シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~

葵刹那

文字の大きさ
33 / 68
第二章 ナミュール城主編

第8話 兵器開発

しおりを挟む
 ナミュール城で富国強兵に励んでいた俺のところに新たな情報がもたらされた。サミュエル連邦がベオルグ公国領を全て征服したという内容だ。

 俺は執務室の机に地図を広げ、勢力図を書き換える。各国の領土は以下のようであった。なお、オスタリア大陸には全体で101城存在する。



・シャルナーク王国  11城 全体の約11%
・サミュエル連邦   41城 全体の約40.5%
・ウェスタディア帝国 41城 全体の約40.5%
・ツイハーク王国     8城 全体の約8%
・ベオルグ公国     滅亡

(サミュエル連邦とウェスタディア帝国の2強になったか・・・。シャルナーク王国の強国入りは夢のまた夢だな)

 ナルディアとキキョウが精鋭部隊の教練に励んでいるが、それだけでは大国を圧倒する決め手にかける。新兵器を生み出す必要がありそうだ。
 さて、俺の持つ知識で最大威力を持つもの・・・やはり火器だろう。この世界でも用意できそうなのは、火薬である。硝石が産出できるのが理想だが、無いようなら厩舎の土、糞などから採集すればいい。あとはその火薬を使う兵器だが・・・。思いついたものを白紙に設計図を書き始める。所々うろ覚えの部分があるが、そこは要調整である。

「ムネノリ」

「どうしましたか」

 執務室で俺の補佐にあたるムネノリに声をかける。

「しばらくここの仕事を任せてもいいか?」

「わかりました!先生はどちらへ?」

 なかなかのむちゃぶりだと思うが、ムネノリは快諾してくれた。

「しばらく鍛冶屋に行ってくる」

「鍛冶屋・・・ですか?」

 鍛冶屋と聞いて首をかしげるムネノリだったが、そこは勇者であるジークを信頼している。きっと突拍子もないことをしてくれることだろうと期待の目線を向けている。

「ああ、これも戦いに勝つためだ」

 俺は後事をムネノリに託し、さっそく鍛冶屋に赴く。そして、鍛冶屋のおっちゃんにカラクリの説明をし、実際に作成してもらう。俺はそれを見ながら少しずつ修正を指示する。
 そんな作業を繰り返しているうちに、漠然とした記憶で描いたものが徐々に形になる。俺の思い描くマスケット銃の銃身はそう時間もかからずに作成することが出来た。後装式でライフリングを施しているマスケット銃である。村田銃をイメージして作成した。
 銃身と併せて弾の生産にも入ったが、薬莢という問題が生じた。その問題を克服するために、さらに多くの時間がかかった。

 なんだかんだ俺はサミュエル連邦への遠征の1ヵ月前まで開発に従事し、なんとか円錐型の弾を開発することが出来た。

 数ヵ月工房に出入りして銃の生産に成功したわけだが、量産には程遠いことが分かった。職人の手作りであるため、どうしても時間がかかるというわけだ。現在までに用意できたのは銃2丁である。
 弾をまっすぐ飛ばすためのライフリング加工に時間がかかるうえ、弾の作成にも時間が必要だ。量産するとなると、前装式の火縄銃が良いかもしれない。火縄銃もマスケット銃の一種だが、弾が丸型鉛と容易に作成できる。その反面、命中率と飛距離、湿気に弱いという弱点を抱えているが、この世界なら問題なく活躍してくれることだろう。遠征から帰ってきたらゆっくり考えるとしよう。

 俺は何度か試射することでその使用感を確かめている。

「おぬし、なんじゃその変な鉄の棒は」

 ナルディアにも使ってもらおうと試射に呼んだわけだが、とんちんかんな感想を漏らす。

「これは鉄砲というものだ」

「テッポウ?」

「とりあえず見ていてくれ」

 俺は銃を構え、遠方の的に照準を合わせる。

「おぬし、あんな遠い的を狙っておるのか!?」

「ああ」

 引き金を引く。

パーン

 聞いたことも無いような高音が辺りに響く。

「ひゃっ」

 驚いたナルディアは素っ頓狂な声をあげる。

「な、なな・・・あの的を撃ち抜いておる・・・」

 若干声を震わせながら驚く。

「これが鉄砲というものだ」

 何度か試射してわかったが、1キロ以上離れていても当てることが出来るようだ。やはりライフリング加工を施している効果は大きい。

「恐ろしいものを開発したのじゃな」

「ああ・・・これでまた多くの人が死ぬことだろう」

 俺が物憂げな雰囲気を醸し出すと、ナルディアは俺の手をそっと手に取る。火器は画期的な発明である。その反面、戦争の犠牲者を加速度的に生み出してしまう。その極めつけは言うまでもなく原子爆弾である。

「ジークよ、余はおぬしの妻じゃ。おぬしの罪も余が共に背負おうではないか」

 俺の考えてることを見抜いたうえで寄り添ってくれる。ほんと、頼もしい妻だ。

「ああ、ありがとう。そうそう、ナルディアの分もあるから撃ってみてくれ」

 少し感傷に浸ってしまったが、本題に入る。

「ふむ?余には槍があるぞ?」

 槍の使い手に鉄砲は必要ないと主張する。

「いまのを見ただろ?撃ってみればわかるさ。戦い方が変わるぞ」

 目の前で弾を込めてみせる。準備のできた銃をナルディアに渡し、構えを教える。

「この引き金を引いたら、弾が発射される。反動に気をつけろよ」

 ナルディアが構え、恐る恐る引き金を引く

パーン

 再び甲高い音が響き、バシューンと弾が的を掠る。一発目にしては上々だ。

「あれを余がやったというのか・・・」

 ナルディアの予想を上回ったのか驚きとともに鉄砲をまじまじと見つめる。

「そうだ。誰に扱えるというのがこの武器の最大の利点だ」

 むむむとナルディアは考え込む。戦い方を変える武器というのを身をもって体感してくれたのだろう。

「これを余が使いこなせるようになれば良いのじゃな?」

「ああ、練習して命中精度を上げればいい」

 ちなみに俺はかなりの命中精度を誇っている。不発弾を除いて1キロ程度なら的を外さなかったのである。これも勇者補正なのかもしれない。

 それからナルディアは毎日教練終わりに練習していた。メキメキと実力を延ばし、いまでは的の真ん中に当てることもできるようになった。飲み込みの速さはさすが槍の名人というだけのことはある。
 次に俺はメンテナンスの方法を教える。銃床や銃身を始めとした銃の分解の仕方と組み立て方、メンテナンスの仕方を自室に帰ってから徹底的に教え込む。目の前でメンテナンスをしてもらい、その結果を見ると概ね理解してくれたようだ。

 メンテナンスも終わり、俺とナルディアはベッドで横になる。

「教練の方はどうだ?」

「うむ、いつ実践に出しても問題ないじゃろ」

「・・・なら来週あたりにするか?」

「おぬしに任せる」

 若い男女が同衾している状況で、あまりにも色気のない会話である。

「ベオルグ公国の話は聞いただろ?」

「サミュエル連邦が吸収したという話じゃろ?」

 この話は当然ナルディアの耳にも入っていた。

「そうだ。だからどう進路を取るかが課題だな」

「ツイハーク王国の国境まで遠征するという話かの?」

 その場合はハルバード城を抜けひたすら北上することになる。縦長に勢力を延ばすことになり、防衛線も縦に伸びることになる。望ましくない占領の仕方だ。もし鉄砲を量産できていたなら火力でごり押しできるのだが・・・。

「前回取られた城を取り返してから北上することにするか」

「うむ、余も賛成じゃ」

 話がまとまったところで、二人は眠りに落ちるのであった。翌朝、ティアネスに早馬を出して、来週遠征に向かうことを知らせる。追加兵力として4万を送るようにお願いした。

 まもなくティアネスから返事が来たが、たった4万でいいのかという内容であった。前回はティアネスが多くの兵を引き連れた結果、守りが疎かになった。今回はその教訓を活かして、必要な兵数のみを率いることにした。4万で問題ないが、できればナシュレイ将軍を付けてくれと俺は返信する。ナシュレイは共にクヌーデル城で戦った仲である。俺の実力を知っているナシュレイの方が指示を出しやすいという理由もあるが。そういうわけでナシュレイを要求するのであった。

ーーーーー

 ナシュレイ率いる兵がここに来るまで、数日の時間がかかる。その間に、ハンゾウたちの部隊の総仕上げをすることにした。

「ジーク様、全員揃っております」

 庭に呼び出したハンゾウたちを見ると、統一された忍び装束が実に見事であった。

「さて、今日俺がお前たちを呼んだのは他でもない。これから遠征が始まる。その遠征が成功するかどうかはお前たちにかかっている」

 諜報に破壊工作とやることは盛りだくさんだ。
決して表に出てくるものではないが、裏工作は物事の成否に直結する。

「だから今日、改めてお前たちに話しておきたいことがある。まず、この隊をこれから黒焔隊と呼ぶ」

「「「おおお」」」

 ジャンたちから歓声が漏れる。ちなみに他には騎馬主体の火焔隊、歩兵主体の黄焔隊を作る予定である。

「隊長はハンゾウとし、副隊長はテリーヌにお願いする」

 ハンゾウとテリーヌが頭を下げる。

「「はい」」

「厳しい任務も多くあることだろう。だからこそ、黒焔隊の報酬は他の部隊より色を付けることにする」

「「「おおっ」」」

 部隊員が喜びの声をあげる。中にはガッツポーズをする者までいた。仕事に見合う適切な報酬を用意してあげるのはマネジメントの基本である。高い報酬は自信に繋がり、より専門性を磨く動機づけになる。俺の部隊にゼネラリストは必要ない。もっとも、すべてに抜き出るオールラウンダーであれば大歓迎だが。誰もが専門を持ち、分担して助け合うことで効率的な運用をおこなうのが俺の目指すスタイルだ。

「そういうわけで、今回はよろしく頼む。それと、早速2件お願いしたいことがある」

「何なりと」

 ハンゾウにハルバード城とアンドラス城の偵察をお願いする。また、別件として俺が鉄砲を作らせた鍛冶屋の監視も頼んでおいた。この情報を聞きつけ、接近する者があれば身元を洗い出すようにしてもらう。もし、接近した者が鉄砲の情報を握っているようであれば、遠慮なく始末するようにも付け足してある。鍛冶屋には城内に専用の工房を作り、城館に住まいを与えている。出来る限りの待遇で迎えたつもりだが、万が一ということもある。そのときは黒焔隊の出番である。

「承知いたしました」

 これで諜報部隊のハード面は整った。あとは彼らが経験を多く積んでくれるのを待つばかりだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...