【完結】死にたくないので、完璧な令嬢を全う致しますわ。

キーノ

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 マリエットは、前世の記憶を取り戻して直ぐ、まずは冷めきっていた自分の父親アルバス・ヴィストン公爵との関係を修復しに取りかかった。

「愛していた妻の命と引き換えにマリエットは産まれたのだから、当然、わたくしは疎まれているのよね」

 マリエットの記憶の中の父アルバスは、マリエットを見る度に眉間にシワを寄せる姿が多かった。マリエットも怯えて、甘え方を知らずにいたので、義務的な受け答えのみの会話しかしていなかった。

 そんなアルバスの娘への態度が、娘を軽んじても良いと捉えた一部の使用人から、マリエットは冷遇もされてもいた。
 公爵令嬢という特権階級に産まれ、更にこの国の王子の婚約者に3歳で選ばれたマリエット。将来的にも約束された美貌も併せ持つが故の嫉妬と僻みが、マリエットへの言動や態度に出ていた。

 だからこそ、公爵家の王都にあるタウンハウスの使用人のうち、マリエットに仕える侍女は、乳母のエレナとその娘コレットの2人だけだった。

「父親に急にグイグイいくのもダメよね。さりげなく少しずつ、実はパパに構って欲しいのよアピールをしましょう。それと、わたくし専属の使用人も替えてもらわないと」

 今日はエレナとコレットは非番で、マリエットのお世話は別の侍女の日だったが、朝になっても侍女はマリエットを起こしにも来ない。

「はぁ……まぁ、いいわ」

 ぶつぶつと計画を部屋の中で呟いたマリエットは、エレナとコレットがいない、いつも通り、自分で準備を済ませ、1人で食堂に移動をして朝食を食べ始めた。

 朝食には遅れてアルバスも一緒に座るが、マリエットを見ると眉間にシワを一瞬だけ寄せて、会話は当然無い。
 素早く朝食を終え、執事のヒューバートと今日の予定を話し合い、食後のコーヒーと共に新聞を読むと、さっさと執務室へと向かって行った。

 マリエットは、今日の父親の予定をこっそり盗み聞き、ほくそ笑んでいた。





 マリエットの予定も忙しい。午前中はお勉強で、1時間置きに、ダンス、刺繍、算術、歴史を今日は勉強する。明日はダンス、語学、経済学、帝王学というハードスケジュールが、毎日交互にやって来る。幸いにも前世の記憶に近い貴族社会で、この国の情勢も安定している。周辺国も前世に比べて圧倒的に少なく覚えやすい名前だった。

「歴史が浅いから、前世よりも覚えやすいわ」

 マリエットの頭の出来も若さ故の柔軟性のおかげで、知識はどんどん吸収した。

 お昼ご飯の後は、お昼休憩とお昼寝の時間が用意されていて、午後3時から2時間だけ周辺国の言葉と文字、特産品や情勢の勉強だった。

 ハードな午前中をこなし、お昼ご飯を素早く食べた後、マリエットはお昼休みに庭いじりをするために庭へと出た。

 わざとスカートの裾部分に土つけ、で根っこから引き抜いて、てのひらを傷だらけにする。この世界の薔薇は、一株ずつに根が着いていて、子供の力でも簡単に抜けた。

 もちろん、マリエットに着いていなければならない侍女は周囲にはいない。

 良く見ればみすぼらしい格好で、父親の書斎へと向かう。朝の予定では、書斎に資料を探しに来ているはずだ。

 マリエットは、使用人に見つからない様に、スニーク行動は完璧だった。

 コン コン とドアをノックすると、「誰だ」とアルバスの声に続き、「何でしょうか」と執事ヒューバートの声が聞こえた。ガチャと少しだけ開いた隙間から執事ヒューバートが覗く。マリエットの顔を見て、目を細めた。ちなみにヒューバートは、マリエットの侍女であるエレナの旦那だ。

「これはお嬢様。いかがなさいましたか?」

「…あの、えっと、……パパに…これを…」

 両手で持って差し出した、少しクタクタになった薔薇の花。

「……おやおや。これは美しい。分かりました。旦那様、お嬢様が、お渡ししたいものがあるそうですよ」

「…………何? マリエットが…? 分かった」

「どうぞ、お嬢様。ご許可が貰えましたよ……おや……?」

 両手で薔薇を掴んでトテトテと歩くマリエット。両手の土やスカートの汚れに、ヒューバートは視線を向け、薔薇には根っ子と土塊も、もちろんセットでついている。
 恥ずかしくも嬉しそうに両手で薔薇を握るマリエットに、ヒューバートは目を丸くしつつも、微笑ましく何も言わなかった。

「………あの、これを……」

 アルバスは、立ったまま何かの資料を持っていたが、チラリと薔薇を両手で持つマリエットに視線を向け、眉間のシワを作る。

「…なんだ……薔薇…?」

「きょ、今日は、パパの…お、おたん、じょうび…プレゼントを……取ってきたの……」

「……ぁ、あぁ……、そ……うか。もう、そんな時期か……」

 今日はアルバスの誕生日だと、マリエットは事前に調べていた。

「お、おめでとうございます……パパ」

 差し出される薔薇に、アルバスの眉間のシワが少しだけ緩められたが、薔薇の花以外の場所に目が移り、眉間のシワが濃くなっていった。

「……マリエット、この花は、んだ?」

「……? 1人で、です…」

「……そうか。ヒューバート」

「かしこまりました。お嬢様、花瓶を一緒に用意致しましょう。執務室へ戻るので、そこに飾りましょうね。それと、手も洗って、お洋服も着替えましょう」

「…あ……はい…」

 マリエットは、今気づいたとばかりに、片方の手を広げて土汚れを見てから顔を恥ずかしげにうつむかせた。

「待ちなさい、傷があるじゃないか!」

 広げられたマリエットの手の傷を見て、アルバスの表情が怒りに染まる。マリエットから薔薇をそっと受け取ると、薔薇がトゲも抜かれずにそのままであるのを確認し、本が置かれた小さな丸いテーブルに置いた。

 アルバスはマリエットの手に、ポケットから取り出した真っ白なハンカチを握らせた。 その手は少し震えてはいたが、嫌悪からのものではない。優しい手付きで、マリエットの両手にハンカチを握らせているのを、マリエットは気が付いていた。

「傷の手当ても、してきなさい」

「はい……」

 ヒューバートの後に続くマリエットが落ち込んでいる様に見えたアルバスは、その小さな後ろ姿を呼び止めた。

「……マリエット」

「……?」

 マリエットの振り返る姿が愛しい妻を思い起こさせたアルバスは、懐かしげに口元を緩ませ「薔薇を、ありがとう」と自然に言葉が出ていた。

 マリエットも、自然に子供らしく微笑んで「はい!」と返事を返していた。
 




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