傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月

文字の大きさ
53 / 92
行先

旅の終わりからはじまる

しおりを挟む
 転送後、四人は転送塔にたどり着いた。

 周囲は、塔の白い壁に囲まれていた。背後には白い柱がある。白い壁は、一か所だけ縦に細長い隙間があった。人一人がやっととおれそうな隙間の先に、眩しい緑色の光があふれていた。

 セウラザを先頭に、一人ずつ、隙間をとおっていく。
 一番背が低く、線のほそいフィノアだけが、特に苦も無く、隙間をとおりぬけた。

 ≪外殻≫という名が付いているらしい大草原を見て、ラトスは懐かしい気持ちになった。
 夢の世界に来てそれほど経っていないが、この草原だけは、見ていると妙に気持ちが落ち着いた。時々強い風が吹きつけるが、それもまた心地いい。

「おかえりー!」

 上空から、子供のような声が聞こえた。ペルゥだ。
 頭上に浮いている岩山の上から降りてきたのだろうか。落ちてきているのかと思うほどの速度で、白い猫のような獣が飛びこんできた。あまりの速さにラトスは身を引いたが、メリーはペルゥを受け止めようと駆けだしていく。

「ただいまー!」

 四人の頭上で減速したペルゥを、メリーは両腕をあげてつかんだ。ペルゥの真っ白な三つの尻尾が、跳ねるように動いている。メリーは胸元に抱き寄せて、小さなペルゥの身体に頬ずりした。

「……あれは、猫? ですか? ……喋ってますけど」

 突然現れたペルゥとはしゃいでいるメリーを見て、フィノアはこぼすように小さく言った。

「あれが、腕輪の声の、ペルゥだ」
「……あれが、ペルゥ」

 訝し気な表情をして、フィノアは白い猫のような獣を見ていた。
 さすがに、メリーのようにはいかないか。そう思っていたが、フィノアはゆっくりとメリーのところまで歩いていった。そして、そっとのぞくようにペルゥの姿を見た。

「……可愛いわ」

 のぞきこんできた少女に、ペルゥは手をふる。それを見て、フィノアはわずかに口の端をあげた。

「君が、王女様だね!」
「そうよ。あなたが、ペルゥという子ね」
「そう!」
「……ねえ、メリー。この子。連れて帰りたいわ」

 真剣な表情で、フィノアは言った。思いもしなかった言葉に、ペルゥは目を丸くする。抱きかかえていたメリーも目を丸くした。その発想はなかったと、言わんばかりだ。

「嬉しいけど、ボクたちはこの世界から出られないんだ」
「どうしてですか?」
「決まりというか……、夢の世界の住人には、制限がかかってるんだ」

 珍しく困った顔をして、ペルゥは説明をした。茶化そうとする様子もない。
 個人の夢の世界にも、ペルゥは行けないのだ。夢の世界の住人には、意外と厳しい制限があるのかもしれない。

「そう……残念だわ」

 本気で連れて帰りたかったのだろうか。フィノアは消沈して、肩を落とした。

「ペルゥ。確認したいのだが」

 肩を落とすフィノアを横目に、ラトスはペルゥに声をかけた。

「なーに?」
「≪現を覗く間≫とやらで、元の世界に戻れるのか?」
「んー。そうだね。そのはずだよ」
「そのはず、というのは、ずいぶん適当だな。違うかもしれないのか?」
「ううん。そのはずなんだけど、今まであそこから帰っていったのは、一人しかいなくて」

 そう言いながらペルゥは、メリーの胸元からはなれて、ふわりと浮かびあがった。メリーの頭より高く浮かんで、辺りを見回す。なにを探しているのだろうかと思ったが、やがて小さな前足をなにかに向けて伸ばした。ペルゥが差した方向に目を向けると、広い草原にぽかりと小さな穴が開いているのが見えた。石室に繋がる転送石、白い柱がある洞窟の入り口だろうか。

「一人……?」

 小さな穴を見ながら、ラトスは首をかしげて言った。

「そうだよ。ずいぶん前だけどね。あの部屋に、変な石があるでしょ? 光ってるやつ」
「あるな」

 テラズの宝石のことだろう。夢の世界では、あの石に名前が付いていないのだろうか。

「あの石が、転送石のはずだよ」
「あれが、転送石だって?」

 ラトスは驚いて、高く浮かんでいるペルゥを見あげた。
 あの宝石が転送石ということは、現の世界にあるテラズの宝石も転送石だということだろうか。とすれば、森の沼で光っていた不思議な砂粒も、テラズの宝石ということになるのか。言われてみれば、あの不思議な砂粒もテラズの宝石に似た光り方をしていた気がした。転送という方法で夢の世界に来たのは予想していたが、まさか、テラズの宝石を利用したとは思いもしなかった。

「そういうことだったのか」

 ある程度合点がいって、ラトスは深くうなずいた。
 ペルゥが言う、ただ一人現の世界に帰ったという人間は、おそらくはるか昔のテラズだろう。魔法が使えたというのも、おとぎ話ではないのかもしれない。現の世界に帰っても、そのまま魔法が使えるようになっていたのだろう。

 だが、謎も生まれる。
 なぜ、夢の世界にある転送の力が、現の世界に及んでいるのだろうか。ペルゥが以前に説明したとおりだとすると、テラズの宝石は元々ひとつだったということになる。そのひとつをふたつに分けなければ、転送の力は使えないはずだ。

 誰かが、あえて、ふたつに分けたはずだ。
 テラズが分けたのか。それ以前の誰かか。しかも、これほどのことをなぜ現の人間は知らないのか。まるで、誰にも知られないように隠してきたかのようだ。

「……考えても、仕方ないか」

 ラトスは小さく呟いた。ペルゥが、何か言った? と聞いてきたが、ラトスは頭を横にふっておいた。
 ラングシーブとして今後も生きていくなら、調べがいがあることだったろう。だが、ラトスの旅はもう終わる。フィノアとメリーは、城の中の人間だ。気軽に調べられる立場ではないし、今後は外出すら困難になるに違いない。余計なことを言って心を騒がせたところで、この先、何の発展もないだろう。

 死ぬ前に、ミッドにでも話してみようか。
 あれこれと考えながら、ラトスは後ろをふり返った。フィノアとメリーが、ラトスを見ていた。難しい顔をして黙って考えこんでいたので、終わるのを待っていたのだ。彼女たちの後ろにいたセウラザは、ラトスがふり返ると、そろそろ行くかとたずねてきた。

「ああ。行こう」

 ラトスは言って、草原にぽかりと開いた小さな穴に向かって歩きだした。

 これまでのことをミッドに話したら、あの男は信じるだろうか。それとも、大声で笑い飛ばすだろうか。ミッドの大きな身体が、大きくゆれながら大声で笑うのを想像して、ラトスは苦笑いをした。

 信じるはずもない。

 だが、良い冥途の土産ができた。それだけで、良い気もした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

処理中です...