シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~

葵刹那

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第二章 ナミュール城主編

第17話 アルメール城防衛戦

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 ジークが旧ベオルグ公国領へ出発した翌日、ナルディアが守るアルメール城に元帥ソレル率いるサミュエル軍20万が押し寄せた。

「うーむ、壮観じゃのう」

 ナルディアとナシュレイは城壁からサミュエル軍の様子を伺っている。

「どうやら包囲するようです」

「そうであろうな。ナシュレイは反対側を頼む」

「はっ、お任せください」

 ナルディアは本陣の見える側半分を担当し、ナシュレイは反対側半分の守備につく。

「くっくっく、ソレルとやらがどれほどのものかじっくり見てやろうではないか」

 ナルディアは尊大な態度を隠すことなくサミュエル軍を見据えていた。やれるものならやってみろと言わんばかりだ。

「ははっ」

 その日、サミュエル軍が攻め寄せることはなかった。陣の設営と兵の疲労回復に充てるためである。その翌日、サミュエル軍の猛攻が始まった。

「梯子をかけられたら剥がすのじゃ!熱湯や石は惜しまず使うのじゃ!」

 城壁でナルディアの指揮する声が響く。
 サミュエル軍の攻撃は至ってシンプルなものだった。数の力で押し切ろうという作戦である。兵士たちが城壁にかかった梯子を剥がしても剥がしてもまたかけてくる。

「しつこいのう・・・どれ、余のとっておきを見せるとするか」

 ナルディアは獲物を槍からマスケット銃に持ち替え、馬に乗る兵士に照準を合わせる。

パーン

 突然の高音に周囲の兵士が驚く。

「おぬしら、この音は余の武器から出たものじゃ!気にするでない!」

 間近で発砲音を聞いた兵士の中には驚く者もいたが、ナルディアの声に兵士たちの顔が引き締まる。

「うむ、それでよいのじゃ」

 ナルディアは再び敵軍に銃口を向ける。

パーン

パーン

 ナルディアの銃撃により、敵の指揮官が着実に減少する。

「「「おおぉぉー!」」」

 味方の士気が上昇する。ナルディアは場所を変え、再び銃撃を開始する。

パーン

パーン

 一部の勘のいい敵指揮官は、馬の上にいるとまずいと感じて下馬していたが、ここにきてサミュエル軍の全騎兵が馬から降りる。

「ふむ、敵もさすがに愚かではないようじゃの」

 こうなっては敵の指揮官だけを狙い撃つのは難しい。そう判断したナルディアはマスケット銃に代わって槍を手に持つ。

「これからが正念場じゃぞ!」

「「「おおぉぉー!」」」

ーーーーー

 ナルディアの活躍もありシャルナーク軍の士気は旺盛である。城を攻めるサミュエル軍は、前線指揮官の相次ぐ討ち死、一方的に増える被害に士気の減衰は明らかであった。

「誰もあの武器をわからんのかっ!」

 サミュエル軍の本陣で怒気を孕むソレルの声が響く。誰も答えない。いや、答えようがない。ナルディアの使うマスケット銃を知る者など誰もいないのである。ガルヴィンが戦死した際に、その存在は伝えられていたが、いかんせんジークとナルディアしか持っていない武器である。そのため、詳細な情報が得られずこれといった対策が取られていなかった。

「総統閣下、意見を申し上げてもよろしいでしょうか」

「言ってみよ」

 重い雰囲気に包まれた軍議で、若い指揮官が意見を具申する。

「はっ、アルメール城の守りは堅く、容易に落とすことは困難でしょう」

「そんなことは貴様に言われなくともわかっておるわ!」

 若い指揮官はソレルの癇癪をそれとなく受け流す。

(感情的になるだけで何も考えない。ふん、所詮は前時代の遺物か・・・)

 その内心は侮蔑していたが。


「そこで、攻城櫓、破城槌、投石器を作らせるのはどうでしょうか」

「おお、その手があったか!急ぎ作らせよ」

「はっ」

 こうしてサミュエル軍は攻城兵器の作成に着手した。この作戦を進言したのは若き少将キルキスである。元々は大佐で、それでも異例と言われる出世の早さであった。さらに幸運なことに、シャルナークとの戦いで戦死したガルヴィンを始めとした将官の空席を埋めるために繰り上げ人事がおこなわれた。それに乗っかる形でキルキスは将官へと昇格した。

 攻城櫓は、城壁を超える高さの櫓を組み、城壁に板などを渡して兵士を送り込むための兵器である。破城槌は、城門や城壁を破壊するために丸太を取り付けた兵器である。投石器は、その名の通り石などを投げ込むための兵器である。この大陸で、広く普及している攻城兵器だが、使いどころが限られているという欠点がある。移動に向かず、現地で生産されるという特徴から、短期戦にあまり向かない。また、兵器の種類によって異なるものの、生産期間が1ヵ月を超えるのは当たり前である。ソレルは兵器の製造を許可することにより、長期戦の意思を示したというわけだ。

 キルキスは自陣に戻ると腹心の部下であるグイードが出迎えた。

「キルキス、軍議はどうだった」

「軍議もくそもないよ。ただただイライラをぶつけるだけの時間だったね。おいらが献策しなかったら、明日も無策で攻めていただろうよ」

「元帥閣下は相変わらずのようだね」

「あんな男が元帥でいる限り、この国は勝てないだろうさ」

 キルキスは投げやりにいう。キルキスとグイードは、首都ミスリアにある連邦唯一の高等教育機関である国立ミスリア大学を同期で卒業したエリートだ。サミュエル連邦の教育制度は、初等教育、中等教育、高等教育から成り立っており、初等教育は国民の義務、中等教育は任意だが多くの者が受けている。しかし、唯一の高等教育機関である国立ミスリア大学の一学年定員は300人と狭き門である。そのため、ミスリア大学に入学することができれば、出世は確実と言われている。

「兵器を使うように進言した?」

 キルキスとグイードはどのような献策をするか、事前に煮詰めていた。

「昨日グイードと話し合った通りさ。これで兵器ができるまでの間は攻めずに済む」

 キルキスはウンザリしていた。将官に昇格して初めての戦いがこのアルメール城攻めなのである。蓋を開けてみれば、籠城するシャルナーク軍が圧倒的優勢な状況で、こちらの指揮官は脳筋という勝利の見込めない戦いだった。負けが分かってて攻めるほど愚かなことはない。出世に繋がる戦功が立てられない。こちらの兵数が圧倒的に多いのにも関わらずだ。

「ということは、ベオルグ公国の城が取られるのも時間の問題だね」

「シャルナーク王国が攻めなくても、ツイハーク王国が見逃すはずがないしね」

「マクナイトが将軍になったからなおさらかな?」

「ほんとだよ。まったく、この国の上層部には呆れるね。そもそも、マクナイトの虐殺騒動も怪しいし」

 2人の話題はツイハーク王国へ亡命したマクナイトに移っていた。マクナイトが旧ベオルグ公国領を侵攻した際の民間人虐殺騒動の真偽が怪しいとこの2人は考えていたのである。

「うんうん、あの新聞の書かれ方はひどかったね。誰かの意図があってもおかしくないと思う」

 当時のサミュエル連邦の新聞は、マクナイトを非難する内容一色だった。マクナイトを擁護する内容が一切ないことがとても不思議であった。

「その結果、マクナイトは亡命して、そのマクナイトが守るエストリル城を落とせず徹底的に痛い目に遭ったと来たもんだ。とんだお笑い話だよ」

「あはは、ほんとだね。もしキルキスなら、この城をどう攻める?」

「うーん・・・おいらなら坑道攻めかな」

「坑道攻めかーさすがだね」

 坑道攻めとは、トンネルを掘って地下から城を攻める方法である。

「おいらはマクナイトと同じ運命をたどりたくないからね。ソレルの理解できないような策は言わないよ」

 ソレルと呼び捨てにしたり、あんな男というあたりに軍内でのソレルの評価が如実に現れていた。

「そうだね。それが賢明だよ。僕たちの時代はこれからなんだからさ」

「どの道、今回の戦いは負けるよ。焦らなくてもソレルは失脚する。おいらたちはできるだけゆっくり兵器を準備しよう」

 キルキスとグイードはお互いに目を合わせてニヤリとする。のちに、サミュエル連邦の命運を左右する存在となる二人は、耐え忍ぶ日々を過ごしていた。

ーーーーー

 アルメール城を守るナルディアは、急にパタリと攻撃が止んだことを不審に思っていた。さらにいえば、1日の大半が暇な時間になったのである。

「テリーヌ!」

「なんでしょうか」

「敵軍の様子を探ってもらえるかの?」

「承知いたしました」

 テリーヌはナルディア付きのメイドだが、現在は黒焔隊の副隊長を勤めている。ナルディアに命じられるがまま、自ら敵陣を偵察して戻ってくる。

「ナルディア様」

「どうじゃった」

「なにやら兵器を作らせているようです」

「兵器じゃと?」

「おそらく破城槌や攻城櫓といった部類かと」

「完成したら厄介じゃのう・・・どうしたものか」

 兵器が完成してしまったら防戦するのが容易ではなくなる。ナルディアはどうにか妨害できないか思案する。そんなナルディアとは対照的にテリーヌは楽観的であった。

「ナルディア様、放置されては?」

「なんと、放置せよというのか」

「攻城兵器は、完成までに多くの日数を費やすものです。完成する前に旦那様がお戻りになるかと」

 旦那様とはジークのことである。テリーヌの進言にナルディアの表情は晴れる。

「それもそうじゃな。ここは静観するとしよう」

「賢明なご判断です」

「うむっ、ご苦労じゃった」

 ナルディアはテリーヌを労うと、お茶を入れ始める。

「ナルディア様、これは私が」

 テリーヌがすかさず変わろうとするが、ナルディアが手で制す。

「たまには余に任せよ」

「しかし・・・」

「おぬしは座っておれ」

 テリーヌは大人しく椅子に座る。まもなくナルディアがティーカップを2つ用意して紅茶を注ぐ。

「飲むがよい」

「いただきます」

 二人はカップを手に持って一口いただく。

「のうテリーヌ、ハンゾウとの仲はどうじゃ?」

「・・・っ!?」

 テリーヌは口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。その展開を読んでいたナルディアは、ニヤニヤしながら眺めていた。

「やはりそうか」

「・・・いつからお気づきで」

「余とテリーヌの仲ではないか。そうじゃな・・・確信したのは余がジークと旅に出かける前じゃ」

 テリーヌは、ナルディアが小さい頃からずっと仕えている。

「そんな前から・・・」

「二人だけの雰囲気が出来上がっておったからの」

「お恥ずかしい限りです」

 テリーヌが珍しく顔を真っ赤にしている。

「そんなことないのだぞ?余のメイドをしているばかりに結婚が遅れたのじゃ。むしろ余が謝りたいくらいじゃ」

「そんな、滅相もない」

 ナルディアの言葉にテリーヌは困惑気味だ。

「そういうことじゃから、余からジークに話しておく。この遠征が終わったら式をあげるとよい」

「しかし、それではナルディア様のお側でのお仕事が・・・」

 ナルディアはくくくと笑いはじめる。

「そんなこと、気にせずともよい。代わりを見つければよいだけじゃ。おぬしはおぬしの幸せを求めよ」

「ナルディア様、ありがとうございます」

 ナルディアは、涙を浮かべ、声を震わせながら話すテリーヌを温かい目で見守っていた。

 両軍の兵たちは、工作兵などを除いてすっかり手持ち無沙汰である。睨み合うだけの状態が続き、3週間が経過しようとしていた。そしてついに、ジーク率いる一軍が戻ってくる日を迎えた。
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