『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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1 「運命を… 動かしてみようか」

2 月は頷く

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『アレ』にまるで心当たりが無いわ…


「アレって…?」

「ホラ、昨日アス様に結婚を申し込まれた」
「アス様へのご縁談は今までも多かったですが、今回はお相手のご身分が…」
「ええ!何といっても現役の国王陛下ですからね!イケオジですからね!」

「ああ…アレ…すっかり忘れてましたわ」

「「「えぇ!?」」」


現役の国王陛下…と言っても、『国王陛下』というよりは『領主様』と言った方がいい小国の、息子に王位を譲るタイミングのイケオジ陛下なので、中堅修道女達の言うニュアンスはちょっと違う。

『引退後は、君に隣に居てほしい。
君と居ると特別で尊い癒しを感じるのだ…
ただ私と共にいてくれるだけでいい。
私には立派な息子が3人いるし、彼等にも既に男の子が生まれている。
君は何のも感じる必要はない。
私と共に静かで満ち足りた日々を過ごしてくれればいいのだ…』

と、イケオジ陛下は仰った。

つまり、

『余生を静かに過ごす相手として選んだのだから、高齢で子供が産めない事を負い目に感じなくていい』

と言っている。

もうすぐ38才になろうというアステリスカスを気遣ったのだろう。

アステリスカス自身は若い頃と体調面で何も変わった気はしないが、一般常識として38才の高齢女性が子を産むなどあり得ないことだから。


「…ご親切な提案でしたけど、興味が持てなかったのでお断りしましたわ」

「「「そんな、もったいない!」」」


子供を産めないであろう年齢になった修道女に舞い込む縁談はほぼほぼ介護目的。

そんな中、たとえ小国でも元国王の後妻なら、介護要員としてではなく奥様として使用人にかしずかれる生活が待っているのに断るなんて!

中堅修道女達の『もったいない!』が止まらない――




「…フゥ…」


ドジにドジを重ねた一日が終わり、自室に戻って溜息をつくアステリスカス。



『もったいない!』と大合唱した中堅修道女達は知らない。

アステリスカスが実は修道女ではなく、『預け人』であることを。

『預け人』というのは貴人が世間から隠すために修道院に預ける訳アリの存在。

公には認識されていない隠れた存在であるため、修道女達は知らないのだ。

『預け人』が舞い込んだ縁談に乗ることは許されない。

『預けた人』が許せば別だが、まず、それは無い。

『預け人』は『預けた人』の特別な存在で。

公に出来ない親子関係だったり、色々と許されない恋愛関係だったり。

アステリスカスを『預けた人』も、アステリスカスと結婚するつもりらしい。

修道院に預けられてから30年間、3ヶ月に1度許された面会日に欠かさずやって来ては愛を語る誰か。

『事情がある』と言って自分の身分を明かさないので、アステリスカスにとって彼はいまだに『誰か』である。

その『誰か』は1ヶ月前の面会で興奮気味に言っていた。

『最初に言ったね…30年経ったら君はここを出て私と結婚する…
もうすぐその約束の30年だ!
立場上跡取りを作らなければならなかったから、側室はいるが正室の座は開けている。
君は何も心配せず私の元へ来ればいいのだ!
ああ、あと3ヶ月が待ち遠しいッ!』


あと2ヶ月――

あと2ヶ月でここを出て――結婚?


『~~~たら、お詫びにあの月をクッキーにして君にあげるよ!』

「‥ッッ‥」


心というものがこんなにもままならないものだなんて…!


夢なんて、起きた直後はハッキリ覚えていても、いつの間にか消えてしまうもの。

それなのに銀の夢は、時間が経てば経つほどより鮮やかに迫ってくる様で――


室内をフラフラ進みキィ、と窓を開ける。

森の高い木々の間に月がチラチラ見える。

3つの微妙に色の違う月たちは夢とは違いやはりうんと遠くに感じる。


「運命を…
動かしてみようか」


無意識に、アステリスカスの唇がそんな言葉を紡ぐ。

ふわりと風が吹き、森を、木々を、その葉を揺らす。


木々の間から月が頷いた様である――
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