させよう」

「ありがとうございます。それでは早速準備にかかりたいと思います」

 俺は早速準備に入るため、王宮を後にしようとする。

「おい、ジーク」

 ナルディアが呼び止める。

「ん?」

「おぬし、ミシェルのことを忘れておるではないか」

 あ、そういえばそうだった。ナルディアに説明を任せるとしよう。俺は両手を合わせてお願いするポーズをとる。やれやれとした表情でナルディアは応じてくれた。

「・・・というわけなのじゃ」

 ティアネスはコクコクと何度も頷いていた。

「女王の妹が潜入とは、なかなか思い切ったことをする国ではないか」

 ティアネスはガハハと大笑いしていた。ミシェルの大胆な行動がティアネスのツボにハマったらしい。気に入ったと見て間違いない。


「なかなかに愉快な話を聞いたわ。それでワシが書状を書けば良いのか?」

 これは判断に迷う話である。俺はチョイチョイと手招きしてナルディアを呼ぶ。

「どうする?」

「うーむ、ミシェルが先に送ってくるのではないか?」

 俺とナルディアがヒソヒソと話す様子をティアネスはニヤニヤしながら見ていた。

「だよな。俺もミシェルが動いてる気がするんだよ」

「しばらく待ってこなければこちらから動くというのでどうじゃ?」

「そうだな。そうしよう」

 話し合いが終わった俺たちは、協議結果をティアネスに伝える。

「そうか、わかった。ツイハーク王国からの使者を待つとしよう。にしてもおぬしら・・・だいぶ仲良くなったな」

 ティアネスはズバッと指摘する。確かに旅に出る前と後だとだいぶ距離感が変わっている。俺がなんて返そうかと思っているとナルディアが突拍子もないことを言いだした。

「うむっ、ジークは余の婿になるのだからな」

 こうして、嵐の前触れともいえる爆弾をナルディアは投下するのであった。俺の心が一瞬にして凍り付いた。決してナルディアが嫌いというわけではない。だが、実の父親の前で言うとは思わなかった。もしかして、ミシェルへの対抗意識か?ティアネスは一瞬困惑した表情を見せたが、なぜか嬉しそうである。

「う、うむ・・・ナルディアがそう申しておるが・・・ジークはどうじゃ?」

「ありがたいお話ですが、いまは国難のとき。いましばらくは返答を控えたいと思います」

 なんとか保留にさせようととっさに放った一言だったが、ナルディアの不興を買ったようだ。ナルディアが恨みがましそうな目線を送っている。ティアネスも残念そうな表情をしている。

「ジークよ、近う寄れ」

 ティアネスに呼ばれて王座の近くに寄る。

「おぬし、ナルディアを貰う気はないか?」

 ティアネスがヒソヒソと衝撃的なことを告げる。

「えっ!?」

 思わず声が漏れた。どうやらティアネスも俺と結婚してほしいようだ。

「し、失礼しました。ですが、なぜ・・・」

 ティアネスは大きくため息をついて過去の話をし始める。どうやらナルディアに対して何度か縁談の話を持ってきたらしい。でも、その全てが破談に終わったという。余に勝てねば許さん、余が気に入らなければ許さんと何かと理由をつけて断っていたらしい。そんなナルディアが自分から結婚したいというのだ。親心としては最大限に酌んでやりたいということらしい。

「ナルディアでは不足か・・・?」

「滅相もありません。しかし、私は今後も部隊の指揮をナルディアに任せたいと思っております。夫が本陣にいて、妻が前線にいるというのはよろしくないかと・・・」

 ティアネスは何言ってんのといいたげな顔をしていた。俺はそんな変なことを言ったのだろうか。

「おぬし、そんなことを悩んでおったのか」

 どうやらティアネスにとっては何の問題もないらしい。あれ、もしかして俺は古い固定概念に捉われていた?あるいは転生前の知識が邪魔していた?

「おぬしは将を率いる才能がある。ナルディアには兵を率いる才能がある。それだけの話ではないか。それならば問題あるまい」

 そういうとティアネスはヒソヒソ話をやめ、ナルディアを見る。

「ナルディア、本当にジークを婿にしたいのか?」

「もちろんじゃ。余はジークに決めたのじゃ」

 ナルディアはティアネスの目をじっと凝視して訴える。

「わかった。認めよう。ジークよ、ワシからもナルディアのことをお願いしたい」

 そういいながらティアネスは頭を下げる。国王に頭を下げられてまで断るわけにはいかない。まったく、これもナルディアの計画通りなのだろうか・・・。

「わかりました。謹んでお受けいたします」

 こうして、俺とナルディアの結婚が決まった。あまりにも急展開だったが、前世も含めて初めての結婚が目前に迫ろうとしていた。
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