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第一章 内務長官編
第2話 内務長官就任
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模擬試合をすることになった俺はダルニアの案内で、闘技場までやってきた。歩いている間に、ダルニアからこの国の状況を聞くことができた。
この国は国王ティアネスのもと、大臣にあたる長官がそれぞれ治めているという。庶民の暮らしについては、あまり豊かとは言えぬようだ。というのも長年の戦争ですっかり庶民が疲弊しているためである。しかし、貴族というものが存在しないのは大きく評価できる。領地ではなく通貨によって賞罰をおこなっているということである。お金は、俺の専門ということで、俄然興味が湧いた。
ってあれ、俺ってこんな情報処理能力高かったっけ?俺の頭の中では面白いようにこの国の現状が鮮明に浮かび上がっていた。そんなわけで根掘り葉掘りと聞いているうちに、闘技場に到着した。
それはローマのコロッセオをほうふつとさせる立派な円形闘技場であった。観衆はどうやら国王とその取り巻き程度のようで、20人にも満たない。入るやいなや準備万端とばかりにデルフィエがしきり始めた。
「お集まりのみなさま。こちらが勇者であらせられるジーク様である。対するは我が国最強の剣士、ダルニアである。この試合の審判は、このデルフィエが務めさせていただく。試合のルールは、致命傷以上の攻撃および魔法の行使を禁止のみとする」
デルフィエの紹介でいいぞいいぞとばかりに意気をあげた聴衆は、一転して試合開始前の緊張した雰囲気に固唾を飲んでいた。国王の近くにいるのは、たぶんお偉いさんだよな。いいのかよそんな軽くて。なんて思ったり。
俺とダルニアが一定の距離をとって向かい合う。しかしそこで、気づいてはいけないことを気づいてしまった。剣の使い方がわからないということに・・・。
俺は剣道や居合道といった武道をしたことがない。だから当然剣も素人である。
それに対して、相手はこの国で最強の剣士。勘弁してくれよと思わずにはいられなかった。ん、だが待てよ・・・情報処理能力が上がってたっていうことは、剣の腕も同じく勝手に上がってるんじゃないか。そう思うと、俄然やる気が出てくる。
「ジーク様、どうかお手柔らかに」
「こちらこそ!」
両者が息を吞む。
「それでは両者位置について、はじめ!」
この合図とともにダルニアが構えをとって、こっちの様子をうかがっている。俺は作法に則った構えも知らないから、とりあえずてきとーに剣を構える。睨み合うこと30秒、この時間が何倍にも感じたのは気のせいじゃなかった。
「てゃあーーー」
戦況は一瞬で動いた。叫びながらダルニアが斬りかかってくる。向かってくるダルニアの剣筋が面白いように見えた。筋が見えていたらこっちのもんである。って考えてたら、身体がふっと反応した。
ガチャンっ
その瞬間、剣の落ちる音がした。気づいたら俺がダルニアの剣を思いきり弾いていた。
「「「おおお」」」
国王を始めとした聴衆が歓声をあげた。
「そこまで!ジーク様の勝ち」
予想以上だった。勇者補正ってやつ?自分が把握できない強さは、いまいちピンと来ない。とりあえず、俺はこの国一番だってことはわかった。
だけど、敵国に俺のような奴がいたとしたら・・・うん、前線に出るのは危ないね。俺は極力戦わないようにしよう。そう心に誓った。
「お見事です。自在の構えとは恐れ入りました」
ダルニアが自在の構えとか言って褒めてくる。いやいや、なにもわからないだけなんですけどね・・・
「見事であった。ジークよ。この強さであれば、あの憎きサミュエル連邦にも勝てるであろう」
観客席から見ていたティアネスも満悦気味に褒めている。この国王、俺を戦に行かせる気満々である。この強さなら当然そう思うよなあ・・・と思いつつ、俺は前線に出ないと誓ったばかりだ。前世ではまったく武道をたしなんでいなかったから、身体を動かすより頭を動かしていたいと思っている。ということで、俺の今後の方針が決まった。国王にお願いしてみるとにしよう。
「お褒めにあずかり、光栄です。そこでお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんだとも。支援は惜しまんと言ったではないか」
「ありがとうございます。それでは、僭越ながら私を財務長官に任命していただけないでしょうか」
なぜ財務長官かというと、知っての通り俺は経理部出身のサラリーマンだ。だからってわけではないが、財務に関する知識は自信がある。というより、そもそも武力で解決しようというのが野蛮なのである。現代はもはや経済戦争《マネーゲーム》の時代である。
戦争するにも金が第一なのだ。てなことを思っていると、国王が素っ頓狂な声で
「え、は?財務長官?」
と聞き返してきた。
これだけ聞くとすごい間抜けな反応だ。
「はい、財務長官です。可能であれば、国政全般に融通が利くような立場をお願いしたいです」
国王の周りにいる者がざわめき始めた。なぜ勇者がそのようなことを、なんていう声も聞こえてきた。
「ふむ、その真意を問おうではないか」
不意打ちから立ち直った国王が意外そうな顔でそう聞いてくる。待ってましたとばかりに俺は歴史を絡めつつ、財務の重要性を説明することにした。
「かつて、この国は覇王フェンリルのもと、領土を大いに拡大できたそうですね」
「うむ、その通りである」
「ではなぜ、こうも容易く数十年のうちに領土を多く失ってしまったのでしょうか」
「むぅ・・・痛いとこをつくのう。言いたくはないが、我が国が弱かったということだろう」
「ええ、現在弱いのは間違いないでしょう。ですが、覇王フェンリルのもとには数多くの勇将が居たのはずです。なのになぜ代が変わった途端負けたのでしょうか」
「うーむ、難しいのう。ワシが思うに覇王フェンリルあっての国だったからではないか?我が先祖は夜は誰よりも遅く寝て、朝は誰よりも早く起きていたようだ。そのような生活の無理が祟って、早逝してしまったといわれている」
「私も同感です。覇王フェンリルあっての国だから脆かったのです。さらに問題となるのはそのあとです。おそらく覇王フェンリルの行おうとした政策を全て失くしてしまったのでは?」
俺の言うことに、国王はなぜそれをという驚いた顔をしている。
「その通りだ。我が先祖の偉大なるお考えには、誰も及ばなかった。命じられてやることはできても、それを引き継ぎ変える力は、無かったのだろう。結局、今までのやり方に戻してしまった」
悲しい話よと言わんばかりに国王は話している。
「そう、その今までどおりがダメなのです。国土が広大になれば、それに応じた運営が必要になります。ですが、残念ながらその基礎を作ることができなかった。聖カテリーナ国のあまりにあっけない滅亡を考えると、新たな運営方法を考える時間がなかったのかもしれませんが」
「そうよな、もし覇王フェンリルが長生きしていたら、こうも我が国が衰退することはなかったであろう」
「ええ、ですがそれを考えても仕方ありません。話を変えますが、どうしてサミュエル連邦に負け続けなのでしょうか」
「それについては、私がお答えしましょう」
隣で聞いていたダルニアが声をあげる。
「サミュエル連邦が我が国に攻め寄せるのは数年に一度です。ですが、その一度で確実に攻略していきます。我が軍も精鋭をもって守っておりますが、勝つことが叶いませんでした」
数年に一度っていうのがわかってて、どうして勝てないんだよって内心ツッコんだ。どうやら深刻なくらい国力が低下しているのだろう。数年も備える時間があって、なお負けるとは、もはや呆れるしかない。気を取り直して、これは仕事のやりがいがあると考えることにした。
「数年という時間がありながら、負けてしまうのは、サミュエル連邦が富国強兵を成し遂げているのにほかならないでしょう」
「ふこくきょうへい?なんだそれは」
やはり富国強兵という概念はないようだ。
「富国強兵とは、国を富ませることこそ兵を強くするという考え方のことです」
それを聞くと国王は、そんなことかとばかりに自信満々で答える。
「なんだ、それなら我が国もそうであろう。金ならたくさんある」
ああ、なぜこの人はこんなにも自信満々なのだろう・・・。
「ほう?ではなぜ庶民は疲弊しているのでしょうか」
国に金がたくさんあるのに庶民が疲弊する。どう考えてもおかしな話である。
となると、考えられる選択肢は限られてくる。庶民の生活とは別のところにお金を使っているか、誰かの懐に入っているか、貯めているかの大体そこらへんだろう。
「国王、そのお金はどう使われているのでしょうか」
「もちろん戦費と内部留保である」
ああ、異世界に転生してまで内部留保、すなわち貯金という言葉を聞くことになるとは・・・。やれやれと呆れているのが顔に出てしまったのか、国王が気まずそうに聞いてくる。
「な、なにか問題があるのか?」
これではっきりした。俺は勇者として戦うよりもこの国の内政を立て直すために来たのだと。
「いえ、状況は把握しました。では、話を戻して、私に財務長官をお任せください」
国王は腑に落ちないという表情をしているが、もうこの人と話していても仕方ない。先に進むことにした。
「あ、ああ、そうであったな。うむ。ジークには支援を惜しまんといったからにはこれも例外ではない。おぬしがワシの理解できぬことを考えていることはわかった。財務長官だけでは、融通が利く立場というわけではあるまい。新たな役職を作るとしよう」
なんて話していると、事態を見守っていたデルフィエがおもむろに進言する。てか、理解できないって言っちゃったよこの国王。
「国王陛下、内務長官という役職はいかがでしょうか。内務という名の通り、内政全般に関わる役職です。必要とあれば各長官に便宜を図ることも可能となります」
デルフィエの進言に、我が意を得たりとばかりに国王ティアネスが反応する。
「さすがはデルフィエである。良い案だ。さて皆の者!良く聞けい!ティアネス・シャルナークの名においてジークを内務長官に任命する。ここにいる者は全力で支援するように」
そう高らかに宣言する。
「「「ははっ」」」
へー闘技場でなし崩しに決まったけど、儀式とかないんだ。この国って。そもそも、闘技場する話じゃないよねって思ったけど、話を振ったのは俺だった。ていうかさ、内務長官って宰相だよね!?この国王、心が広いというかなんというか・・・大丈夫かこの国・・・。まあ、それを何とかするのが俺の仕事か。うん、そう考えることにする。
「では、ジークよ。これよりよろしく頼む。組織については、ジークに任せる」
俺の家臣団が作れるのか。一気に大出世じゃん。
「承知いたしました。私の全力をもってシャルナーク王国を強くいたしましょう」
戦わない勇者って勇者じゃないよなって思いつつ、俺はうやうやしく頭を下げた。
こうして勇者ではなく政治家としての日々が始まった。これは後に、オスタリア大陸全土を揺るがす「紅鉄宰相」と呼ばれる男の物語である。
この国は国王ティアネスのもと、大臣にあたる長官がそれぞれ治めているという。庶民の暮らしについては、あまり豊かとは言えぬようだ。というのも長年の戦争ですっかり庶民が疲弊しているためである。しかし、貴族というものが存在しないのは大きく評価できる。領地ではなく通貨によって賞罰をおこなっているということである。お金は、俺の専門ということで、俄然興味が湧いた。
ってあれ、俺ってこんな情報処理能力高かったっけ?俺の頭の中では面白いようにこの国の現状が鮮明に浮かび上がっていた。そんなわけで根掘り葉掘りと聞いているうちに、闘技場に到着した。
それはローマのコロッセオをほうふつとさせる立派な円形闘技場であった。観衆はどうやら国王とその取り巻き程度のようで、20人にも満たない。入るやいなや準備万端とばかりにデルフィエがしきり始めた。
「お集まりのみなさま。こちらが勇者であらせられるジーク様である。対するは我が国最強の剣士、ダルニアである。この試合の審判は、このデルフィエが務めさせていただく。試合のルールは、致命傷以上の攻撃および魔法の行使を禁止のみとする」
デルフィエの紹介でいいぞいいぞとばかりに意気をあげた聴衆は、一転して試合開始前の緊張した雰囲気に固唾を飲んでいた。国王の近くにいるのは、たぶんお偉いさんだよな。いいのかよそんな軽くて。なんて思ったり。
俺とダルニアが一定の距離をとって向かい合う。しかしそこで、気づいてはいけないことを気づいてしまった。剣の使い方がわからないということに・・・。
俺は剣道や居合道といった武道をしたことがない。だから当然剣も素人である。
それに対して、相手はこの国で最強の剣士。勘弁してくれよと思わずにはいられなかった。ん、だが待てよ・・・情報処理能力が上がってたっていうことは、剣の腕も同じく勝手に上がってるんじゃないか。そう思うと、俄然やる気が出てくる。
「ジーク様、どうかお手柔らかに」
「こちらこそ!」
両者が息を吞む。
「それでは両者位置について、はじめ!」
この合図とともにダルニアが構えをとって、こっちの様子をうかがっている。俺は作法に則った構えも知らないから、とりあえずてきとーに剣を構える。睨み合うこと30秒、この時間が何倍にも感じたのは気のせいじゃなかった。
「てゃあーーー」
戦況は一瞬で動いた。叫びながらダルニアが斬りかかってくる。向かってくるダルニアの剣筋が面白いように見えた。筋が見えていたらこっちのもんである。って考えてたら、身体がふっと反応した。
ガチャンっ
その瞬間、剣の落ちる音がした。気づいたら俺がダルニアの剣を思いきり弾いていた。
「「「おおお」」」
国王を始めとした聴衆が歓声をあげた。
「そこまで!ジーク様の勝ち」
予想以上だった。勇者補正ってやつ?自分が把握できない強さは、いまいちピンと来ない。とりあえず、俺はこの国一番だってことはわかった。
だけど、敵国に俺のような奴がいたとしたら・・・うん、前線に出るのは危ないね。俺は極力戦わないようにしよう。そう心に誓った。
「お見事です。自在の構えとは恐れ入りました」
ダルニアが自在の構えとか言って褒めてくる。いやいや、なにもわからないだけなんですけどね・・・
「見事であった。ジークよ。この強さであれば、あの憎きサミュエル連邦にも勝てるであろう」
観客席から見ていたティアネスも満悦気味に褒めている。この国王、俺を戦に行かせる気満々である。この強さなら当然そう思うよなあ・・・と思いつつ、俺は前線に出ないと誓ったばかりだ。前世ではまったく武道をたしなんでいなかったから、身体を動かすより頭を動かしていたいと思っている。ということで、俺の今後の方針が決まった。国王にお願いしてみるとにしよう。
「お褒めにあずかり、光栄です。そこでお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんだとも。支援は惜しまんと言ったではないか」
「ありがとうございます。それでは、僭越ながら私を財務長官に任命していただけないでしょうか」
なぜ財務長官かというと、知っての通り俺は経理部出身のサラリーマンだ。だからってわけではないが、財務に関する知識は自信がある。というより、そもそも武力で解決しようというのが野蛮なのである。現代はもはや経済戦争《マネーゲーム》の時代である。
戦争するにも金が第一なのだ。てなことを思っていると、国王が素っ頓狂な声で
「え、は?財務長官?」
と聞き返してきた。
これだけ聞くとすごい間抜けな反応だ。
「はい、財務長官です。可能であれば、国政全般に融通が利くような立場をお願いしたいです」
国王の周りにいる者がざわめき始めた。なぜ勇者がそのようなことを、なんていう声も聞こえてきた。
「ふむ、その真意を問おうではないか」
不意打ちから立ち直った国王が意外そうな顔でそう聞いてくる。待ってましたとばかりに俺は歴史を絡めつつ、財務の重要性を説明することにした。
「かつて、この国は覇王フェンリルのもと、領土を大いに拡大できたそうですね」
「うむ、その通りである」
「ではなぜ、こうも容易く数十年のうちに領土を多く失ってしまったのでしょうか」
「むぅ・・・痛いとこをつくのう。言いたくはないが、我が国が弱かったということだろう」
「ええ、現在弱いのは間違いないでしょう。ですが、覇王フェンリルのもとには数多くの勇将が居たのはずです。なのになぜ代が変わった途端負けたのでしょうか」
「うーむ、難しいのう。ワシが思うに覇王フェンリルあっての国だったからではないか?我が先祖は夜は誰よりも遅く寝て、朝は誰よりも早く起きていたようだ。そのような生活の無理が祟って、早逝してしまったといわれている」
「私も同感です。覇王フェンリルあっての国だから脆かったのです。さらに問題となるのはそのあとです。おそらく覇王フェンリルの行おうとした政策を全て失くしてしまったのでは?」
俺の言うことに、国王はなぜそれをという驚いた顔をしている。
「その通りだ。我が先祖の偉大なるお考えには、誰も及ばなかった。命じられてやることはできても、それを引き継ぎ変える力は、無かったのだろう。結局、今までのやり方に戻してしまった」
悲しい話よと言わんばかりに国王は話している。
「そう、その今までどおりがダメなのです。国土が広大になれば、それに応じた運営が必要になります。ですが、残念ながらその基礎を作ることができなかった。聖カテリーナ国のあまりにあっけない滅亡を考えると、新たな運営方法を考える時間がなかったのかもしれませんが」
「そうよな、もし覇王フェンリルが長生きしていたら、こうも我が国が衰退することはなかったであろう」
「ええ、ですがそれを考えても仕方ありません。話を変えますが、どうしてサミュエル連邦に負け続けなのでしょうか」
「それについては、私がお答えしましょう」
隣で聞いていたダルニアが声をあげる。
「サミュエル連邦が我が国に攻め寄せるのは数年に一度です。ですが、その一度で確実に攻略していきます。我が軍も精鋭をもって守っておりますが、勝つことが叶いませんでした」
数年に一度っていうのがわかってて、どうして勝てないんだよって内心ツッコんだ。どうやら深刻なくらい国力が低下しているのだろう。数年も備える時間があって、なお負けるとは、もはや呆れるしかない。気を取り直して、これは仕事のやりがいがあると考えることにした。
「数年という時間がありながら、負けてしまうのは、サミュエル連邦が富国強兵を成し遂げているのにほかならないでしょう」
「ふこくきょうへい?なんだそれは」
やはり富国強兵という概念はないようだ。
「富国強兵とは、国を富ませることこそ兵を強くするという考え方のことです」
それを聞くと国王は、そんなことかとばかりに自信満々で答える。
「なんだ、それなら我が国もそうであろう。金ならたくさんある」
ああ、なぜこの人はこんなにも自信満々なのだろう・・・。
「ほう?ではなぜ庶民は疲弊しているのでしょうか」
国に金がたくさんあるのに庶民が疲弊する。どう考えてもおかしな話である。
となると、考えられる選択肢は限られてくる。庶民の生活とは別のところにお金を使っているか、誰かの懐に入っているか、貯めているかの大体そこらへんだろう。
「国王、そのお金はどう使われているのでしょうか」
「もちろん戦費と内部留保である」
ああ、異世界に転生してまで内部留保、すなわち貯金という言葉を聞くことになるとは・・・。やれやれと呆れているのが顔に出てしまったのか、国王が気まずそうに聞いてくる。
「な、なにか問題があるのか?」
これではっきりした。俺は勇者として戦うよりもこの国の内政を立て直すために来たのだと。
「いえ、状況は把握しました。では、話を戻して、私に財務長官をお任せください」
国王は腑に落ちないという表情をしているが、もうこの人と話していても仕方ない。先に進むことにした。
「あ、ああ、そうであったな。うむ。ジークには支援を惜しまんといったからにはこれも例外ではない。おぬしがワシの理解できぬことを考えていることはわかった。財務長官だけでは、融通が利く立場というわけではあるまい。新たな役職を作るとしよう」
なんて話していると、事態を見守っていたデルフィエがおもむろに進言する。てか、理解できないって言っちゃったよこの国王。
「国王陛下、内務長官という役職はいかがでしょうか。内務という名の通り、内政全般に関わる役職です。必要とあれば各長官に便宜を図ることも可能となります」
デルフィエの進言に、我が意を得たりとばかりに国王ティアネスが反応する。
「さすがはデルフィエである。良い案だ。さて皆の者!良く聞けい!ティアネス・シャルナークの名においてジークを内務長官に任命する。ここにいる者は全力で支援するように」
そう高らかに宣言する。
「「「ははっ」」」
へー闘技場でなし崩しに決まったけど、儀式とかないんだ。この国って。そもそも、闘技場する話じゃないよねって思ったけど、話を振ったのは俺だった。ていうかさ、内務長官って宰相だよね!?この国王、心が広いというかなんというか・・・大丈夫かこの国・・・。まあ、それを何とかするのが俺の仕事か。うん、そう考えることにする。
「では、ジークよ。これよりよろしく頼む。組織については、ジークに任せる」
俺の家臣団が作れるのか。一気に大出世じゃん。
「承知いたしました。私の全力をもってシャルナーク王国を強くいたしましょう」
戦わない勇者って勇者じゃないよなって思いつつ、俺はうやうやしく頭を下げた。
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