『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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1 「運命を… 動かしてみようか」

4 謎の修道女

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「まぁ、孤児院の子供達にお菓子を…ありがとうございます!
子供達も喜びますわ」

「ああ、俺からじゃないんだ。俺は頼まれて届けただけ。えぇと、何て言ったかな…名前は忘れたか聞いていないかだが、俺みたいな色の若い美人からだ」

「え?‥ア、はい‥
‥ハッ、あの、顔色が…頭痛がするのではありませんか?
コホン、良かったらハーブ園にお寄りください。
ここ、ブリッジ修道院のハーブ園は有名なのですよ!
治せる薬草があるかもしれません」

「頭痛に気付かれましたか?しかめ面をしていたなら申し訳ない」

「い、いえいえ。素敵なイケメン‥アッ、いえ!
ぜ、是非ハーブ園へどうぞ」

「うん…こんな可愛い修道女様に勧められては行かないわけにいかないな。
――あっちだね?」

「キャ‥はいっ!
どどうぞごゆっくり」

「ありがとう」


歩くだけでも一々カッコイイやたら色気のある旅行者風の男がハーブ園方向に立ち去るのを見ながら、若い修道女は『はぁぁ~~~』と熱い息を吐く。


(滅多に見ないレベルのイケメンに舞い上がってしまったわ!‥でもちゃんとアス様の指令は完遂出来た!‥良かった‥それにしてもアス様は遠めにチラッと見ただけで、彼が頭痛に苦しんでることを見抜くなんてやっぱり凄いわ‥
それにしても『俺みたいな色の若い美人』ってアザレアさんの事よね!?
ブリッジ・シティいちの美女の名前を忘れる(もしくは聞いてない)って…)


若い修道女の今夜の夢に出て来てしまいそうなほど強烈な魅力と印象を与えた旅行者風の男はカード皇帝の『影』――名をエリン・ジュームという。

カード帝国の侯爵位を持つ彼は、皇帝が皇太子時代に宮殿に呼び出され、2、3質問された後いきなり側近に取り立てられ、その後『影』となった。

いまだ側近扱いではあるが、皇帝の捜し人の情報を求めてほとんどの時を世界中を旅して回っている。

カード帝国に戻るのは月に一度皇帝に捜査状況を報告する時だけ。

そんな生活だからモテ男にもかかわらず38才の今でも結婚はしておらず、ジューム侯爵家の後継の事はまるで考えていない。

それよりも皇帝の為に何かしらの情報が欲しい…そう切望する忠誠心の塊の様な男はハーブ園で気持ちよく深呼吸する。


(見事なハーブ園だ…帝国の薬学研究室のハーブ園とも遜色がない程だ…)


ブリッジ修道院の広大なハーブ園を歩きながら、エリンは暫し癒される。

数日後には帝都に戻り皇帝に『今回も収穫無しでした』と報告せねばならない。

その憂鬱な気持ちをハーブ園の清浄な空気が癒してくれる――

ふとエリンは近付く気配に気付く。

一般人とは異なる――

静謐で崇高で尊き気配

不自然にならない様に視線を向けると、白い修道服を着た修道女がハーブを手に歩いて来る。

(白い修道服…という事は年配のベテラン修道女だな。
道理で崇高な気配のワケだ)


修道女が着る修道服は1~15年目は黒、16~28年目は濃グレー、29年目以降は薄グレー、薄グレーの中で特に徳の高い修道女のみが白服を着れるのだ。

白服の修道女は世界でも3人しかいない――その内の一人を拝顔出来るとは!


(…いや、頭から薄い布…ベールを被っているから『拝顔』ではないか…
髪もほとんど見えないが…曇り空の薄暗い中で僅かに垣間見える髪は金色!?
金髪の人が実在するとは信じられないことだが…
ベールの奥の目と思しき辺りも金色に光っている。
さすが修道女は白服にまでなると『人』を超越して神々しくなるのだな…
陛下の銀髪銀眼と同様に世にも珍しい金髪金眼――陛下が捜されている女性と同じだが白服という事はかなり年配なはず…
若くても50代半ばぐらいだろう――
陛下が捜されている女性は38才――いやまだ37才だから年齢が合わない…)


エリンは胸に手を当て頭を垂れて修道女が通りやすい様に通路の端に寄る。

修道女は尊敬の対象で、貴族平民関係なく敬われる。

他の修道女と同じ様に黙って通り過ぎて行くだろうと思っていたが、驚いた事にその修道女はエリンの前で足を止め、静かに涼やかな声で話し掛けて来る。


「道を開けて頂きありがとうございます。
失礼ですが顔色が優れない様にお見受け致します。
【お聞きしたい事がございます】」

「‥!!
あ、はい…
ちょっと頭痛が…
【何でしょうか?】」


エリンは白服の修道女が『暗号会話』で話しかけて来た事に度肝を抜かれるが、至って冷静に返事を返す。

もちろん、実際は心臓バクバクである。

大変な技術と能力を要する、脳をフル回転させないと成立しない『暗号会話』。

諜報活動をする者でも一部の者――よっぽどの貴人に仕える者にしか使えない会話術。

それを何故きな臭い世界とは真逆の修道女が使いこなしているのか?

しかもベールで隠れているため『視線』『口角』などが使えない代わりに手振りでカバーし違和感なく会話を成立させている…こんな使い方は初めて見る…


この修道女は一体――
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