暫定アイドル☆ゆーとりん！―少年は愛の為に覚醒する―

30 教えて？

ナイトのマンションから5分ほどの場所にあるファミレス。

時刻は午後4時過ぎ。

昼食には遅く、夕食には早い時間だが。

軽食やドリンクバーを楽しみながらおしゃべりに興じる女子を中心にそこそこ人が入っている。


そこへ―――



「いらっしゃいま――
あッ金髪碧眼外国人！
すすす凄いイケメン！
あ、えーと、うーと、
めいあいへるぷゅー」

「あ、日本語分かりますので」

「アイシーアイシー
かしこまりました？
きゃあぁぁぁん、
優しい笑顔蕩けるぅ
頑張って下さい応援します」

「あ、え‥‥と？」

「芸能人ですよね？」

「違います。
食事に来ただけの一般人です」

「写真いいですかッ？
サインくださいッ」

「だ、だから――」



この様子を物陰に隠れて覗き見する2名。

覗き見する姿ですらカッコ良過ぎるナイトと、天使が人間界に遊びに来た様にしか見えないユウト。

もちろん二人とも無自覚なので更に罪が深い。



「ね？
ナイトがお店に行ってもあんな感じなんでしょ？
恐いからじゃなくてカッコイイからだよ。
ナイトの場合カッコよさの次元が違うからもう少し対応違うかもね。
絶句しちゃうとか」

「絶句される」

「赤い顔で涙目で」

「うん――
ユウトの場合は？」

「僕？
僕は別に普通だよ」

「そんなワケない。
多分普通を間違えてる
誰もが持ち帰ろうとするはずだ」

「小さい頃はね…
でも今は普通だよ。
最初は外国人と誤解されるけど話せばすぐに違うと分かるし…
あ、フィカスさん戻って来ちゃった。
フィカスさん、大丈夫？」

「おかしいんです。
ちゃんと日本語を話しているのにまるで通じないんです。
こんな事は初めてです」

「フィカスさんも普段外食しないの？」

「たまにしますが、私が行くレストランでは言葉が通じます」

「高級レストランだね。
フィカスさんのイケメンっぷりにビビッても表に出さない様訓練されてるんだ。
そーゆー所にナイトも誘えばいいのに」

「使用人の私がナイト様をお誘いするなど‥‥」



ナイトがフィカスを指差し、『監視員』と言う。

次いで自分を指差し、言う。



「監視対象」

「それ、教えて？
ナイトは何を監視されてるの」



突然ユウトが核心部分を聞くので、ナイトとフィカスは驚く。

さっきはサラッと流していたのに――

絶句してしまった二人に、ユウトはニコッと笑う。



「――とりあえず僕のじぃちゃんの友達がやってる居酒屋さんに行こうか？
二人のイケメンっぷりには驚くだろうけど、パニックになる事は無いと思う」



そう言ってチラリと斥候（フィカスさん）が逃げ帰って来たファミレスに目をやるユウト。

ナイトとフィカスがその視線を追うと、ファミレスの窓と入り口に大勢の女子達がいて三人にスマホを向けている。

みな異様な興奮状態で、口々に

『誰！？海外アーティスト？』
『ハリウッドスターのお忍び？』
『撮影中？さっきドローン飛んでなかった？』

などと、突如降臨した美形三人組の素性を推理する。

『…ハッ！』
『えッ…！』
『嘘ッ…？』
『ヤバい！』

きゃ～～～～～ッ！！


女子達が騒ぎ出したのは、ナイトがユウトの手を引いて歩き出したから。

美青年が美少年を攫って行くドキドキ感に失神寸前の彼女たち！

ま、待って！
その時金髪碧眼は！？

おぅッ！！

金髪碧眼はスマートにタクシーを停めていた！

何だろう、この『大人の男の素敵感』は！？

ナイトがタクシー後部座席にユウトを連れて乗り込み、助手席にフィカスが乗り込むと、スーッとタクシーが滑り出し、追いかけようとしていた女子数名をを振り切った。

いや、女子、凄い！

でも危険だから、車道に出てタクシーを追い掛けてはいけない！



「お客さん達、女子軍団アマゾネスは撒きやしたぜ。
さぁて、どちらへ向かいやす？
何なりとお申し付けくださいやし。
へへっ、久しぶりに腕が鳴るぜ！」



どうやら何かのスイッチが入ったっぽいタクシードライバーが行先を聞いて来る。

ハッとしたユウトがじぃちゃんの友達がやってる居酒屋の近くの建物を告げる。

順調に目的地へ向かうタクシーの車内で、ユウトは混乱している。


ドキドキしている！


ファミレス前から、

今もずっと――

ずっとナイトの大きい手に手を握られたままなのだッ