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75 思い出した!

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あれは中学生になる少し前だった。

父さんが『花見に行こう』と言った。

『山の中に桜の木が1本だけ咲き誇っている場所を見つけた。
まだ誰にも知られてない穴場だ…ゆっくり見れる』


『終わりにする気なんだな』と分かった。

父さんは何度も僕の首を絞めたけどやりきれず、僕は生きたまま。

僕も――

もう疲れていた。

首を絞められ、
気を失い、
目覚める度に先ず疑う

ここは死後の世界?

死ななかったんだ
父さんはまたやりきれなかったんだ

そう分かる度
涙が頬を伝った

僕が死んでも
ママが帰って来ないって分かったら

父さん、どうする?

どうするの‥‥



桜の木の下で

父さんが僕の首を

絞める

僕の手は

大地を掴む

抵抗しない

大地よ

僕を迎え入れて

苦しい

朦朧とする意識


≪ザッザッザッ‥‥≫

何の音?

≪ザザザザザッ‥‥≫

足音――誰の?

乱れる足音
争う音
声―――



『‥フィカス!
その子はッ!?』
『大丈夫‥
息を吹き返しました!
危なかったけど――
偉いぞ、強い子だね』

『――ああ。
あぁ、良かった‥‥
間に合った‥‥』

『‥うっうっう‥‥
ネルケ…ネルケ…
ユウトが居たらネルケが帰って来ない…
違う…ネルケはもう居ない…
違う…ユウトが居るから…うっ…』



ガツッ!
――殴った?



『消えろ!
この子の側から居なくなれ!』

『な‥?
ユウトはまだ子供だ…
俺が守らないと…
ネルケに言われたんだ
『ユウトを守ってね』
俺が守らないと…
父親なんだから…』



父さんが矛盾した事を言う。

父さんはいつでも矛盾している。



『この子は容姿はあなたによく似てますね。
誰が見ても親子と分かるくらい』

『そう!
そうなんだよ!
ユウトは俺似なんだ』



悲しい空気が流れる。

きっと父さんはニッコリ笑ったんだろう。

狂人に対する憐みの空気だろうか――



『あなたは近くに居たらこの子を愛せないのでしょう。
離れた距離から愛するのがいいと思います。
ずっととは言いません。
近い距離に居ても愛せるようになったらまた戻ってくればいいんです。
それまではこの子の側を離れる事をお勧めします』

『で、でもユウトはまだ子供で‥』

『俺が守る!
俺は昔この子に助けられた。
今度は俺が助ける』

『そうですね。
美しい子です。
危険が多いでしょう。
私達がこの子を守りましょう』



僕は必死に瞼を開けようとする

ずっと頑張ってるけど

金縛り状態で意識はあるのに体は動かせない

そのうち意識も途切れ



『ユウト!
起きたのかい?
大丈夫かい?
ユウト?
ばぁちゃんだよ!
分かるかい?』

『ばぁちゃん…』



僕は体を起こす。

ばぁちゃんちだ?

あれ?



『何で僕、ここに?
いつ来たっけ?』

『あぁ、昨日ね、』

『昨日‥‥何だっけ?
僕、昨日の事何も思い出せないんだけど‥』

『‥!!
そう‥かい、そう‥
き、昨日ね、疲れた様子でフラッと来て、眠っちゃったんだよ!、ウン!』

『そうなの?』

『遊び疲れたんだろうよ?』

『そう…まだ眠いや』

『そうだね、まだ疲れた顔してる。
もう少し寝な?ね?』



そして本当に眠って次に目が覚めたのは3日後で。

全てが有耶無耶のまま僕はじぃちゃんばぁちゃんに引き取られる事になっていた。




「‥八桐!?‥オイ?
どうした?」


≪ガタッ!≫
「錦木くん!
僕、大切な事を思い出した!
だから戻るね!
‥はッ!ゴメン、ケータイも財布も何も持ってない」

「ああ、いいよ。
奢るよ」

「ありがとう!
後でお礼するね!
じゃあ‥」

「いやいいけど――
道分かんのか?」

「大丈夫!
あそこ!」



ユウトは窓の外を指差す。

駅前のマンションを。



「あそこ目指せば着くはずだから!」

「イヤ雨で見えねー‥
駅前のすげーマンションなら、太い通りに出て左に道なりに行けば知ってる道に出ると思うよ」

「ウン!
ありがとう!
あぁ、本当にいっぱいありがとう!
またね!」

「‥ッ!!
お、おう!
またな!」



軽やかに店を出て行くユウトを見送る錦木。

送りたかったけど、そんな事言い出せる感じじゃなかった。

明らかに誰かを想ってる様子――

仕方ない、最初から付き合えるとか思ってない。

去り際に見せてくれた笑顔だけで充分。


(『またね』か…
また会える――
これからは、見掛けたら声かけていいって事だよな?)


知らず微笑んでしまう錦木。


(『後でお礼するね!』って…
さっきの笑顔だけで一生下僕になるっつーの!)


ニヤニヤしてしまう錦木。



C「どう見ます?先輩」

A「イマドキがフラれた――にしては幸せそう?」

B「天使も豪雨に飛び出して行くにしては軽やかだったわね?」

A「…そもそもカップルじゃないんじゃ?」

BC「「いやいやいや」」



びしょ濡れで入って来た絶世の美少年と今時な感じのイケメンの二人組。

バイト店員A、B、Cは、雨で客足が少ない事もあって刮目せずにいられなかった。

『カップルかな?』に始まり、妄想を暴走させていた3人娘。

と、突如店を飛び出した天使!

えッ!?
何があった!?

イマドキとケンカに?

イマドキは―――

笑ってるわよ!?

何コレどーゆー事~~



女子には理解出来ないミステリアスな笑顔を湛えた錦木はしばし幸福に。


憧れの美少年の笑顔の余韻に浸るのであった――



そしてユウトは走る!
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