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第一章

1の55 あれ? 空気変?

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スッ‥‥
ギュッ!



‥‥ッ!?



シレーヌがキラキラ笑顔でモーレイ嬢の手を握るのを見て、部屋にいるシレーヌを除く全員の時が止まる。

シレーヌの嬉しそうな様子や積極的な態度は部屋にいる誰にとっても初めてで。



(な‥‥酷いではないか!?
私にはまだ一度もそんな花が綻ぶ様な笑顔を見せてくれた事無いのにッ!)

とイラッとしたのは第二王子。


(え‥な? 何コレ? 何でそんな可愛い態度を‥‥
噂では何考えてるか分からない無表情な子供って‥‥)

と戸惑っているのはモーレイ嬢。


他(第二王子の側近とか侍女とか)は、

(表情の無さから動く人形のようだと思っていたけど‥‥
何という愛らしさ!
なるほど、第二王子殿下が夢中になるのも頷ける!
うん、しょうがない、コレじゃあしょうがない‥‥)

と納得の表情。

乱れる部屋の空気には気付かないシレーヌの胸中はというと‥‥


(私は第二王子から逃げたい!
モーレイ嬢は第二王子を捕まえたい。
ならば私達は利害が一致しているのだから‥‥
何とか協力関係になりたい!)


離宮を出たくて必死のシレーヌ。

モーレイ嬢の手を握ったまま訴える。



「色々お教え頂けたら嬉しいです。
ぜひ、仲良くして下さいませ!」



キラキラ輝くローズレッドの瞳、

ほんのり桃色に染まった頬、

艶々と可愛らしくも蠱惑的なフェアリーピンクの唇‥‥


大変なものを見てしまった第二王子は激しい目眩に耐えかねてソファに倒れ込み、

モーレイ嬢はあんぐりと開けっぱなしの口からヨダレが流れ落ちてしまう。

他(第二王子の側近とか侍女とか)は、息を呑んだまま微動だに出来ず。


(あれ?
モーレイ嬢、固まってる?
ヨダレ‥‥体調悪いの?
空気がおかしい‥‥
え、ヤバい?
私何か不敬だった?)


と、シレーヌはやっと空気が変な事に気付く。



「‥‥きぃよお
‥‥今日は帰る」



第二王子はそう言うとガッシとモーレイ嬢の腕を掴みドアへ向かう。

今まで視界に入っていなかった第二王子の突然の動きにシレーヌは焦る。



「あの、殿下!?
私、何かモーレイ侯爵令嬢に失礼をしてしまいましたか!?
あの、どうかお待ちください!
失礼をお詫びします!
モーレイ侯爵令嬢とお話をさせて頂けませんか?
殿下‥‥」



シレーヌを無視してズンズン廊下を歩いて行く第二王子とモーレイ嬢。

追い掛けながら思わずモーレイ嬢に手を伸ばすシレーヌだが‥‥



「‥‥ッ!?
あッ、で、殿‥‥」



その手首を第二王子に掴まれ、小さな悲鳴を上げる。

第二王子はポカンとしているモーレイ嬢に、



「君は船で待つ様に」



と命じ、モーレイ嬢は青褪めて素直に城外の湖の船着き場へ向かう。

第二王子は気心の知れているはずのモーレイ嬢ですら恐怖する形相だった様だ。
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