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67 ケンカ

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ユウトは続ける。

止まらない。

言ってしまわなければならない。



「僕は自分がゲイじゃないと言い切れない…
僕の中には男女の境界があまり無い。
男性にも女性にも同じ様に心がときめいたりする。
――生まれたのも小さい頃過ごしたのも外国で、ママの友達に同性のカップルは当たり前に居たし。
彼等や彼女等は優しくて素敵だったしその存在は自然で当たり前だった。
僕には日本の感覚の方がよく分からない。
繁殖だけが目的の存在じゃないんだから。
人間なんだから。
特別視するのが理解出来ない。
でもナイトの『気持ち悪い』っていう感覚を否定する気もない。
自然で当たり前でそれこそ自由だと思う。
だけどもう一緒には居られない。
だから出て行く。
…というわけだから…
――退いて?」

「ユウト君、とりあえず6階――私の所へ行こう。
それで少し落ち着こう?」



フィカスが優しい声でユウトを宥めようとするが――



「‥ダメだ!」

「ナイト様?」

「フィカスは俺の側の人間だ。
だからダメだ!」



絶句していたナイトがやっと口を開いたと思ったらコレだ。

『私の主はどれだけバカなんだ』と思いながらフィカスは呆れた目を向け呆れた声を出す。



「――そういう言い方をするからユウト君が私達の関係を誤解するんですよ?」

「何度否定しても誤解するのはそう思いたいからなんだろう。
だったらもう否定する意味も無い」

「ナイト様!?」



眉間にシワを寄せたナイト。

底の無い黒に沈む瞳。

フィカスにもナイトが何を考えているのか分からない。

まさか本当にユウトを出て行かせるつもりか!?



「――そう、だよ。
二人が恋人同士の方が僕には楽だったんだ。
ナイトもフィカスさんもすごく素敵だからね。
ただ姿を見るだけで…
話すだけで…
一緒にスーパーに行って、一緒にゴハン食べて――
それだけで僕はときめいてしまっていたんだ。
その上学校がらみでは守ってくれる事が多い。
二人にとって何でもない距離や仕草に僕はときめいて…
それは恋愛感情に近い気持ちだったと思う。
でも僕は自分の気持ちに向き合うのが恐くて。
二人が恋人同士なら僕の入り込める隙間なんて無いから何も考えなくていい。
だから僕は何度否定されても二人が恋人同士だと思いたかったんだ――ごめんね」

「「‥ッッ!!」」

「――ごめんね、
迷惑かけた」



そう言って俯く頬にポロポロと涙がこぼれ落ちる。



「――ッ‥ッ!?」



思わず駆け寄ろうとするフィカスが一瞬、赤い稲妻に包まれる!?

フラリ‥‥

倒れそうになるが何とか踏みとどまる。

が、体が痺れて立っているのがやっとだ。


キィッ


フィカスが動いた分、玄関ドアの前にユウトが通れるだけの空間が生まれ、ユウトはドアを開ける事が出来た。



「僕は三人でいる時間が楽しくて幸せだった。
ありがとう。
じゃあね」



玄関を出て振り返り、そう挨拶してドアを閉めようとするユウト。


ガッ!


ナイトがドアが閉まるのを止める。

そして?



「…あの女――小出はやめておけ」

「「‥??」」



突然その名を出され、何の事か分からなかったユウトとフィカス。



「え?
小出…毬ちゃん?」

「そうだ。
アレは性悪だ。
アレだけはやめておけ
大体、ユウトは女の趣味が悪過ぎる!」


ピッキーーーン


本当は辛くて悲しくて泣き叫びたい――

そんな気持ちを何とか抑えてちゃんと話して去ろうとしたユウト。

それなのに、まさかの、明後日の方向からの攻撃。

必死に抑え込んだ感情が変形して炎となり、ユウトの内側を鈍く焦がす。



「それは、それこそナイトに関係無い事だよ。
第一、彼女は桧木先輩の妹って関係で文化祭ライブを手伝ってくれてるだけ‥」

「だけど好きなんだろう?
アレのどこがいいんだか理解に苦しむ!」

(あぁ…ナイト様はパニック状態なのか?
どうしていいか分からなくて、何ヶ月も我慢して来た小出毬への不満が噴出しているのか?――今ここで!?
悪手でしかないと分かった上で?)

止めたくてもまだ体が痺れていて二人の方に顔を向ける事も出来ないフィカス。



「『アレ』って‥‥
小出さんに失礼だよ」

「失礼そのものの存在に気遣う必要は無い」

「彼女にだっていい所があるんだから!
そりゃ、我が儘なところもあるけど、それは彼女が可愛過ぎるから…
周りからチヤホヤされたら、誰だって少しおかしくなるよ!」

「ユウトはおかしくなってないだろ!」

「え?僕?」

「ユウトの可愛さはあんな女なんて比べることも出来ないほど別格なんだから、ユウトだって子供の頃からチヤホヤされてきてるだろう?
でも全然おかしくなってないじゃないか」

「僕はチヤホヤされてないし!
される理由も無いし!」

(やはり無自覚か…)
(無自覚ですね…)

「とにかく僕は何ヶ月も前に彼女にフラれてて‥」
「だけどまだ好きなんだろう!?」
「‥何でそうなるの!?」
「あの女に優し過ぎる!」
「普通だよ!?」
「普通じゃない!」
「‥ッ!」
「見てるとイライラする!
頭にくる!
許せない気持ちになる!」

「‥‥だから出て行く
――僕ごと視界に入れなければいい。
それで解決だよ‥‥


「‥!!」

「さよなら」



バタン、カチャッ‥‥


ドアの閉まる音を茫然と聞くナイト。

動けない。

物理的に動けないフィカスとは別の理由で。
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