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第二章

2の14 注意事項

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「――ああそれと‥」

「まだ注意事項があるのか?
『事前に口付けしておく』以外にも?」

「大切な事です。
『妖しの沼の魔女』は気難しく、相手が権力者でも簡単には依頼を受けません。
殿下が依頼に出向いても首を縦に振らないでしょう」

「関係無い。
言う事を聞かなければ我が剣の錆にしてくれる」

「‥‥ッ、もうッ、
どうしてそう(野蛮で過激なんですかアホ男子!)‥‥」

「そう‥‥何だ?」



凍り付いた様なミントグリーンの瞳に見据えられて、マーリンは思い出す。

そうだ、この男は逆らう者には躊躇なく剣をふるう冷酷な男だった。

例外は離宮に隠す女だけ‥‥



「いえ‥‥やはり殿下が直接出向くべきではないとお伝え致します。
殿下は、魔女が要求する対価をご用意出来ないでしょう」

「当然、対価は支払う」

「人間をゴブリンに変える魔法は高度な魔法です。
相応の対価が求められます」

「それは?」

「人間の心臓ですわ」

「‥‥ッ!」

「それだけの価値のある魔法です。
先ほど殿下は
『彼女の為なら、命だって惜しくない!』
と仰いましたが、命は一つ。
差し出してしまっては元も子もありませんわね。
ああ、剣で脅したって、魔女は言う事を聞きませんよ?」

「むぅ‥‥だが、」

「‥‥実は殿下の取り巻きの一人、モーレイは『妖しの沼の魔女』と懇意の仲。
魔女への依頼は彼女に頼むといいでしょう。
彼女なら何とかしてくれるはずですわ」



そう言って聖女マーリンは口角を上げる。

(私とマレットより弱いとはいえ、モーレイも魔女の一族。
魔女は代々、更なる魔力を得る為に積極的に魔族と交わって来たという。
殆んどが失敗に終わったけど、魔族との子供を儲ける事に成功した魔女もいた。
そう、私達には魔族の血が入っているのよね。
だからこそ、心臓を二つ持っているのよ。
モーレイは懸想している第二王子に頼まれれば心臓を差し出すはず。
勿論、魔族の血が入っているとは知られたくないだろうから、詳細は伏せて。
フフッ、モーレイ、私に感謝してよね?
第二王子に恩を売るチャンスを上げるんだから。
どうやら、あんたがどう足掻いても離宮の女には敵いそうにないけど、上手くやるのよ‥‥)
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