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38 朝ごはんを買いに

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翌日は土曜日。

朝7時。


昨夜は風呂を出た後すぐに寝入ってスッキリ目覚めたユウト。

対してナイトは中々寝付けず、寝入った後は深く眠りまだ起きて来ない。


ユウトはフィカスに連絡してみるとこれから朝食のパンを買いに行くと言うので同行する事にする。


『フィカスさんと朝ご飯を買いに行ってくるね』


と書置きを残して部屋を出ると、フィカスがドアの前で待っていたので、鍵をお願いする。

執事なのでナイトの部屋の鍵も持っているのだ。



「恋人みたいだね?」

とユウトがふざけると。


「恋人ではありません
運命共同体です」

と真面目に答える。

そして真面目に聞く。


「昨夜は泊まられたのですね。
お二人は恋人になられたのですか?」

「――ふっ、まさか。
フィカスさん、ナイトは僕に恩を感じてる(だけな)んだって」

「あ。‥‥はい」

「知ってた?
そう、それ以上でも以下でもない関係だよ。
――ワケも分からず恩を返してもらう僕って随分図々しいよね」

「いいえ!
ユウト様…ユウト君はナイト様にとって素晴らしい存在です!
ハッキリ言って、ナイト様はただ生きているだけの虚しい人生を過ごして来られました。
ですがユウト君と一緒に居る時のナイト様はとても人間らしい――というか、何と言うか、幸せそうです!」

「食事は大事だから」

「食事だけではありません!
ただ一緒に居るだけで、ナイト様は‥」

「僕をナイトから遠ざけたかったんじゃないの?」

「―――ッ!」



思わず絶句するフィカス。

確かにそう思っていたが。



「――私はそれを口に出していないと思うのですが…
態度に出ていたのでしょうか?
実は昨日、マンションに着いた辺りから記憶が曖昧で…
その割に気分はとてもいいのですが…
居酒屋飯を食べ過ぎたせいかもしれません。
それでその…コホン、
ユウト様をナイト様から遠ざけたいと。
――申し訳ありません
実は確かに昨日はそう思っていましたが、一晩寝て考えが変わりました」

「ふぅん?」

「ナイト様はユウト様に危害を加えようとする輩に対して危険な状態になります。
ですから、ユウト様が安全なら問題無いのです!」

「フィカスさん、何かキラキラしてるけど…」

「私も橘高に留学生として通います!」

「ええっ!?」

「そしてナイト様と共にユウト様をお守りします!
ユウト様が安全・安心ならナイト様は――」

「ふっ――いつまで?
ナイトが恩を返せたと気が済めば僕を守ろうとするのも終わる。
ナイトの感覚次第だから、高校の三年間かも知れないし、今この瞬間に終了してるかもしれない」

「――ユウト様?」

「僕は当事者だからしょうがないけど。
フィカスさんまで巻き込まれる事ないよ」



今優しく差し出されている手はある日突然消える。

よっぽど気持ちをしっかり持ってないと僕は崩れてしまうかもしれない。


期間を明示されない期間限定の優しさは


僕を強くするのかな

弱くするのかな


生かすのかな

――ダメにするのかな



「‥ユウト様、」

「ユウト、
戻っちゃってるよ?」

「あ。でも、」

「パン屋さん発見!
焼きたてパンをゲットしよう!」

「――――――」

「フィカスさん、
ホラ早く!」

「‥‥えッ!?」



ユウトに手を取られて頬を染めるフィカス。

――と、強い視線を感じて振り返ると。



「‥ハァ、ハァ、」

「‥ナイト様!?」

「え?――えぇ!?」



10メートルほど後方に。

走って来たのであろう、肩で息をするナイトが立っている。


マンションからパン屋まで3分ほど、大した距離ではない。

が。



「――ナイト、寝間着
――だよね?
いつもそうなの?」

「いえ。
初めての行動です」

「裸足――だね?」

「初めてです」



目を点にしたユウトと目を真ん丸にしたフィカスが話していると。

勢いよくナイトが歩いて来て。

フィカスの手を掴んでいるユウトの手を掴む。



「――ユウト、」

「‥ッ‥」



そのままユルリとユウトの手を取ると、責める様な目でユウトを見るナイト。


店に向かって来るユウトとフィカスを『いらっしゃいませ』と元気に迎えようと待ち構えていたパン屋の主人と奥さんは固まる。



「何かヤバい雰囲気だな…通報した方が良くないか?」

「待って!
3人共美形すぎる!
何かの撮影じゃないの?」

「撮影なら駅前商店街広報から連絡あるはずだろ?
何も無いぞ?
でも確かにどう見ても一般人じゃないな…」

「だよね!
美青年2人が1人の美少年を巡って争う‥‥見る!
私、その映画かドラマ、絶対見る!」

「いや待て。
やっぱリアルかも。
黒髪の大きいイケメン、どう見てもマジだわ」

「えっ――怖!
あんな大きい黒髪イケメンが暴れたら収集つかないよね!?」



まだ8時前のこの時間

ウイークデーなら人通りが多いこの商店街も、土曜日とあっては、まだ人通りはまばらで。

結婚前から二人でお金を貯めてやっと開店にこぎつけた二人の夢のパン屋。

開店3ヵ月で遭遇中のまさかの事態に青褪め固まるしか出来ない若夫婦であった。
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