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「サリエル! 貴方、マリエットにもっと感謝しなさいよ!」
地獄のパーティが終わり、着替えを済ませたサリエルをドレスルームから出待ちしていたのは、従姉妹のハリアベーヌだった。
「開口一番に言うセリアではないね」
王族の血縁者や婚約者、侍従や側近などしか立ち入れられない王宮でのプライベートな区画だったからこそ、貴族なりの遠回しな言い方をせず、ハリアベーヌも遠慮無く言葉を伝えている。
「お疲れ様とでも言って欲しかったのかしら? 冗談じゃないわ」
「……今日は実にトゲが鋭いね。まぁ原因はあいつらだろうけど」
思い出すのも苦痛なパーティでのあらまし。
サリエルは自分の執務室へと移動を開始し、それにハリアベーヌも続く。
「わかっているじゃない。そもそも貴方が、ちゃんとした側近を選んで無いから、ああいう勘違いをする者が現れるのよ! ドレスコードの件だってそう! 本来であれば、側近が一番に貴方に知らせて、侍従に指示を出させなきゃいけないのに!」
グッサリとした物言いのハリアベーヌに、サリエルは顔を歪めた。
「わかってはいるんだ。しかし側近にしたいと思う者が……、なかなか見つからないのも事実なんだよ。僕の場合は……本当に、慎重に決めないと……」
マリエットさえいれば、今までサリエルは問題無かった。ドレスコードも、貴賓の情報も、他国の礼儀作法も、特産品も。全てが読みやすく纏められた資料があった。
マリエットの侍女コレットが言うには、サリエルのためにマリエットが手書きで書いていた資料だと言う。
「それもこれも、今までマリエットに甘え続けて来たツケよね!」
「耳が痛い……」
ハリアベーヌは、言いたいことを言ってスッキリしたのか、本気で落ち込むサリエルに、ちょっとだけ言い過ぎたと思った。
自分の苛立ちを落ち着けるため、大きく深呼吸をした。
「すぅーふぅ……。少し言い過ぎたわ。でも、これだけは最後に言わせて。マリエットを大切にしなさいよ。今回、彼女の代理を頼まれて、本気で焦ったんだから!」
「ああ、感謝しているよ」
2人はサリエルの執務室へと到着し、ハリアベーヌは勝手に応接用ソファへと座る。サリエルも、ハリアベーヌがまだ話が終わって無いのを察知し、対面へと腰を下ろした。
すかさず、サリエルの侍従がお茶の用意を始めた。
「それで、話を戻すけれど。あのご令嬢はだれなの? 貴族であれば全員が当たり前にできる礼儀作法すらまともにできず、外交を悪化させるような物言い。ドレスコードすら、あの3人の全員が守れて無かったわよ」
「ドレスコードは、僕も直前まで知らなかったよ? それに彼らの処罰は考えてある。マスカレード男爵令嬢は、謹慎1月。サッシュベリー公爵子息、モスキート公爵家次男の彼らには、僕の側近になる資格を永遠に剥奪する」
「……妥当ね。ドレスコードについては、貴方の自業自得よ。他の大臣や貴族家には、ちゃんと情報が回って来ていたわ。それにしても、あの男爵令嬢は1月の謹慎の意味を、ちゃんと理解出来るかが心配よ」
病気でもないのに、1月の謹慎を王家から命じられる醜聞は、様々な悪い噂を生み出す可能性がある期間でもある。
もちろん出会いの場であるパーティーやお茶会にも参加が出来ない。将来的に婚約者を見つけるのも大変になると言うのに。
「……彼女は、去年からマスカレード男爵家に引き取られたばかりの元平民だからね。あの性格だと、謹慎の意味を理解できず軽い処分とでも喜びそうだよ」
学園で、身分差も関係なく話し掛けて来る男爵令嬢ユルミナ・マスカレードに、サリエルは最初こそ新鮮さを感じた。
平民だったと自分語りを教室でしだした彼女に、平民の意識や考え方など、クラスメイト達が興味を示したのは事実だった。
しかしサリエルは、彼女とは一対一で話した事は一度もない。周囲には必ずクラスメイトがいた。
「なにそれ。お馬鹿にも程があるわよ!」
「彼女はポジティブな考え方が得意らしい。だが、そうさせてしまっているのは、周囲と、僕の態度が勘違いをさせる原因になってしまったんだと、今にしては思うよ」
「……それでも、貴方はマリエットっていう婚約者がいることを伝えたのではなくて?」
「ああ、伝えた。だが……政略結婚で愛がないのは可哀相だと言われてしまったよ」
その言葉を聞いた時のサリエルの心情は苛立ちだった。サリエルの父と母も政略結婚であり、とても仲が良いのに、産まれてきた自分が愛されてないと言われた気がしたからだ。
それにサリエルはマリエットを愛しているし、マリエットも自分を想ってくれている。7歳からお互いに支えあっていたのだ。相思相愛だとサリエルは思っているし、マリエットを大切にしていると自信を持って言える。
「平民の自由恋愛っていうのに毒されているのね。平民の方が浮気する確率は高いのに。公共の場で子息を2人も侍らせて何を考えているのかしらね? 何の例えを持って、政略結婚に愛がないなんて思い込んでいるのかしら? 私のお父様とお母様に愛がないって言われている気がして、とても気分が悪くなるわ」
「そうだね……。僕も、彼女の考え方は理解不能だ」
サリエルの言葉には、関わりを断ちたいと言う心情が込められていた。
「早急に、側近を決める必要があるわよ」
「腹をくくるしか無いか……」
側近を決めてしまえば、マリエットが自分にさく時間が減って、彼女の負担が減らせるのだろう。しかし、マリエットと側近の出来の良さを比べてしまう気持ちと、更にマリエットにかまってもらえなくなる不安な気持ちが、サリエルの決断を鈍らせていたのだった。
◆
「どうして上手くいかないのよ!? 私はヒロインのはずよ!? モブの癖に私のドレスを汚すなんて!! そもそも、その役はライバル令嬢のマリエットの役目でしょうが!! 天然を爆発させた完璧マリエットの唯一の汚点イベントなのに! 私が王妃になったら、あのハリアなんとかって女を、私の専属の侍女にして、王宮の掃き溜め掃除係に任命してやるわ!」
親指の爪を噛む少女は、苛立ちを隠そうともせずに、大声で愚痴をわめき散らす。
マリエットの知る小説の主人公にして、昨年、男爵家に引き取られたユルミナ・マスカレード男爵令嬢だ。
「乙女ゲームのシナリオ通りに進んでいるはずでしょ!? ちょっと1度だけサリエル王子への言葉の選択を間違えちゃったけど、後はちゃんと正解の回答で言ってるじゃない! イベントもなかなか起きないし! どうなっているのよ! ムカつくわね!」
叫んでスッキリしたのか、ユルミナは立ち上がる。今日で謹慎もやっと解けるのに、進展は一切無い。
「……謹慎も解けるし、少し散歩にでも行こうかしら……。そうだわ! 彼らを誘って散歩に行きましょう! 精霊の森に行って、そろそろ次のイベントに必要なアイテムでも取ってこようかしら! ナーゴンが持っていた書類に、それらしい花の記述の資料があったし!」
ストーム伯爵家の長子ナーゴン。王宮で文官見習いをしている、乙女ゲーム内でも、サリエルの側近の一人だ。
真面目で優しいが取り柄の攻略対象。攻略対象たちの中では一番攻略がしやすい。
他のキャラと違い、華やかでは無いが整った容姿をしている。学園生活で一番最初にユルミナへと話し掛け、優しく学園生活でのフォローをしてくれる学級委員長だ。他の攻略対象へのツテ作りを担う役割のキャラだとユルミナは考えていた。
「精霊の森に行く準備をしなきゃ!」
王宮でのパーティ時に、たまたまナーゴンとスレ違った時に、わざとぶつかって、落ちた資料を盗み見たユルミナ。
それはマリエットが、治験前に纏めた精霊水晶花についての手書きの資料だった。
「王妃様の病気の治療薬に使う万能の花。本来だったら、サリエルの執務室で読めたはずなのに。ちっとも入れてくれないのよね。好感度上げが一番難しいキャラではあるけどー。でも私の推しだし! 難しい方が燃えるわ! マリエットも全然ゲーム通りだし、マリエットは私と同じで転生者説は消えているし! あとは好感度上げるだけ! 楽勝よ!」
ゲーム通りにマリエットは化粧品関連の事業と国母として王都での活動で学園には現れない手強すぎるライバル令嬢だ。
ゲーム内でも、マリエットは評判がとても良い完璧な令嬢。悪質なイジメや殺人未遂なんて事は起こさない。ただ完璧すぎるライバルポジの令嬢だ。
サリエルとマリエットの仲も良好で、美男美女の相思相愛。引き離すのが大変だし、良心の呵責に耐えられず、サリエルを諦めるユーザーも多い。
しかしサリエルルートに入り、サリエルとの真実の愛を貫けば、ヒロインの強い味方になってもくれる、非の打ち所のない完璧令嬢なのがマリエットだ。
「確か、精霊の森は学園の東の森だったわよね」
ユルミナは考えてもいない。ここはゲームの様に、人々はデータではなく、自分自身の考えを持って生きている人間であることを。一度相手に懐いた悪感情は、データの様に消えないと言うことをーーー。
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