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第一章
1の01 まどろみマーメイド
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フワフワとどこか気持ちいい。
こんな微熱もあったのね‥‥
不快感に苛まれる微熱しか知らなかったシレーヌはベッドの中で片手の甲を軽く額に乗せて、そんな風に思う。
3日間寝込んで、まだ完全には熱は下がり切っていないのだが、スッキリと目が覚めて、もう寝ていたくない。
ベッドから身を起こしてフラフラと窓辺まで歩き、カーテンを開ければ、まだお昼を過ぎた頃なのだろうか、太陽は高く、日差しは明るい。
「あぁ‥‥綺麗!」
自室の大きな窓から一望できる海を見渡して思わず叫ぶ。
(綺麗‥‥またそんな風に思える日が来るなんて‥‥)
数か月前に突然の事故で母を失くしてから、世界は灰色になっていた。
大好きな島の自然も。
大好きな海も。
何もかも。
あまりにも大切な人を失ってしまったから。
(こんな事ではダメ。
しっかりしなきゃ。
優しくしてくれたお母様の為にも、ちゃんと。
ちゃんと‥‥
生き、なきゃ‥‥)
その喪失感は気合でどうにかなるものではなかった。
だけどあの嵐の日に彼を見つけて。
救助する事が出来て。
シーブルーの瞳に魅せられて。
自分の中に灯った光が何なのかは分からない。
だけど世界は再び美しい色を取り戻した。
そう、今日の海の様に。
穏やかな今日の海は深く神秘的なシーブルー‥‥!
(まるであの御方の瞳の色そのまま‥‥)
寝込んでいる最中、夢とも現とも曖昧なまどろみの中で何度も現れたあの人‥‥
その瞳は深く鮮やかなシーブルー。
その美しい瞳をずっと見つめていたい‥‥
そんな願いをよそに、フッと目覚めてしまっては残念に思う繰り返しだった。
あのシーブルーの海にどこまでも沈んでいきたい想いに駆られて、戸惑う。
まだ恋を知らない少女は、跳ねる鼓動に困惑しながら、それでも、
(きっとこの微熱は、上がる事はあっても下がることは無いのではないかしら)
そんな予感‥‥いや確信に包まれ、知らず頬を染める。
「あらッ‥‥
まぁ、姫様!
まだお起きになるのは早いですよ!
完全に熱が下がるまではベッドでお過ごし下さい」
侍女に見つかってしまったのを機にシレーヌはベッドに戻る事にする。
「ん‥‥そうね。
何だか顔が熱いみたい。
もう少し休むわ」
「まぁ、素直ですこと?
いつもそうなら、良いのですがね?」
ニコニコしながら揶揄う様な口調の侍女。
赤ん坊の頃から仕えてくれている侍女はシレーヌにとって母や姉の様な存在だ。
心配性な彼女がこの様子なら自分の顔色は随分といいのだろうとシレーヌは思う。
ベッドに潜り込むと『フフ』と小さく笑い、無意識であろう、ハァと色香の漂う溜息を漏らして目を閉じるシレーヌ。
今まで見た事の無い主の大人びた様子に、侍女はドキリと固まってしまう。
少女から大人へと変わり始めた主の眩しさに思わず目を細める侍女。
そんな侍女に気付かないシレーヌは、夢の中でもう一度あの御方に会いたいと願う。
そう、まだ。
まだ、もう少しは夢で。
誰にも傷つけられる事の無い深い深い海の底でまどろみながら。
あの御方の輪郭と優しく凪ぐ美しいシーブルーにだけ想いを馳せていたい‥‥
目眩がする様な恋の予感に少し臆病になるシレーヌはまだ13才。
恋も人生も始まったばかり!
これから、素敵な事、ドキドキする事がたくさん待っている!
――はず、だったのに‥‥
こんな微熱もあったのね‥‥
不快感に苛まれる微熱しか知らなかったシレーヌはベッドの中で片手の甲を軽く額に乗せて、そんな風に思う。
3日間寝込んで、まだ完全には熱は下がり切っていないのだが、スッキリと目が覚めて、もう寝ていたくない。
ベッドから身を起こしてフラフラと窓辺まで歩き、カーテンを開ければ、まだお昼を過ぎた頃なのだろうか、太陽は高く、日差しは明るい。
「あぁ‥‥綺麗!」
自室の大きな窓から一望できる海を見渡して思わず叫ぶ。
(綺麗‥‥またそんな風に思える日が来るなんて‥‥)
数か月前に突然の事故で母を失くしてから、世界は灰色になっていた。
大好きな島の自然も。
大好きな海も。
何もかも。
あまりにも大切な人を失ってしまったから。
(こんな事ではダメ。
しっかりしなきゃ。
優しくしてくれたお母様の為にも、ちゃんと。
ちゃんと‥‥
生き、なきゃ‥‥)
その喪失感は気合でどうにかなるものではなかった。
だけどあの嵐の日に彼を見つけて。
救助する事が出来て。
シーブルーの瞳に魅せられて。
自分の中に灯った光が何なのかは分からない。
だけど世界は再び美しい色を取り戻した。
そう、今日の海の様に。
穏やかな今日の海は深く神秘的なシーブルー‥‥!
(まるであの御方の瞳の色そのまま‥‥)
寝込んでいる最中、夢とも現とも曖昧なまどろみの中で何度も現れたあの人‥‥
その瞳は深く鮮やかなシーブルー。
その美しい瞳をずっと見つめていたい‥‥
そんな願いをよそに、フッと目覚めてしまっては残念に思う繰り返しだった。
あのシーブルーの海にどこまでも沈んでいきたい想いに駆られて、戸惑う。
まだ恋を知らない少女は、跳ねる鼓動に困惑しながら、それでも、
(きっとこの微熱は、上がる事はあっても下がることは無いのではないかしら)
そんな予感‥‥いや確信に包まれ、知らず頬を染める。
「あらッ‥‥
まぁ、姫様!
まだお起きになるのは早いですよ!
完全に熱が下がるまではベッドでお過ごし下さい」
侍女に見つかってしまったのを機にシレーヌはベッドに戻る事にする。
「ん‥‥そうね。
何だか顔が熱いみたい。
もう少し休むわ」
「まぁ、素直ですこと?
いつもそうなら、良いのですがね?」
ニコニコしながら揶揄う様な口調の侍女。
赤ん坊の頃から仕えてくれている侍女はシレーヌにとって母や姉の様な存在だ。
心配性な彼女がこの様子なら自分の顔色は随分といいのだろうとシレーヌは思う。
ベッドに潜り込むと『フフ』と小さく笑い、無意識であろう、ハァと色香の漂う溜息を漏らして目を閉じるシレーヌ。
今まで見た事の無い主の大人びた様子に、侍女はドキリと固まってしまう。
少女から大人へと変わり始めた主の眩しさに思わず目を細める侍女。
そんな侍女に気付かないシレーヌは、夢の中でもう一度あの御方に会いたいと願う。
そう、まだ。
まだ、もう少しは夢で。
誰にも傷つけられる事の無い深い深い海の底でまどろみながら。
あの御方の輪郭と優しく凪ぐ美しいシーブルーにだけ想いを馳せていたい‥‥
目眩がする様な恋の予感に少し臆病になるシレーヌはまだ13才。
恋も人生も始まったばかり!
これから、素敵な事、ドキドキする事がたくさん待っている!
――はず、だったのに‥‥
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