キスが出来る距離に居て

ハートリオ

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「ねぇ、その質問にイベリスは何と答えたと思う?」


カトレア伯爵夫人がセロシアに視線を向けて訊ねる。


ここはカトレア伯爵家の応接室。

壁どころか天井、床までもが芸術的に仕上げられた広々とした部屋には、素材は分からないが高級感溢れる皮か布で作られた円状のソファが丸い大きなテーブルを囲んでいる。

そのソファにはカトレア伯爵夫妻、二人に呼ばれたクレオメ・セロシアカップル、

そしてオレンジ色の髪に明るい青い瞳の謎の美少女が座っている。



‥‥さて?

とセロシアは考える。


これは試験か?

俺の人となりを見極めたいのか?

如才ない受け答えが出来る男か試したいのか?


‥‥ふん、さて、ね。

何と答えるのが正解だろうか‥‥


リアルな正解は『分からない』だ。

セロシアは学生時代、一歳年上のイベリスを学校で見かける事はあったが、人間的に興味が無く、相手に伝わる様に避けて来た為付き合いが無い。

付き合いの無い人間の行動は想像出来ないし、イベリスとアネモネ嬢が実際に性交していなかったのかも正確な情報が無い。

確か、イベリスにはある噂もあったな‥‥

何にしろ『分からない』で間違いないのだが、情けない苦笑を浮かべ『分からない』と答える様な男にはなりたくない。

とは言え‥‥



「さぁ‥‥『まだ結婚前だし、アネモネ嬢を大切にしたい』的な事でしょうか」



至極普通の答えしか思いつかない。

すいません、俺は普通の男なので。



「あら、そうよね。
イベリスはそう答えておけば良かったのよ。
だけど彼はね、私の質問には答えずに質問したのよ、アネモネに」



そう、伯爵夫人の質問を受けたイベリスは、


ピクリッ


と神経質に眉をひそめ、遠慮なく不快を露わにした。

そしてツイッと長ソファの隣に座るアネモネにその不機嫌な顔を向けると、責める様な声で訊ねた。



「アネモネ‥‥君、アウレア様に何か言ったの?」



伯爵夫人の質問に固まっていたアネモネは、さらにその華奢な体を縮こまらせた。



「い、いいえ、私は何も‥‥」



『あらあら』と心の中で溜息をつき、伯爵夫人がやんわりとイベリスを窘める。



「イベリスったら、そんな顔をしてアネモネを恐がらせてはダメよ?
そんなの、誰に聞かなくとも二人を見てれば分かるものなの。
私はただ、ここを自分の家だと思ってリラックスして過ごしてと言いたいだけなのよ?
愛し合う若く健康な二人なんですもの、遠慮せずに愛し合って欲しいの。
‥‥‥‥ね?
あなた達は、本当に愛し合っている恋人同士なのでしょう?」



だが、特に探る風でもなく微笑みながらされた質問にイベリスはゾッとする。
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