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第二章 ナミュール城主編
第10話 エストリル城の戦い①
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ツイハーク軍4万は、サミュエル軍の到着前にエストリル城へと入った。
「マクナイト、あなたの戦術を聞かせてくれるかしら」
ミシェルはあらかじめジークから策を授けられていたが、あえてそれを言わない。マクナイトのお手並み拝見といったところだ。
「今回は撃退することが第一だ。奇襲と兵站の分断を考えている」
「ふーん、なるほどね」
「奇襲と言ってもソレルのいる本陣以外仕掛けるつもりはない」
「というと?」
「ソレルの肝を冷やすのが目的だ」
ミシェルはうんうんと何度も頷く。マクナイトの意図が読めたらしい。
「停滞させることが目的ってことね」
「そうだ」
ミシェルの言葉にマクナイトは首肯する。攻城戦というのは、基本的に攻撃側が不利である。攻城戦が長引けば長引くほど攻撃側の士気は低下し、兵糧が大きな問題となる。マクナイトの狙いは兵糧不足に陥らせて撤退させることであった。
「わかったわ。ここの守りは私に任せてちょうだい」
「ああ、よろしく頼む」
マクナイトは2万の兵を率いて城外の少し離れた場所に布陣する。これにより、エストリル城に到着したサミュエル軍は包囲攻撃を断念することになった。わずか2万とはいえ、挟撃されるのを恐れたからだ。さらに、それを率いるのがマクナイトであるということは、不気味でしかなかった。
「うーん、20万はやっぱり圧巻ね」
「ミシェル殿下、そう顔を前に出さないでください」
「いいじゃないの。敵はまだ攻撃してこないわ」
ミシェルは城壁から身を乗り出してサミュエル軍を観察している。20万もの大軍が攻め寄せるのは物心がついて以降初めてなのである。延々と続く陣の大きさが兵の多さを物語っている。
「さて、マクナイトの戦い、見せて貰おうじゃない」
城外に布陣するマクナイトは、サミュエル軍から見れば目の上のたん瘤である。激しい攻撃が予想された。
ーーーーー
城外に布陣したマクナイトは早速斥候を出して、敵の兵站を調べる。
「軍議を始めるぞ」
本陣に入ってきたマクナイトに4人の部下がそれぞれ頭を下げる。
「今回はどう戦おうか」
「殿はどんな策を?」
マクナイトの発言を遮る形で、ニーズホッグは結論を聞かせてくれと急かす。
「俺はみんなの意見が聞きたいんだが・・・まぁいい。俺は奇襲と兵站分断がいいんじゃねえかと思う。この戦いは敵を撤退させることが目的だ。だが、敵はあのソレルだ。言いたいことがわかるか?大損害を与えないで帰すなどあり得ないと言うことだ」
恨みを晴らすのは今だと言わんばかりにマクナイトは強い口調になる。
「マクナイト殿、それがしに考えが」
「ベルクート、言ってみろ」
「はっ、それがしは突撃を進言します」
ベルクートは実直にマクナイトを見据えて進言する。
「突撃!?ベルクート、正気なの」
ダフネがすかさず反応する。
「へえ、突撃か・・・悪くない」
「殿、敵は20万ですぜ?」
ニーズホッグも20万相手にこっちから仕掛けるのは正気じゃないと暗に訴えている。
「だから有効なんだよ。なっ、ベルクート?」
「おっしゃる通りで」
敵は20万の大軍である。だからこそ攻め寄せてくるとは思っていない。引き際さえ誤らなければ有効な戦術となりえるのだ。もっとも、困難なことには変わりないが。
「よし、決めた。挨拶がてら突撃するとしようか。ベルクート、ダフネ」
「「はっ」」
「お前たちに5千を預ける。真正面の敵を存分に蹴散らしてこい。引き際だけは誤るなよ」
「承知いたした」
「わかりました」
「ジェレミーは、敵の兵站が判明し次第、その分断を図ってくれ。5千を与える」
「承知」
マクナイトの陣はせわしなく動き始めるのであった。その様子は城壁から敵陣を伺っていたミシェルの目に入る。
「あら、本陣しか奇襲しないといいながら正面の敵陣に向かっていくわね。マクナイトは遊軍みたいなものだから構わないけど・・・」
ミシェルはいつの間にか手にした望遠鏡から覗いてる。
「うわっ・・・寡兵なのに優勢だわ。先頭にいるのは・・・ベルクート?と女性ね。ベルクートはわかるけど、レイピア使いの女性も凄い強さね」
「あ、あの・・・ミシェル殿下?」
「なによう、いまいいところなのだから邪魔しないで」
「は、はあ・・・」
ミシェルの副官はどうしていいものか大きなため息をついている。まるで物見遊山に来たかのようなミシェルの振舞いに頭を抱えていた。
「あら、サミュエル軍も包囲しようと側面から回り込んでるわね」
ベルクートとダフネの側面に横槍を入れようと敵が動く。
「うわっ、流石ね」
敵の動きを確認したダフネが、ベルクートと共に率いていた軍を離脱して横槍の対処に当たる。側面から攻め寄せる敵をダフネが難なく仕留める。これにより側面の軍は総崩れとなり、ダフネはベルクートのもとへ戻る。
「うひゃーっ!今度は敵陣突破するのね」
ミシェルの興奮は最高潮に達していた。ダフネの軍が再び合流した部隊は、敵陣を一直線に貫いていく。敵陣を通り過ぎ、ある程度進んだところで反転し、再び敵陣をまっすぐ突破する。
「2回も突破するなんてお見事だわ!」
ソレルの本陣から見て左翼は、ベルクートとダフネの突撃ですっかり陣形が崩れていた。死傷者はそれほど多くないが、敵兵の精神に与える影響は十分である。再度敵陣を突破したベルクートとダフネは悠々と自陣へと戻っていくのであった。そのあまりにも悠然とした攻撃に敵味方問わず感嘆したという。
「すごい!凄いわっ!マクナイトがあれだけ自信家なのもわかるわね」
十分に劇を堪能したミシェルは、望遠鏡を下ろし、居室へと戻っていった。その一方で敵の突破を許したソレルはカンカンである。
「ええい、マクナイトに突破を許すなど恥を知れ!この無能共が!」
本陣で元帥ソレルの激しい言葉が飛び交う。敵より多くの兵を持ちながら、いいようにしてやられたというのは恥以外のなにものでもない。さらに、それが裏切り者のマクナイトによるものなど言語道断だ。
「今すぐその失敗を挽回しろ!」
ソレルの檄に、居並ぶ将官が動き出す。総攻撃が決行されるのであった。
ーーーーー
自室に戻ったミシェルは紅茶の準備をしていた。ティータイムである。ミシェルが悠然とティーポットにお湯を注いでいると副官がやってきた。
「ミシェル殿下、敵が攻めてきました!」
ミシェルはこれからいいところなのにと不満そうな表情を浮かべる。
「もう・・・せっかちな敵ね。ゆっくりティータイムもできないじゃない」
戦場だから当然だろ!という副官のツッコミが口から出ることはなかった。ミシェルはめんどくさそうに円月輪を手に取る。
「そうそう、あれも持ってきてくれた?」
「こちらにございます」
「あら、ありがとう♪」
副官から差し出されたのは超小型の円月輪である。ミシェルがサミュエル軍との戦いを見据えて投擲用にたくさん作らせていたものである。
「あなたたち、気張りなさい!」
「「「おーーー!」」」
城壁に立ったミシェルの声に兵がやる気をみなぎらせる。敵は梯子を持ってエストリル城に攻め寄せるも、思うように攻めることができない。全方向から攻めているわけではないので、敵も集中して守ることができるからだ。マクナイトが城外に陣取った効果はこんなところでも現れていた。
「殿下!こっちに敵将らしき姿が!」
「わかったわ!」
兵士の呼びかけに応じてミシェルが城壁の上をせわしなく動き回っている。
「あれです」
「たしかに指揮官っぽいわね。それっ」
ミシェルの持つ超小型の円月輪が放たれ、グルグルと回転しながら敵将目掛けて飛んでいく。次の瞬間、敵将の首をスパッと切っていった。大動脈を切られた敵将から勢いよく血が飛び出る。周囲の兵は、指揮官の死に動揺を隠せない。
時間が経過するにつれ、尉官クラスの犠牲者が続々と増えていた。敵の守りが堅いうえに、尉官の被害が増加しているというのはソレルの焦燥をさらに駆り立てた。
ミシェルが鉄壁の守りを見せる一方、マクナイトの陣へ攻め寄せた敵軍も手痛い目に遭っていた。兵站を分断するために待機していたジェレミーの突撃を何度も食らったのである。敵の総勢5万に迫る軍勢が、わずか5千の突撃に怯む様子はマクナイトの溜飲を下げる格好の見世物となった。
「ジェレミー見事だ」
マクナイトの労いにジェレミーは頭を下げる。
「殿、俺にも暴れさせてくださいよ」
ジェレミーが暴れている様子を見て、ニーズホッグはじれったそうにしていた。同僚が活躍しているところを黙って見ているしかないのだから当然である。
「よし、それならいっちょ行くか?」
マクナイトはニーズホッグの鬱憤を解消させようと、出撃を持ち掛ける。
「はっ!」
その提案にニーズホッグは嬉々として乗っかる。その様子を見ていたダフネは至って冷静であった。
「マクナイト様っ!」
マクナイトたちが勢いよく出ていこうとすると、ダフネが強く制止する。マクナイトはダフネの頭にポンと手を置いてニコッと微笑む。
「ダフネ、俺が下手を打つと思うか?」
「はっ、し、失礼いたしました」
マクナイトの言葉に少し顔を赤くしつつダフネが引き下がる。
「守りは任せた」
「はっ」
マクナイトとニーズホッグは、前線に出していない5千の兵を率いて出撃する。それを見た敵陣は騒然とするのであった。敵陣からマクナイトの旗印が向かってくるのである。ダフネやジェレミーといった部下の知名度はそれほどではないが、マクナイトの知名度は抜群である。それが寡兵で攻めてくる。なにかの罠かと疑う者もいれば、討ち取って名を高めようと思う者もいた。
「なあニーズホッグ、あいつら矢しか射かけてこないぞ」
「それだけ殿を恐れているってことですね」
敵軍は完全に停止し、ありったけの矢を射かけてくる。マクナイトとニーズホッグは矢を斬って捨てるが、兵士はそうも行かない。ザクッザクッと多くの兵が矢の餌食になっていた。
「ち、しゃあない。退くぞ」
「くっ・・・了解です」
こうして意気揚々と出撃したニーズホッグは鬱憤を晴らすことなく撤退することとなった。
ニーズホッグがストレスを発散できずに地団駄を踏む一方、敵方の総大将ソレルの怒りはピークに達しようとしていた。陣を攻略することもできず、城を攻めることもままならない。完全にサミュエル軍の敗北である。
「ええい、不甲斐ないやつらめ。貴様らに頭はついてないのか!いいようにやられおって!」
ソレルの語気がますます粗くなる。周囲の将官はますます萎縮する。
「なにか考えはないのか!」
「そ、それでは・・・夜襲はいかがでしょう」
「おお、良い考えである。あのマクナイトの鼻を明かしてこい!」
「はっ!」
目指すはマクナイトの首あるのみである。こうして2万の兵が夜陰に消えていった。
「マクナイト、あなたの戦術を聞かせてくれるかしら」
ミシェルはあらかじめジークから策を授けられていたが、あえてそれを言わない。マクナイトのお手並み拝見といったところだ。
「今回は撃退することが第一だ。奇襲と兵站の分断を考えている」
「ふーん、なるほどね」
「奇襲と言ってもソレルのいる本陣以外仕掛けるつもりはない」
「というと?」
「ソレルの肝を冷やすのが目的だ」
ミシェルはうんうんと何度も頷く。マクナイトの意図が読めたらしい。
「停滞させることが目的ってことね」
「そうだ」
ミシェルの言葉にマクナイトは首肯する。攻城戦というのは、基本的に攻撃側が不利である。攻城戦が長引けば長引くほど攻撃側の士気は低下し、兵糧が大きな問題となる。マクナイトの狙いは兵糧不足に陥らせて撤退させることであった。
「わかったわ。ここの守りは私に任せてちょうだい」
「ああ、よろしく頼む」
マクナイトは2万の兵を率いて城外の少し離れた場所に布陣する。これにより、エストリル城に到着したサミュエル軍は包囲攻撃を断念することになった。わずか2万とはいえ、挟撃されるのを恐れたからだ。さらに、それを率いるのがマクナイトであるということは、不気味でしかなかった。
「うーん、20万はやっぱり圧巻ね」
「ミシェル殿下、そう顔を前に出さないでください」
「いいじゃないの。敵はまだ攻撃してこないわ」
ミシェルは城壁から身を乗り出してサミュエル軍を観察している。20万もの大軍が攻め寄せるのは物心がついて以降初めてなのである。延々と続く陣の大きさが兵の多さを物語っている。
「さて、マクナイトの戦い、見せて貰おうじゃない」
城外に布陣するマクナイトは、サミュエル軍から見れば目の上のたん瘤である。激しい攻撃が予想された。
ーーーーー
城外に布陣したマクナイトは早速斥候を出して、敵の兵站を調べる。
「軍議を始めるぞ」
本陣に入ってきたマクナイトに4人の部下がそれぞれ頭を下げる。
「今回はどう戦おうか」
「殿はどんな策を?」
マクナイトの発言を遮る形で、ニーズホッグは結論を聞かせてくれと急かす。
「俺はみんなの意見が聞きたいんだが・・・まぁいい。俺は奇襲と兵站分断がいいんじゃねえかと思う。この戦いは敵を撤退させることが目的だ。だが、敵はあのソレルだ。言いたいことがわかるか?大損害を与えないで帰すなどあり得ないと言うことだ」
恨みを晴らすのは今だと言わんばかりにマクナイトは強い口調になる。
「マクナイト殿、それがしに考えが」
「ベルクート、言ってみろ」
「はっ、それがしは突撃を進言します」
ベルクートは実直にマクナイトを見据えて進言する。
「突撃!?ベルクート、正気なの」
ダフネがすかさず反応する。
「へえ、突撃か・・・悪くない」
「殿、敵は20万ですぜ?」
ニーズホッグも20万相手にこっちから仕掛けるのは正気じゃないと暗に訴えている。
「だから有効なんだよ。なっ、ベルクート?」
「おっしゃる通りで」
敵は20万の大軍である。だからこそ攻め寄せてくるとは思っていない。引き際さえ誤らなければ有効な戦術となりえるのだ。もっとも、困難なことには変わりないが。
「よし、決めた。挨拶がてら突撃するとしようか。ベルクート、ダフネ」
「「はっ」」
「お前たちに5千を預ける。真正面の敵を存分に蹴散らしてこい。引き際だけは誤るなよ」
「承知いたした」
「わかりました」
「ジェレミーは、敵の兵站が判明し次第、その分断を図ってくれ。5千を与える」
「承知」
マクナイトの陣はせわしなく動き始めるのであった。その様子は城壁から敵陣を伺っていたミシェルの目に入る。
「あら、本陣しか奇襲しないといいながら正面の敵陣に向かっていくわね。マクナイトは遊軍みたいなものだから構わないけど・・・」
ミシェルはいつの間にか手にした望遠鏡から覗いてる。
「うわっ・・・寡兵なのに優勢だわ。先頭にいるのは・・・ベルクート?と女性ね。ベルクートはわかるけど、レイピア使いの女性も凄い強さね」
「あ、あの・・・ミシェル殿下?」
「なによう、いまいいところなのだから邪魔しないで」
「は、はあ・・・」
ミシェルの副官はどうしていいものか大きなため息をついている。まるで物見遊山に来たかのようなミシェルの振舞いに頭を抱えていた。
「あら、サミュエル軍も包囲しようと側面から回り込んでるわね」
ベルクートとダフネの側面に横槍を入れようと敵が動く。
「うわっ、流石ね」
敵の動きを確認したダフネが、ベルクートと共に率いていた軍を離脱して横槍の対処に当たる。側面から攻め寄せる敵をダフネが難なく仕留める。これにより側面の軍は総崩れとなり、ダフネはベルクートのもとへ戻る。
「うひゃーっ!今度は敵陣突破するのね」
ミシェルの興奮は最高潮に達していた。ダフネの軍が再び合流した部隊は、敵陣を一直線に貫いていく。敵陣を通り過ぎ、ある程度進んだところで反転し、再び敵陣をまっすぐ突破する。
「2回も突破するなんてお見事だわ!」
ソレルの本陣から見て左翼は、ベルクートとダフネの突撃ですっかり陣形が崩れていた。死傷者はそれほど多くないが、敵兵の精神に与える影響は十分である。再度敵陣を突破したベルクートとダフネは悠々と自陣へと戻っていくのであった。そのあまりにも悠然とした攻撃に敵味方問わず感嘆したという。
「すごい!凄いわっ!マクナイトがあれだけ自信家なのもわかるわね」
十分に劇を堪能したミシェルは、望遠鏡を下ろし、居室へと戻っていった。その一方で敵の突破を許したソレルはカンカンである。
「ええい、マクナイトに突破を許すなど恥を知れ!この無能共が!」
本陣で元帥ソレルの激しい言葉が飛び交う。敵より多くの兵を持ちながら、いいようにしてやられたというのは恥以外のなにものでもない。さらに、それが裏切り者のマクナイトによるものなど言語道断だ。
「今すぐその失敗を挽回しろ!」
ソレルの檄に、居並ぶ将官が動き出す。総攻撃が決行されるのであった。
ーーーーー
自室に戻ったミシェルは紅茶の準備をしていた。ティータイムである。ミシェルが悠然とティーポットにお湯を注いでいると副官がやってきた。
「ミシェル殿下、敵が攻めてきました!」
ミシェルはこれからいいところなのにと不満そうな表情を浮かべる。
「もう・・・せっかちな敵ね。ゆっくりティータイムもできないじゃない」
戦場だから当然だろ!という副官のツッコミが口から出ることはなかった。ミシェルはめんどくさそうに円月輪を手に取る。
「そうそう、あれも持ってきてくれた?」
「こちらにございます」
「あら、ありがとう♪」
副官から差し出されたのは超小型の円月輪である。ミシェルがサミュエル軍との戦いを見据えて投擲用にたくさん作らせていたものである。
「あなたたち、気張りなさい!」
「「「おーーー!」」」
城壁に立ったミシェルの声に兵がやる気をみなぎらせる。敵は梯子を持ってエストリル城に攻め寄せるも、思うように攻めることができない。全方向から攻めているわけではないので、敵も集中して守ることができるからだ。マクナイトが城外に陣取った効果はこんなところでも現れていた。
「殿下!こっちに敵将らしき姿が!」
「わかったわ!」
兵士の呼びかけに応じてミシェルが城壁の上をせわしなく動き回っている。
「あれです」
「たしかに指揮官っぽいわね。それっ」
ミシェルの持つ超小型の円月輪が放たれ、グルグルと回転しながら敵将目掛けて飛んでいく。次の瞬間、敵将の首をスパッと切っていった。大動脈を切られた敵将から勢いよく血が飛び出る。周囲の兵は、指揮官の死に動揺を隠せない。
時間が経過するにつれ、尉官クラスの犠牲者が続々と増えていた。敵の守りが堅いうえに、尉官の被害が増加しているというのはソレルの焦燥をさらに駆り立てた。
ミシェルが鉄壁の守りを見せる一方、マクナイトの陣へ攻め寄せた敵軍も手痛い目に遭っていた。兵站を分断するために待機していたジェレミーの突撃を何度も食らったのである。敵の総勢5万に迫る軍勢が、わずか5千の突撃に怯む様子はマクナイトの溜飲を下げる格好の見世物となった。
「ジェレミー見事だ」
マクナイトの労いにジェレミーは頭を下げる。
「殿、俺にも暴れさせてくださいよ」
ジェレミーが暴れている様子を見て、ニーズホッグはじれったそうにしていた。同僚が活躍しているところを黙って見ているしかないのだから当然である。
「よし、それならいっちょ行くか?」
マクナイトはニーズホッグの鬱憤を解消させようと、出撃を持ち掛ける。
「はっ!」
その提案にニーズホッグは嬉々として乗っかる。その様子を見ていたダフネは至って冷静であった。
「マクナイト様っ!」
マクナイトたちが勢いよく出ていこうとすると、ダフネが強く制止する。マクナイトはダフネの頭にポンと手を置いてニコッと微笑む。
「ダフネ、俺が下手を打つと思うか?」
「はっ、し、失礼いたしました」
マクナイトの言葉に少し顔を赤くしつつダフネが引き下がる。
「守りは任せた」
「はっ」
マクナイトとニーズホッグは、前線に出していない5千の兵を率いて出撃する。それを見た敵陣は騒然とするのであった。敵陣からマクナイトの旗印が向かってくるのである。ダフネやジェレミーといった部下の知名度はそれほどではないが、マクナイトの知名度は抜群である。それが寡兵で攻めてくる。なにかの罠かと疑う者もいれば、討ち取って名を高めようと思う者もいた。
「なあニーズホッグ、あいつら矢しか射かけてこないぞ」
「それだけ殿を恐れているってことですね」
敵軍は完全に停止し、ありったけの矢を射かけてくる。マクナイトとニーズホッグは矢を斬って捨てるが、兵士はそうも行かない。ザクッザクッと多くの兵が矢の餌食になっていた。
「ち、しゃあない。退くぞ」
「くっ・・・了解です」
こうして意気揚々と出撃したニーズホッグは鬱憤を晴らすことなく撤退することとなった。
ニーズホッグがストレスを発散できずに地団駄を踏む一方、敵方の総大将ソレルの怒りはピークに達しようとしていた。陣を攻略することもできず、城を攻めることもままならない。完全にサミュエル軍の敗北である。
「ええい、不甲斐ないやつらめ。貴様らに頭はついてないのか!いいようにやられおって!」
ソレルの語気がますます粗くなる。周囲の将官はますます萎縮する。
「なにか考えはないのか!」
「そ、それでは・・・夜襲はいかがでしょう」
「おお、良い考えである。あのマクナイトの鼻を明かしてこい!」
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