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29 波に誘われて
私は新サンド子爵。
私には幼い頃父が2人いた。
アンバー父様と
オーカー父様だ。
子供のお茶会で
それはおかしい、
父と母は1人ずつだと
言われて聞いてみたら
オーカー父様は『あいつも父親みたいなもんだ。存分に甘えていいぞ』と。
お母様は『いつかアンバー様がお父様になってくれるといいわね』と。
アンバー父様は『私は君の叔父だよ。君の父親は兄さんただ1人だ』と言った。
私は『僕、アンバー父様がお父様の方がいい』と言った。
その日から僕達子供は
『アンバー父様』から
『アンバー叔父様』へ変える様言われた。
弟と妹は素直に従ったけど私は嫌だった。
アンバー父様はイケメンだし仕事熱心だ。
カッコイイと思う。
オーカー父様は見た目も随分劣るし
(残念な事に私はそんなオーカー父様に容姿が似てしまった)
調子がいいだけで偉そうにしているけど
仕事しないで問題ばかり起こしている。
陰でいつもアンバー父様に泣きついて
自分が起こした問題を解決して貰っている。
オーカー父様なんて…
私は私的な場では『アンバー父様』と呼び続けた。
7~8才頃までは
祖父1人と
祖母2人も
一緒に住んでいた。
お祖父様は痩せこけて目だけギラギラしていて怖い感じだった。
アンバー父様がお祖父様似だなんて絶対嘘だと思っていた。
祖母達は同一人物かと思う程ソックリで
『双子?』と聞いたら
揃って激しく否定した。
シンプルな服装で上品な方がお祖母様で
派手な服装で香水臭い方がお祖母ちゃん
そう呼び分けしてた。
私はある日お祖母ちゃんがお祖母様のティーカップに怪しげな液体をコッソリ入れてるのを見てしまった。
その時は何かハチミツとかかと思って不審には思わなかったけど
その日お祖母様が死んでしまった。
アンバー父様が酷く悲しんで私は動揺してしまいその事をすっかり忘れてしまった。
だけどお葬式の夜
お祖父様とお祖母ちゃんが私の部屋でコソコソ話しているのを聞いてしまった。
2人は秘密の話をする時は深夜私の部屋に来る。
私はぐっすり眠っているだろうし父達の部屋から離れているかららしい。
だから
お祖母ちゃんしか調達出来ない薬をお祖父様が凄く欲しがっていて
そのせいでお祖父様はお祖母ちゃんの言いなりだと知っている。
お祖母ちゃんは昔働いていた所でその薬を手に入れるらしい。
お祖父様は薬を貰えないと狂った様になってしまうから
意地悪しないで早くお祖父様に薬を上げて欲しいといつも思っていた。
その時はいつもと違い
お祖父様は強い口調でお祖母ちゃんに詰め寄った。
『彼女が自殺なんてするはずない!
アンバーを残して死ぬはずないんだ!
お前が彼女を毒殺したんだろう!
優しい彼女に世話になるだけなっておいてお前は悪魔だ』
怒りを顕わに責めるお祖父様の頬をお祖母ちゃんが3発張った。
『アンタが約束が何だかんだ言うから邪魔者を消してやったのよ!
アンバーが稼ぐ様になったんだからもうあの女の実家の援助なんて要らないでしょ!
もう何の障害もないんだからオーカーを跡取りに出来るわよね』
そう凄むお祖母ちゃんは本当に悪魔みたいだった。
『それだけは出来ん!
彼女と約束したんだ!
頑張って来たアンバーだって可哀想だ!
あの子は怠け者のオーカーと違って小さい頃から努力して来たんだぞ!』
とお祖父様は言ったけど
『アタシの言う事聞けないっての?
コレ、そろそろ切れてるんじゃないの』
と言いながらお祖母ちゃんが小さな包みを出して
途端にお祖父様の目の色が変わって
『く、くれ!頼む!』
と懇願して
『コレが欲しいならオーカーを跡取りにして!』
とお祖母ちゃんが言って部屋を出て行った後
お祖父様はしばらく私の部屋に頽れたまま泣いていた…
私は必死に寝たふりを続けていた。
永遠に感じる程長く辛い時間だったけど1つだけ確信してた。
この事は多分誰にも言っちゃいけないんだ…
そしてやっぱり
その後すぐにオーカー父様がサンド子爵となった。
それからの1年間でサンド子爵家は大きく変わった。
お祖母ちゃんが死んでお祖父様も死んだ。
それは別に悲しくなかった。
深夜の恐ろしい密談から解放されるし
母上が明るくなったから却って良かったぐらいだった。
絶望的に悲しかったのはアンバー父様が結婚して出て行ってしまった事だ。
すぐに子供も生まれたという。
私にとっては従妹となる子供。
会った事は無いその子供に激しく嫉妬した。
だってその子はアンバー父様を父と呼べるのだ。
私が禁じられているのに!
仕事で大成功してカーマイン子爵位を手にしたアンバー父様…
寂しい思いが爆発しそうになった頃妻を亡くしたと知った。
人の死を喜ぶなんていけない事だけど
嬉しくて仕方なかった。
アンバー父様が帰って来てくれたから。
また一緒に暮らすようになったから。
アンバー父様は出ていく前よりカッコ良くなっていて
私は6年の空白を埋める様に甘えまくった。
弟も妹も遠慮しろよと言いたくなるくらい金銭面で甘えまくった。
だけど1番甘えたのはオーカー父様だろう。
口にするのも恐ろしいぐらいの莫大な金銭を貰っていたから。
サンド子爵家はハイエナ一家と言う人も多かったけど
アンバー父様はいつも穏やかで愛情深い笑顔を湛えていた。
ある日私は母の企みを知った。
オーカー父様に適当な理由をつけて頼んで
カーマイン子爵邸の使用人を総入れ替えして
その新たな使用人達にアンバー父様の娘を殺すよう指示していた。
『いい?事故に見せかけて殺すのよ。
苛め抜いて自殺に追いやるのもいいわ』
良い案だと思った。
その娘が死ねばアンバー父様はサンド子爵家のものになる。
――だけどその娘…
ルフスがなかなか死なない。
しぶとい娘だ。
邪魔者はサッサと消えればいいのに。
飢え死にさせようと食事を絶っても子供ながら自分で稼いで生き延びている。
母上はとうとう犯罪者集団に殺害を依頼した。
指名手配犯に大金を渡して通り魔の犯行に見せかけて殺すよう確実な手を打った。
考えてみればウチのお金は全てアンバー父様の援助。
つまりルフスは実父の金で雇われた悪人に殺されるのだ。
だけど可哀想とは思わない。
邪魔だから。
早くアンバー父様をサンド子爵家に返せよ!
それから暫くして
母が雇った悪人達が
騎士団に突き出され
処刑されたという。
吉報を待っていた母も私もガックリだ。
どうしても邪魔者を殺せない事に業を煮やした母は弾けた様だ。
アンバー父様の寝込みを襲って
アンバー父様はまた出て行ってしまった。
多分完全拒否されたのだろう、
半狂乱になった母は精神病院に入れられた後実家に戻されたらしい。
これらの事は家令が取り仕切ったので
もう家を出ていたアンバー父様も
家にいても都合の悪い事は一切感知しないオーカー父様も知らない。
浮気を繰り返すオーカー父様を見限って出て行ったのだと思っている。
何故私だけ知っているのかと言えば
家令達は遠慮なく大声で相談し事を決め実行していたからだ。
私は容姿がオーカー父様に似ているから
愚鈍で能無しと判断されていて
聞かれても問題ないと思ったのだろう。
ま、確かに問題ない。
ヘタこいた母などどうなってもいい。
あのバカ女のせいでせっかく帰って来てくれたアンバー父様がまた出て行ってしまったのだから。
でもきっとまた戻って来てくれる。
そうしたらさ、
もうオーカー父様もいないし二男も出て行ったし
エクリュを精神病院に入れちゃって
アンバー父様と2人だけで過ごすんだ…
ずっとずっと
2人だけでさ…
「アン‥カーマイン子爵ッ!
待ってよ!
何故無視するの!?」
仕事で訪れた国の港に懐かしい姿を発見して私は駆け寄った。
止まってくれないので前に回り込めば
やはり!
アンバー父様だ!
アンバー父様がサンド子爵家に絶縁状を送って姿を消してからもう数年になる。
あれ?
随分老けた?
たった数年でここまで老けるかと思うほどアンバー父様は変わってい‥
≪バキッ!≫
≪ズザッ!≫
「!?」
え!?
私は殴られた‥?
………………なぜ!?
「よくもおめおめと私の前に顔を出せたな?
お前とお前の母親がカーマイン子爵家の使用人を総入れ替えさせてルフスの命を狙っていた事、絶対に許さない!」
「(バレている!?)
な、何の事か‥」
「アルゲンテウス辺境伯夫人が教えてくれたんだ」
今の王妃殿下が!?
何故?
どうして?
「辺境領の牢に入れられていた時に1人で訪ねて来られて
『ルフスちゃんがどれだけ過酷な時間を耐え抜いて来たかお前は知るべきだ』
と仰ってな。
ルフスを嫁として迎え入れる準備として身辺を調査して知った事だと。
辺境伯家は妖精族だからな。
調査力が凄まじい。
全ての物に妖精は宿っており
妖精は見たままを記憶している。
人間にとっては大昔の事でも
妖精にとって時間の経過など関係ない。
サンド子爵邸の其処此処に宿っている妖精がお前とお前の母親の所業を映像で見せてくれた。
お前が嬉々として使用人達に殺人のアイデアを伝えている姿もな」
う、嘘だ…
そんな事出来るわけ…
「階段から落とせ、
池に沈めろ、
食事を与えるな、
水差しに毒を入れろ」
た、確かに私が提案した事だ…
だ、だって…
「私はただ、母上を助けようとして!
わ、私はまだ子供だったから!」
「子供だったのはルフスだ!
お前は成人していただろうが!
お前達は狡猾で汚れた使用人達やお尋ね者の極悪人を雇って
何の罪もない小さなルフスを殺す計画を実行した!
失敗しても何度もな!
――随分時間が掛かったがお前とお前の母親は罰せられる」
「‥ええッ!?」
「人間界の手続きをきちんと踏む為に証拠を揃えるのに時間が掛かったらしいが…
2人とも逃れる事は出来ないぞ。
首を洗って待つんだな」
「‥ま、待って!
助けて!
私はあの頃どうかしてたんだ!
アンバー父様にサンド子爵家に戻ってほしくて!
邪魔者がいなくなれば戻ってくれると‥」
≪バキッ!≫
よろよろと立ち上がったところを
また殴られた…
何で?
私はただ
昔みたいに
アンバー父様と一緒にいたかっただけ‥
「私を父と呼んでいいのはルフスだけだ!
呼んで‥くれなくてもルフスだけなんだ!
お前などもう甥でもない!
言っただろう。
絶対に許さないと!
今殴り殺さないのは
お前達の罪を公にした上で罪人として不名誉に死ぬべきだからだ」
思いっきり殴られて
すぐに動けない。
去っていく足音が消えた頃
ようやく顔を上げる事が出来た。
這いつくばった状態で見えたのは暗い海。
規則的な様に
不規則な様に
誘う様に波打つ冬の海
私は
その波に向かって
這って行った――
私には幼い頃父が2人いた。
アンバー父様と
オーカー父様だ。
子供のお茶会で
それはおかしい、
父と母は1人ずつだと
言われて聞いてみたら
オーカー父様は『あいつも父親みたいなもんだ。存分に甘えていいぞ』と。
お母様は『いつかアンバー様がお父様になってくれるといいわね』と。
アンバー父様は『私は君の叔父だよ。君の父親は兄さんただ1人だ』と言った。
私は『僕、アンバー父様がお父様の方がいい』と言った。
その日から僕達子供は
『アンバー父様』から
『アンバー叔父様』へ変える様言われた。
弟と妹は素直に従ったけど私は嫌だった。
アンバー父様はイケメンだし仕事熱心だ。
カッコイイと思う。
オーカー父様は見た目も随分劣るし
(残念な事に私はそんなオーカー父様に容姿が似てしまった)
調子がいいだけで偉そうにしているけど
仕事しないで問題ばかり起こしている。
陰でいつもアンバー父様に泣きついて
自分が起こした問題を解決して貰っている。
オーカー父様なんて…
私は私的な場では『アンバー父様』と呼び続けた。
7~8才頃までは
祖父1人と
祖母2人も
一緒に住んでいた。
お祖父様は痩せこけて目だけギラギラしていて怖い感じだった。
アンバー父様がお祖父様似だなんて絶対嘘だと思っていた。
祖母達は同一人物かと思う程ソックリで
『双子?』と聞いたら
揃って激しく否定した。
シンプルな服装で上品な方がお祖母様で
派手な服装で香水臭い方がお祖母ちゃん
そう呼び分けしてた。
私はある日お祖母ちゃんがお祖母様のティーカップに怪しげな液体をコッソリ入れてるのを見てしまった。
その時は何かハチミツとかかと思って不審には思わなかったけど
その日お祖母様が死んでしまった。
アンバー父様が酷く悲しんで私は動揺してしまいその事をすっかり忘れてしまった。
だけどお葬式の夜
お祖父様とお祖母ちゃんが私の部屋でコソコソ話しているのを聞いてしまった。
2人は秘密の話をする時は深夜私の部屋に来る。
私はぐっすり眠っているだろうし父達の部屋から離れているかららしい。
だから
お祖母ちゃんしか調達出来ない薬をお祖父様が凄く欲しがっていて
そのせいでお祖父様はお祖母ちゃんの言いなりだと知っている。
お祖母ちゃんは昔働いていた所でその薬を手に入れるらしい。
お祖父様は薬を貰えないと狂った様になってしまうから
意地悪しないで早くお祖父様に薬を上げて欲しいといつも思っていた。
その時はいつもと違い
お祖父様は強い口調でお祖母ちゃんに詰め寄った。
『彼女が自殺なんてするはずない!
アンバーを残して死ぬはずないんだ!
お前が彼女を毒殺したんだろう!
優しい彼女に世話になるだけなっておいてお前は悪魔だ』
怒りを顕わに責めるお祖父様の頬をお祖母ちゃんが3発張った。
『アンタが約束が何だかんだ言うから邪魔者を消してやったのよ!
アンバーが稼ぐ様になったんだからもうあの女の実家の援助なんて要らないでしょ!
もう何の障害もないんだからオーカーを跡取りに出来るわよね』
そう凄むお祖母ちゃんは本当に悪魔みたいだった。
『それだけは出来ん!
彼女と約束したんだ!
頑張って来たアンバーだって可哀想だ!
あの子は怠け者のオーカーと違って小さい頃から努力して来たんだぞ!』
とお祖父様は言ったけど
『アタシの言う事聞けないっての?
コレ、そろそろ切れてるんじゃないの』
と言いながらお祖母ちゃんが小さな包みを出して
途端にお祖父様の目の色が変わって
『く、くれ!頼む!』
と懇願して
『コレが欲しいならオーカーを跡取りにして!』
とお祖母ちゃんが言って部屋を出て行った後
お祖父様はしばらく私の部屋に頽れたまま泣いていた…
私は必死に寝たふりを続けていた。
永遠に感じる程長く辛い時間だったけど1つだけ確信してた。
この事は多分誰にも言っちゃいけないんだ…
そしてやっぱり
その後すぐにオーカー父様がサンド子爵となった。
それからの1年間でサンド子爵家は大きく変わった。
お祖母ちゃんが死んでお祖父様も死んだ。
それは別に悲しくなかった。
深夜の恐ろしい密談から解放されるし
母上が明るくなったから却って良かったぐらいだった。
絶望的に悲しかったのはアンバー父様が結婚して出て行ってしまった事だ。
すぐに子供も生まれたという。
私にとっては従妹となる子供。
会った事は無いその子供に激しく嫉妬した。
だってその子はアンバー父様を父と呼べるのだ。
私が禁じられているのに!
仕事で大成功してカーマイン子爵位を手にしたアンバー父様…
寂しい思いが爆発しそうになった頃妻を亡くしたと知った。
人の死を喜ぶなんていけない事だけど
嬉しくて仕方なかった。
アンバー父様が帰って来てくれたから。
また一緒に暮らすようになったから。
アンバー父様は出ていく前よりカッコ良くなっていて
私は6年の空白を埋める様に甘えまくった。
弟も妹も遠慮しろよと言いたくなるくらい金銭面で甘えまくった。
だけど1番甘えたのはオーカー父様だろう。
口にするのも恐ろしいぐらいの莫大な金銭を貰っていたから。
サンド子爵家はハイエナ一家と言う人も多かったけど
アンバー父様はいつも穏やかで愛情深い笑顔を湛えていた。
ある日私は母の企みを知った。
オーカー父様に適当な理由をつけて頼んで
カーマイン子爵邸の使用人を総入れ替えして
その新たな使用人達にアンバー父様の娘を殺すよう指示していた。
『いい?事故に見せかけて殺すのよ。
苛め抜いて自殺に追いやるのもいいわ』
良い案だと思った。
その娘が死ねばアンバー父様はサンド子爵家のものになる。
――だけどその娘…
ルフスがなかなか死なない。
しぶとい娘だ。
邪魔者はサッサと消えればいいのに。
飢え死にさせようと食事を絶っても子供ながら自分で稼いで生き延びている。
母上はとうとう犯罪者集団に殺害を依頼した。
指名手配犯に大金を渡して通り魔の犯行に見せかけて殺すよう確実な手を打った。
考えてみればウチのお金は全てアンバー父様の援助。
つまりルフスは実父の金で雇われた悪人に殺されるのだ。
だけど可哀想とは思わない。
邪魔だから。
早くアンバー父様をサンド子爵家に返せよ!
それから暫くして
母が雇った悪人達が
騎士団に突き出され
処刑されたという。
吉報を待っていた母も私もガックリだ。
どうしても邪魔者を殺せない事に業を煮やした母は弾けた様だ。
アンバー父様の寝込みを襲って
アンバー父様はまた出て行ってしまった。
多分完全拒否されたのだろう、
半狂乱になった母は精神病院に入れられた後実家に戻されたらしい。
これらの事は家令が取り仕切ったので
もう家を出ていたアンバー父様も
家にいても都合の悪い事は一切感知しないオーカー父様も知らない。
浮気を繰り返すオーカー父様を見限って出て行ったのだと思っている。
何故私だけ知っているのかと言えば
家令達は遠慮なく大声で相談し事を決め実行していたからだ。
私は容姿がオーカー父様に似ているから
愚鈍で能無しと判断されていて
聞かれても問題ないと思ったのだろう。
ま、確かに問題ない。
ヘタこいた母などどうなってもいい。
あのバカ女のせいでせっかく帰って来てくれたアンバー父様がまた出て行ってしまったのだから。
でもきっとまた戻って来てくれる。
そうしたらさ、
もうオーカー父様もいないし二男も出て行ったし
エクリュを精神病院に入れちゃって
アンバー父様と2人だけで過ごすんだ…
ずっとずっと
2人だけでさ…
「アン‥カーマイン子爵ッ!
待ってよ!
何故無視するの!?」
仕事で訪れた国の港に懐かしい姿を発見して私は駆け寄った。
止まってくれないので前に回り込めば
やはり!
アンバー父様だ!
アンバー父様がサンド子爵家に絶縁状を送って姿を消してからもう数年になる。
あれ?
随分老けた?
たった数年でここまで老けるかと思うほどアンバー父様は変わってい‥
≪バキッ!≫
≪ズザッ!≫
「!?」
え!?
私は殴られた‥?
………………なぜ!?
「よくもおめおめと私の前に顔を出せたな?
お前とお前の母親がカーマイン子爵家の使用人を総入れ替えさせてルフスの命を狙っていた事、絶対に許さない!」
「(バレている!?)
な、何の事か‥」
「アルゲンテウス辺境伯夫人が教えてくれたんだ」
今の王妃殿下が!?
何故?
どうして?
「辺境領の牢に入れられていた時に1人で訪ねて来られて
『ルフスちゃんがどれだけ過酷な時間を耐え抜いて来たかお前は知るべきだ』
と仰ってな。
ルフスを嫁として迎え入れる準備として身辺を調査して知った事だと。
辺境伯家は妖精族だからな。
調査力が凄まじい。
全ての物に妖精は宿っており
妖精は見たままを記憶している。
人間にとっては大昔の事でも
妖精にとって時間の経過など関係ない。
サンド子爵邸の其処此処に宿っている妖精がお前とお前の母親の所業を映像で見せてくれた。
お前が嬉々として使用人達に殺人のアイデアを伝えている姿もな」
う、嘘だ…
そんな事出来るわけ…
「階段から落とせ、
池に沈めろ、
食事を与えるな、
水差しに毒を入れろ」
た、確かに私が提案した事だ…
だ、だって…
「私はただ、母上を助けようとして!
わ、私はまだ子供だったから!」
「子供だったのはルフスだ!
お前は成人していただろうが!
お前達は狡猾で汚れた使用人達やお尋ね者の極悪人を雇って
何の罪もない小さなルフスを殺す計画を実行した!
失敗しても何度もな!
――随分時間が掛かったがお前とお前の母親は罰せられる」
「‥ええッ!?」
「人間界の手続きをきちんと踏む為に証拠を揃えるのに時間が掛かったらしいが…
2人とも逃れる事は出来ないぞ。
首を洗って待つんだな」
「‥ま、待って!
助けて!
私はあの頃どうかしてたんだ!
アンバー父様にサンド子爵家に戻ってほしくて!
邪魔者がいなくなれば戻ってくれると‥」
≪バキッ!≫
よろよろと立ち上がったところを
また殴られた…
何で?
私はただ
昔みたいに
アンバー父様と一緒にいたかっただけ‥
「私を父と呼んでいいのはルフスだけだ!
呼んで‥くれなくてもルフスだけなんだ!
お前などもう甥でもない!
言っただろう。
絶対に許さないと!
今殴り殺さないのは
お前達の罪を公にした上で罪人として不名誉に死ぬべきだからだ」
思いっきり殴られて
すぐに動けない。
去っていく足音が消えた頃
ようやく顔を上げる事が出来た。
這いつくばった状態で見えたのは暗い海。
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その波に向かって
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