シャルナーク戦記~勇者は政治家になりました~

葵刹那

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第二章 ナミュール城主編

第21話 ヘルブラント陥落

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ジークがコートウェイク高地に布陣している頃、首都ヘルブラントでは大変なことが起きていた。

「国王陛下、大変です。サミュエル軍が出現しました!」

駆けこんできた兵士の報告に王宮は騒然とする。

「皆の者、うろたえるな!どこから向かってきたのじゃ」

「サラマンカ城方面からです!」

「なぜサラマンカ城から来るのだ!」

ティアネスの頭は大混乱に陥る。

「陛下っ!いまはそれを気にしている暇はございませぬ」

デルフィエの諫言により、ティアネスも冷静になる。

「そうであったな。急ぎ守りを固めよ!いざという時のため脱出の準備もするのだ」

「「「ははっ」」」

「ダルニア、外を見てきてくれるか」

騎士団長のダルニアに真偽を確かめるよう命令する。

「承知いたしました」

ダルニアが確認している間、ティアネスはあまりにも不可解な出来事に頭を悩ませる。

「デルフィエ、どういうことなのじゃ」

「小生もわかりませぬ。国境の備えは万全であったはず」

ヘルブラントを包囲するには、国境から最低でも2つの城を落とす必要がある。
敵に察知されずに落とすなど不可能なのだ。
ダルニアが戻ってきた。

「国王陛下、残念ながらまことのようです・・・」

ティアネスは身体の力が抜けていくのを感じていた。
頭を抱える。

「もうすでに・・・敵の先遣隊が城門前に敵が押し寄せております」

「もう着いたというのか!?」

先遣隊とはいえ、あまりにも早い進軍だった。

「さらに、本隊も合わせた敵の兵力は・・・15万ほどかと」

「なっ・・・」

王宮に詰める大臣から兵士に至るまでが深い落胆の色を示す。

「15万の兵が侵攻していて気付かなかったというのかっ!」

意図せず大声になる。
ヘルブラントの兵力はわずか1万である。
兵力差は歴然だ。
さらに、これでは援軍を呼ぶこともままならなくなった。
周囲の城がこの惨状に気づいて兵を送らない限り、打開できないのである。

「誰か、なにか考えはないか」

呼びかけていると、そこに更なる悪い知らせがもたらされた。

「申し上げます。サミュエル軍本隊が出現しました」

「なんじゃとっ!?」

多くの者が動揺していた。

「もう本隊が向かっているのか」

「早すぎないか」

「これではますます何もできないではないか」

覇王フェンリル以降、このヘルブラントが包囲されたことは一度もない。
また、ジークの存在も、ここが安泰であることを担保するようなものであった。

「静かにせい!まずは国民を落ち着けるのだ。
 それがおぬしら内政官の仕事ではないのか!」

「「「はっ」」」

臣下に檄を飛ばし、民心掌握を開始する。
前もって戦いになるとわかっていれば、民は城を出て戦争を回避する。
しかし、サミュエル軍の電光石火の行軍により、避難することはできなかった。
城内には多くの国民がおり、不安を抱えている。
援軍を呼べず、攻め入ることのできない現在では、その不安の対処をすることしかできなかった。

「こうなっては仕方ない。敵先遣隊の間隙を縫って援軍を求めるのだ!」

「はっ」

ティアネスの命令で、すぐさま援軍を求める使者が城を出発した。
城門の前は敵の先遣隊に封鎖されているため、城壁を伝って降りる。
しかし、まだ空は明るく、すぐさま敵に発見され、包囲を突破できたものは一人もいなかった。

「申し上げます。使者は全滅です・・・」

藁にも縋る想いだったが、やはり無駄だった。

「国王陛下、夜まで待ちましょう」

ダルニアが進言する。
夜になれば、敵の本隊が囲んでおり、使者が突破するには困難を極める。
しかし、暗闇に紛れて抜けられる可能性がある。

「国王陛下、敵本隊に包囲されました!」

ティアネスはその報告を聞いても微動だにしなかった。
いや、打つ手がない以上、もう何も感じないのである。
しかし、包囲したサミュエル軍はなかなか攻めてこない。

初めての籠城戦ということもあり、全員が一抹の不安と緊張感を抱えている。
そんな不安を払しょくするような、光明にも等しい吉報が飛び込んできた。

「申し上げます。
 サラマンカ城方面の遠方にディーン将軍率いる1万の援軍が出現しました!」

「「「おおっ!」」」

王宮に詰める全ての者が歓声をあげる。
たかが1万、されど1万である。
精神的余裕が失われれているいま、増援が来てくれたという事実だけで士気は自ずと上昇する。

「ワシも迎えに行こうではないか!」

ティアネスはダルニアとデルフィエを伴い、城壁へと向かう。

「おお、あれは紛れもなくディーンのだ!」

若干興奮気味に話している。
それほどまでに嬉しかったのである。

「しばらく籠城すれば、いずれジークが戻って参りましょう」

「うむ、それまでの辛抱じゃな」

なぜこのタイミングで、シアーズ城主のディーンが現れたのかと疑う者はいなかった。
サミュエル軍の現れた方向にあるサラマンカ城は、シアーズ城とヘルブラント城の中間に位置する城である。
つまり、シアーズ城とサラマンカ城を通過したであろうサミュエル軍の報告がヘルブラントにもたらされていないのは不自然なのだ。

「おおっ、ディーンが敵軍とぶつかったわ」

ディーン率いる一軍はサミュエル軍と交戦し、一点突破を試みている。

「どうやら城に向かっておりますな」

「うむ、近づいてきたら城門を開けよ!」

「はっ」

ディーンは敵の包囲を食い破るようにして突破した。
なお、サミュエル軍の抵抗は形ばかりで、わざと通すかのような素振りさえあった。

ギギギギギ

城門が開かれる。
そこでデルフィエは気づいた。
シアーズ城とサラマンカ城はわざとサミュエル軍を通していたのではないかと。

「しまった」

デルフィエがそう呟くのと同時に、味方の悲鳴が聞こえてくる。

「う、うわああああ」

「ディーン将軍!何をなされます」

「ぐあっ」

ディーン率いる増援が、城内の味方を攻撃し始めていた。

「何事じゃ!」

ティアネスは状況把握に努める。

「国王陛下、ディーン将軍の裏切りです」

「な、んだと・・・」

ティアネスはへなへなと地面に座り込む。

「国王陛下、お気を確かに」

ダルニアがティアネスの肩を持つ。
眼下ではサミュエル軍も城門へと向かい始めていた。

「ダルニア、これを」

ティアネスは王家に伝わる剣をダルニアに渡す。

「これは・・・」

「よいか、最期の命令じゃ。これを持ってジークのもとへ行くのだ!」

「しかし、国王陛下」

「おぬし一人ならこの包囲も突破できよう。ワシが居ては足手まといになる」

ティアネスの目は見たことがないくらいに強い眼光を放っていた。
それを見て、共に死ぬことを許されないとダルニアは悟った。

「承知いたしました。必ずお届けいたします」

「ダルニア!急ぐのだ!」

「ははっ」

ダルニアは厩舎へ行き、馬に乗り反対の城門から脱出を試みる。
城壁に残ったティアネスとデルフィエはせめてもの抵抗をしていた。

「国王陛下、反撃をお許しください」

「うむ、一矢報いてやろうぞ」

デルフィエが杖をかざす。

ドガーン

城外に巨大な落雷が落ちる。
デルフィエはまだ杖をかざしている。

ドガーン

城外に二発の雷が落ちた。

「相変わらず見事じゃな」

「ははっ、お褒めに預かり光栄です」

サミュエル軍は突然の雷に混乱が生じている。
雷によって焼死した兵、感電死した兵とその被害はざっと300人を数えた。
短時間に限界近くまで雷撃をおこなったデルフィエは、疲労が色濃く出ていた。

城内ではディーン率いる一軍とヘルブラント守備軍が激しい市街戦を繰り広げている。

「皆の者、奮起せよ!ワシも戦うぞ!」

「国王陛下が来てくださったぞー!」

「「「おー!」」」

士気が上がったのも束の間、多勢に無勢、多くの者がバタバタと死んでいく。
ティアネスやデルフィエの周囲は、敵兵の方が多くなっていた。
デルフィエも剣を持って戦うも、魔法による消耗で思うように戦えない。

「ぐっ・・・」

腹部を剣で斬られ、出血している。

「国王陛下」

「デルフィエっ!」

ティアネスはデルフィエに近寄り、手を強く握る。

「国王陛下、小生が裏切りに気づかぬばかりに・・・申し訳ございません」

「よい、よいのだ」

ティアネスの目には、涙が溜まっている。

「陛下、そのような顔をなさいますな。
 小生は先に逝って、陛下をお待ちしております」

「うむ、うむ・・・おぬしだけに行かせはせぬ」

デルフィエはニコッと微笑むとそのまま力尽きた。
シャルナーク王国の長老にも等しい老臣デルフィエは、不慣れな剣で最期まで戦い、散っていった。

「すまぬデルフィエ・・・おぬしのような忠臣にこのような最期を迎えさせるとは」

ティアネスは立ち上がり、声高に叫ぶ。

「ワシがティアネス・シャルナークである。腕に覚えのあるものはかかって参れ!」

敵兵の注目を一身に集める。
そこに赤髪の女性将官らしき者が現れる。

「お前たち、道を開けな!」

兵士たちが道を譲り、ティアネスの前に進む。

「あたしはリエラ、中将だよ。あんたがティアネス・シャルナークかい?」

「いかにもワシがティアネス・シャルナークである」

「そうかい、そんじゃ、あたしの相手になってもらおうか」

リエラとティアネスは剣を構える。

「ふんっ」

「とりゃっ」

リエラとティアネスの剣がぶつかる。

「あんた、王族にしてはやるね」

リエラの剣を振るスピードが上がる。

「くっ」

ティアネスはその剣圧に段々圧され始める。

「しまいだよ」

ザシュッ

リエラの剣はティアネスの身体を縦に切り裂く。

「見事じゃ」

ティアネスは膝をつく。

「せめてもの情けだ。はあっ」

心臓を剣が貫く。
ここに、シャルナーク国王ティアネス・シャルナークは息を引き取った。
あまりにも突然の最期であった。

「ティアネス・シャルナークは死んだ!降伏するなら命は取らないよ!」

リエラの声が城内に響く。
国王の死に、残り少なくなった守備兵の動揺は尋常じゃなかった。
王に殉ずる者、降伏する者と様々な反応であった。

その一方、王宮に残った内政官は、国王に殉じた者を除き、大半が捕虜となった。
サミュエル軍の大将モーリスは、サミュエル連邦に忠誠を誓う者のみを降伏とみなし、降伏しない残り全員を処刑した。
これにより、シャルナーク王国の政府としての機能は完全に失われてしまう。
ヘルブラント陥落によるシャルナーク王国の損害は計り知れないものがあった。
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