上 下
118 / 155
第三章

3の26 聖なる魔力の継承者達

しおりを挟む
「私は、自分がゴブリンにされてから、『妖しの沼の魔女』について調べました。
それで知ったのですが、『魔力』や『魅了』を使うには本来詠唱が必要なのです」

「え? 詠唱?
いいえ、そんなの無かったわ。
赤い目でジッと見られただけだったわ」

「はい。
だから私も聖女が赤目の変顔になっている時、魅了を掛けようとしていると気付かなかったのです。
ですが今日の昼、目の前で聖女がフラットを赤目で見つめました。
みるみる目がニヤケ目に、口がタコチュウに変わって行きました。
フラットもよく笑わないなぁと思って見ていたら、様子が変わりました。
ガクリと肩を落とし、虚ろな目になって――
それで『魅了』だと気付いたのです」

「なッ‥‥
だからフラットの様子がおかしかったのか‥‥」

「そう言えば‥‥
大丈夫なのかしら?」

「魅了が掛かったそばから抜けていく様でしたので、大丈夫だと思いますが‥‥
陛下の方から注意する様に伝えて頂ければと思います。
殆ど交流の無かった私から言われても、聞く耳を持つ気にならないでしょうから」

「え‥‥
レイの言う事ようく聞くと思うわよ?」

「? いいえ、
無理でしょう」

「いや、お前を兄として慕っているはずだぞ?」

「フッ‥‥
ゴブリンになる前に、交流を持とうと何度かフラットに話し掛けましたが、その度、固まってしまって会話にならなかったのです。
ましてや私は今やゴブリンの身‥‥
陛‥‥父上、
フラットの事、お願いします」

「あ‥‥う、うむ。
分かった‥‥
それは分かったが‥‥
知らないのかな?」

「知らない様ね」

((フラットが隠れブラコンだって事!))

「?
何をゴチャゴチャ言っているのですか?
話を続けても?」

「「‥‥あ!
勿論!
話を続けよう!」」

「魔族系の魔力は王家の者には掛かり辛いはずです。
覚醒はしていないものの、王家は『聖なる魔力』の継承者ですから。
人間をゴブリン化するような『大量の魔力による魔法』までは防げませんが、『軽い魔法』や『魅了』程度なら意識する事無く弾けるはずです」

「「ああ、確かに。
我が王家は『聖なる魔力』の継承者!」」



両陛下が納得する。



「そしてシレーヌ姫も『聖なる魔力』の継承者だと思われます。
昼間、聖女が魅了を放った時、シレーヌ姫も至近距離にいました。
例えその赤い目を見ていなくても、近くに居れば影響を受けると文献にありました。
ですがシレーヌ姫は私同様何の影響も受けませんでした。
フラットの様子が変わり、『魅了』だと気付いた瞬間、守らなければとシレーヌ姫を見ましたが、
‥‥その‥‥」



何故か言い淀むゴブリン・レイ。


(え? レイ様?
私、何か変でした?)



「「レイ??」」

「‥‥あ、はい。
その、キョトン顔で、
凄く可愛いくて‥‥」



そこまで言って、手で口を押さえて赤面するレイ。


ボンッ!


真っ赤になるシレーヌ。



「「おぉ‥‥!」」



感動する両陛下。


シビアな話をしているはずなのに、王の私室は何故かホワホワしてしまうのであった。
しおりを挟む

処理中です...