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84 複雑な想い
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ユウトが運び込まれたのは桧木が使った薬物を作った男――博士の研究所だった。
病院に行くより解毒剤を用意出来る研究所の方が無駄が無かった。
研究所は市街地からはずれた市境にポツンと建っていて。
1階建てのこじんまりとした研究所の中にセレブ用病室みたいな部屋があり、ユウトはそこで処置を受け、一命を取り留めた。
ダンス練習場で苦しむユウトを見つけてからずっとユウト救出にのみ集中していたナイトとフィカス。
ユウトが回復したところで、ユウトを苦しめた者達の処分に動き出そうとした。
まずは問題の薬物を作り桧木に渡してしまった博士。
何故まずは博士なのかと言うと、直ぐ近くに居たからである。
ユウトの必死の説得により博士は金髪碧眼のイケメンに首をへし折られる直前に解放され、その代わりとして説教を受けた。
説教と言うと『楽そう。神妙な顔で聞いてればいいだけ』と思われるかもしれないが、後に博士が『寿命がすり減る様な恐ろしい時間だった。何度も魂が体から抜けて行きそうになった』と震えながら証言するほど辛いものだった様だ‥‥
そして桧木だ。
『桧木はどうしても処刑しなければならない』と主張する二人を何とか宥めて、桧木にはユウト本人が罰を与える事となった。
桧木はユウトが処置を受けた部屋の外で待たされていた。
部屋からユウトが歩いて出て来るのを見て号泣してユウトの無事を喜んだ。
桧木に対してユウトは穏やかに告げた。
『人に薬を盛る様な人間は信用できない。
そんな人間の側に居たくない。
文化祭ライブが終わったら僕は暫定アイドルを辞める。
自動的に橘高校を去る事になるだろうけど構わない。
もう決めた事だから今後この事に関して一切話さない』
目を見開きその場に頽れ動けなくなった桧木。
確かに、桧木にとって一番辛い罰かも知れないとナイトとフィカスは納得した。
そんなこんなで、夜。
ユウトは風呂に入りながら思い出している。
もちろん口移しの事を
(フィカスさんはああいうの、経験豊富なんだろうな…
甘くて蕩ける様で…
い、いや、アレはキスじゃないんだけどね!
――けど、フィカスさんが恋人にキスするみたいにするから――
‥とッ、蕩けてしまうのは仕方ないよね!
でも、最後に話しながらチュッってされた様な――
あ…アレは何だったんだろう…
別に深い意味は無かったのかな…
フィカスさんにとっては何でもない事なんだろうか…)
のぼせて来た…
湯船の中で、湯面から足先を出して少しクールダウンする。
(ナイトはフィカスさんとは対照的‥すごく優しかったけど、甘いというよりはとにかく液体を零さない様に僕に飲ませる事だけに集中してるってよく分かった――やっぱりナイトは同性間でドキドキしたりとか無いんだろうな…)
家出の後、三人で色々話したけど、同性間の恋愛みたいな話にはならなかった。
避けてるというより、そんな話する必要すら無い、という感じで。
ただ、二人ともユウトを大切に思っていて、一緒に暮らし続けたいと言われ、ユウトも頷いた。
恋なのか、ただの憧れなのか――吐露したはずの複雑な想いは無かった事になっている様で、結局ユウトはそんな想いを心の奥に押し込めて――
いい。
それでも、二人と一緒に居たいから――
複雑な想いは隠して、
家族みたいな感じで…
ユウトは風呂から上がると、自分の部屋で職探しを始める。
橘高はやめる事になるだろうし、他の高校なんて絶対入れないだろうから。
スマホで色々調べているとあっという間に1時間が過ぎてる。
≪コン、ココン≫
ノックの音に、ユウトは空耳だと思う。
二人はユウトが風呂に入った後は、何故かもう顔を合わせようとしない。
だから部屋に訪ねて来るなんて事絶対無い。
(あ、もうこんな時間
そろそろ寝‥)
≪コココン、コン≫
「‥!?え?
空耳じゃないの?」
≪ガチャッ≫
「‥ナイト!?
え、どうしたの?」
ユウトがドアを開けると、ナイトが立っていて――
訪ねて来たのはナイトなのに、何故か目を逸らしている…?
「取り敢えず中に‥」
「いや!いい!」
「「‥‥‥‥‥‥」」
「‥‥あの?」
「ッああ、ちょっと、
ちょっと気になって」
話しながら何故かどんどんドアから離れて行くナイト。
ユウトは様子がおかしいナイトに優しく尋ねる。
「何が気になってるの?」
「い、いや!いい!
――ゴメン、俺‥‥
いや、何でもない」
「‥ナイト?」
「いい――本当に、
何でもないんだ。
――おやすみ」
「あ、うん――
おやすみ、ナイト」
ワケが分からないままドアを閉めようとするユウト。
――と、
≪グイッ≫
「‥ッ!?」
ナイトが突然ユウトの腕を掴んで――
病院に行くより解毒剤を用意出来る研究所の方が無駄が無かった。
研究所は市街地からはずれた市境にポツンと建っていて。
1階建てのこじんまりとした研究所の中にセレブ用病室みたいな部屋があり、ユウトはそこで処置を受け、一命を取り留めた。
ダンス練習場で苦しむユウトを見つけてからずっとユウト救出にのみ集中していたナイトとフィカス。
ユウトが回復したところで、ユウトを苦しめた者達の処分に動き出そうとした。
まずは問題の薬物を作り桧木に渡してしまった博士。
何故まずは博士なのかと言うと、直ぐ近くに居たからである。
ユウトの必死の説得により博士は金髪碧眼のイケメンに首をへし折られる直前に解放され、その代わりとして説教を受けた。
説教と言うと『楽そう。神妙な顔で聞いてればいいだけ』と思われるかもしれないが、後に博士が『寿命がすり減る様な恐ろしい時間だった。何度も魂が体から抜けて行きそうになった』と震えながら証言するほど辛いものだった様だ‥‥
そして桧木だ。
『桧木はどうしても処刑しなければならない』と主張する二人を何とか宥めて、桧木にはユウト本人が罰を与える事となった。
桧木はユウトが処置を受けた部屋の外で待たされていた。
部屋からユウトが歩いて出て来るのを見て号泣してユウトの無事を喜んだ。
桧木に対してユウトは穏やかに告げた。
『人に薬を盛る様な人間は信用できない。
そんな人間の側に居たくない。
文化祭ライブが終わったら僕は暫定アイドルを辞める。
自動的に橘高校を去る事になるだろうけど構わない。
もう決めた事だから今後この事に関して一切話さない』
目を見開きその場に頽れ動けなくなった桧木。
確かに、桧木にとって一番辛い罰かも知れないとナイトとフィカスは納得した。
そんなこんなで、夜。
ユウトは風呂に入りながら思い出している。
もちろん口移しの事を
(フィカスさんはああいうの、経験豊富なんだろうな…
甘くて蕩ける様で…
い、いや、アレはキスじゃないんだけどね!
――けど、フィカスさんが恋人にキスするみたいにするから――
‥とッ、蕩けてしまうのは仕方ないよね!
でも、最後に話しながらチュッってされた様な――
あ…アレは何だったんだろう…
別に深い意味は無かったのかな…
フィカスさんにとっては何でもない事なんだろうか…)
のぼせて来た…
湯船の中で、湯面から足先を出して少しクールダウンする。
(ナイトはフィカスさんとは対照的‥すごく優しかったけど、甘いというよりはとにかく液体を零さない様に僕に飲ませる事だけに集中してるってよく分かった――やっぱりナイトは同性間でドキドキしたりとか無いんだろうな…)
家出の後、三人で色々話したけど、同性間の恋愛みたいな話にはならなかった。
避けてるというより、そんな話する必要すら無い、という感じで。
ただ、二人ともユウトを大切に思っていて、一緒に暮らし続けたいと言われ、ユウトも頷いた。
恋なのか、ただの憧れなのか――吐露したはずの複雑な想いは無かった事になっている様で、結局ユウトはそんな想いを心の奥に押し込めて――
いい。
それでも、二人と一緒に居たいから――
複雑な想いは隠して、
家族みたいな感じで…
ユウトは風呂から上がると、自分の部屋で職探しを始める。
橘高はやめる事になるだろうし、他の高校なんて絶対入れないだろうから。
スマホで色々調べているとあっという間に1時間が過ぎてる。
≪コン、ココン≫
ノックの音に、ユウトは空耳だと思う。
二人はユウトが風呂に入った後は、何故かもう顔を合わせようとしない。
だから部屋に訪ねて来るなんて事絶対無い。
(あ、もうこんな時間
そろそろ寝‥)
≪コココン、コン≫
「‥!?え?
空耳じゃないの?」
≪ガチャッ≫
「‥ナイト!?
え、どうしたの?」
ユウトがドアを開けると、ナイトが立っていて――
訪ねて来たのはナイトなのに、何故か目を逸らしている…?
「取り敢えず中に‥」
「いや!いい!」
「「‥‥‥‥‥‥」」
「‥‥あの?」
「ッああ、ちょっと、
ちょっと気になって」
話しながら何故かどんどんドアから離れて行くナイト。
ユウトは様子がおかしいナイトに優しく尋ねる。
「何が気になってるの?」
「い、いや!いい!
――ゴメン、俺‥‥
いや、何でもない」
「‥ナイト?」
「いい――本当に、
何でもないんだ。
――おやすみ」
「あ、うん――
おやすみ、ナイト」
ワケが分からないままドアを閉めようとするユウト。
――と、
≪グイッ≫
「‥ッ!?」
ナイトが突然ユウトの腕を掴んで――
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