『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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5 皇帝は求婚を無かったことにされる

103 皇帝陛下を守れ!

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『光の神殿』とは――

カード宮殿の最深部――湖の真ん中の小島に在る知る人ぞ知る皇帝家の神殿。

世界的に人々が信じる唯一神とは別に、皇帝を神としたここだけの特別な神殿である。

古代人が建造したというその神殿は、古代より不思議な力と神殿騎士(神官の中から選ばれ訓練を積んだ騎士)に守られ続けて来た。

カード皇帝家と神官、そして皇帝が許した一部の者だけが入ることを許される特別な神殿である。





今、その神聖な場所が大騒ぎになっている。




「お止めくださいッ皇帝陛下ッッ
ああッ皇帝陛下がご乱心だッ」


悲痛な声で叫ぶのは皇帝の側近である。

彼は側近の中でも唯一『光の神殿』に入ることを許されている側近で、それでも入るには1ヶ月以上前に申請し許可を得なければならないのだが、今は非常時という事で特別にここに居るのである。


「放せッ!
俺の邪魔をするなッ」

「カード皇帝陛下、とにかく落ち着いてください!
くッ‥何という力だ!
この私でも、もう持ち堪えられそうもない‥
誰か早く!
早く姉上をここへ!」


カード皇帝の両手首を掴み、皇帝が凶行に走るのを必死に止めているのはジョーカー王――ソルの弟、イグニスである。

床にはやはり皇帝を止めようとしてぶん投げられ、気絶している神殿騎士たちがゴロゴロ倒れている。


「今捜しております!
お部屋にもどこにもいらっしゃらないそうで‥
ですが、もし見つかっても入殿が許されていない王女殿下がこちらへ入ることは不可能です‥」


蒼白になった神官長が声を絞る様にして答える。


「‥ッ、この非常時に何を言っている!?
許すの何のと言ってる場合ではないだろう!?」

「い、いえ、『見えざる力』が働くのです!
皇帝家でない者が神殿に入るには儀式を執り行い神殿に『皇帝家が許した者』であることを伝え、神殿が認めてやっと入る権利を得るのです。
それでも毎回入る度に事前申請し許可を得る必要があるのです。
私達の意志は関係なく、儀式を経ていない者は『見えざる力』に弾かれて入れないのです!」


『光の神殿』は白い円柱状の古代鉱物の柱と分厚いガラスで構成されている。

だが、そのガラスはただのガラスではない。

古代人の魔力で何重にも封印が掛けられた特別なガラスなのである。

そのガラスが壁から床から高い天井に至るまで敷き詰められている。

白い柱は物理的にガラスを支えるのと同時にガラスに掛けられた封印を保つ働きをしている。

このガラスと柱により『見えざる力』が発動し、外部からの侵入を完全に防ぐ。



「だが、私は入れたぞ!?」

「それは多分、私と一緒に入ったからだと思う…」


イグニスと神官長の緊迫したやり取りにテネブラエ公も加わる。

こんな非常時でもテネブラエ公の声はどこかおっとりとしており、少しだけ緊張感が削がれる心地がする。

それに…

昨夜、皇帝に腕を落とされてしまったテネブラエ公の様子は悲壮感に溢れていた。

血だらけで、長い蟄居生活により髪も髭もボーボー。

手負いの山賊のボスの様な有様だった。

だが、髪を整え髭を剃り体に合う服を身に着けた姿は驚くほど若くさすがの美貌も健在で黙って立っているだけで尊い空気を放っている。

ちなみに、カード宮殿にはまだテネブラエ公の部屋がそのまま残されており、クローゼットもキチンと管理されていた為、服にはまるで困らないのだ。

そんな昨夜とは別人の様な男にイグニスは異父兄の面影を見る。

優しかった5才年上の異父兄は別れて間もなく亡くなっていたことを数時間前にソルから聞かされた。

覚悟していたこととはいえ喪失感は大きい。

肩を落とすイグニスに寝る前にソルが身体回復の魔法をかけてくれた。

体の疲労と共にソルに会えた喜びで泣きはらした目もすっかり回復したのに、いままた赤い眼をしているのは異父兄を偲んでのこと。

イグニスは不思議な思いを抱えつつテネブラエ公に提案する。


「でしたら、神殿入り口にテネブラエ公が待機して、姉上が来たらまた一緒に入ってくだされば良いのでは?」

「ジョーカー王…そうか、なるほ‥」

「いえ、恐らく無理です…ジョーカー王陛下がお入りになれたのは本当に奇跡で、神殿はもうへまをしないでしょう。
となれば、ソル王女殿下にもテネブラエ公にも大変な危険が伴います――‥い、命の危険があるのです!」


震えながら訴える神官長に『ではどうすれば良いのだ』とイグニスが顔を顰める。


その時!


「放せ!‥俺は正気だし落ち着いている!‥考えに考えた結果こうすると決めたのだッ」
バッ!

「‥くッ‥」


とうとう皇帝はイグニスを振り切り、ずっと手に握っていた短刀を自身に向け振り下ろ‥
≪どこ?…ルー様≫




〈カッッッッッ‥〉


―――‥ッ!?―――


一瞬、全てが止まり‥


ガッ…シャー‥ン!!


――次の瞬間、『光の神殿』を覆うガラスが粉々に吹き飛び――



『ルー様』とは俺の事だな…



ぼんやりとそんな事を思う皇帝の前に金色の光が現れ、皇帝を始めその場にいる全員がその眩しさに目を閉じる。


「‥ッ!?‥え!?」
「‥ここはどこ!?」
「一体何が‥キャッ」



目を閉じた彼らがここに居るはずのない人々の声に驚き目を開くと――
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