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12 裏門の先にナイト

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「富芦! 何をやって
――放しなさい!」

「――ウッ!?
≪グイッ≫
‥ッ!‥あっ‥‥」



不意に圧倒的な怪力に手を掴まれ、その痛みでユウトの手を離してしまった桧木。

そのまま引っ張られユウトから距離を取らされ――


カッとする。



「‥ッ!
――ほう、そんな目で私を見るか‥‥
従順で可愛い私の甥っ子はどうしてしまったのかな?」

「‥‥ッ!‥‥くッ‥
し‥‥失礼しました」

「謝る相手が違う様だが」

「――!‥‥ああ、
あの、ユウト君‥‥
‥‥‥ッ!?」



敵を見る目で叔父を睨みつけていた桧木はハッとしてユウトを見る。

ユウトは怒りも嫌悪もその表情から消し、すっかり無表情になっている。

分かりやす過ぎる時とのギャップがこれまた凄い。



「ユウト君、乱暴な振る舞い、すまなかった。
正門までの道は運動部が集まってしまっていたから、裏門の方から出てもらおうと思って――」

「そうですか。
親切にどうも。
そこ、裏門ですね。
では失礼します」

「‥!? あ、
いや待って!
まだ説明できていなかった事があるし、お詫びも兼ねて近くでお茶でもと思っているんだが」

「お茶はいりません。
コーヒー牛乳をご馳走になったばかりです。
今日はもう疲れたので説明は入学後にして頂けたらと思います。
失礼します」

「ユウト君、実は私もお詫びをしなければと思っていたんだ。
もう夕刻だしお腹が空いただろう?
少し早いが夕食をご馳走させて欲しい‥」

「食欲ありません」



そう言って裏門に向かって歩き始めたユウトの左右に理事長と生徒会長がピタリと張り付く。



「そう言わずに。
この辺はグルメタウンとして有名でテレビの取材なんかも多いんだよ」

「そうだよ!
帰りは僕が送って行くから心配要らないよ」

「私が車で送ろう。
富芦が送る方が心配だからね。
だから安心して――」



左右から煩い二人にユウトは仕方なく、

言う。



「僕は、今日はもう1秒だってお二人と一緒に居たくないんです」

「「―――ッッ」」



さすがに叔父と甥は言葉を失った。

『一緒に居たい』は言われまくって来た二人だが、『居たくない』と言われたのは記憶のどこをどう捜しても初めてである。

足まで止まってしまった叔父を後に、激しく波打つ心を抑え付け桧木が口を開く。



「あ‥‥じゃ、駅‥
駅まで送るよ!
ユウト君はこの街に来るの試験の時と今日で2回目だろう?
夕刻には人の流れが変わるせいかこの辺慣れない人は道に迷いやすいんだ。
だから‥‥ね?
送らせて欲しい」



ユウトも言葉を失う。

ここまで言って引いてくれないとか。

もしかして僕よりバカ?


≪ザッザッザッ‥‥≫


途方に暮れていたユウトの耳に裏門の方から足音が聞こえて来て、ユウトは思わず目を輝かせた。


(この足音は!)


予想を確認して、声を上げる。



南都樫ナントカシくん!
おーーい!」



≪ザッ!≫



丁度裏門の先の道で足を止めたのは身長1メートル92センチの大男。

ユウトと同じ中学の隣の隣のクラスの大男。

と言ってもユウトとは真逆で凄く頭がいい大男。

なのでおバカ組のユウトとは接点が無く、実は挨拶したりしなかったりする『顔と名前だけ知ってる』微妙な関係の大男。

極端に口数が少ないせいか『友人』と呼べる存在が無く、中学の三年間を常に一人で過ごし切った孤高の大男――



実は『大男』という表現はいささか的を得ていない。


高身長で服の上からでも美しい筋肉を纏っていると分かる美しい彼。

端正でスッキリとした美貌のフェイスに、卒業間近とは言え中学生とはとても思えない肉体美。

決してムキムキというワケではなく、ガッシリとした逞しい骨格にほどよく筋肉を纏い、余計な肉は無く、つまりメチャメチャカッコイイ!

非現実的な美貌はここは映画の世界なのか、それとも異世界なのかという気持ちにさせられる。

堂々たる立ち姿の圧倒的存在感と美しさは、夕焼け空を背景に画家や写真家でなくともヨダレもんの光景と言えよう――
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