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96 文化祭ライブ8

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「ナイト様…準備は整いました…存分に…」

「ああ」



全身を攻撃し続ける逃げ場のない痛みに耐えながらフィカスがナイトを促す。

ナイトは頷き、生徒達に視線を移す。



『覚醒』が始まると、体の中でエネルギーが膨張しながら暴れる。

膨張はどんどん大きくなり、体が耐えきれなくなった時爆発する。

爆発に至る前に内側から暴れ噴出しているエネルギーを生徒達に飛ばす。

僅かな量で生徒達は動けなくなるだろう。

数名――或いは全員が死んでしまうかもしれないが微調整する余裕はない。

それが済めば後はフィカスがナイトに近付くだけ。

ある程度の距離まで来たら、互いのエネルギーの中和が始まり、それが終わった時に二人は絶命するのだ――



ソロリ‥ソロリ‥



『覚醒』中の苦しみで意識を張り巡らせることが出来なくなっているナイトとフィカスを避ける様に舞台端から回り込んで来る生徒が数名いる。

生徒達は光を放出し続ける二人の異様な姿に恐れをなすものの、それでも二人の後ろにいる美しい少年を諦めきれない。

躍動する白く美しいあの足――

白いロングドレスを引き裂き剥ぎ取ってあの足を――

欲望は男達の恐怖を悠々と凌駕する。


男たちはとうとう二人に気付かれないまま、息を殺してユウトの背後を取り囲み、一斉にユウトに飛び掛か‥


【止まれ】

!!?


今、
もう今!
まさに今ユウトに抱きつこうとしていた男達の動きがピタリと止まる?

それだけではない。

他の生徒達も同様に動きを止めた?


「「‥!?」」


ナイトとフィカスも驚きユウトを見――

「「ッッ!?」」


ユウトの瞳

いつもは柔らかなアンバーの瞳が!

ゾッとするほど美しい金色に光っている――!!



【みんな客席に――
元の場所に戻って】



決して怒鳴っているわけではなく、普通に言っている。

だが、その声は直接全員の脳に響き――


生徒達はみな当たり前の様に整然と元の場所に戻り、大人しく座る。




これがユウトのである。



幼い頃、両親と共に犯罪に巻き込まれそうになった時。

この声でお願いすれば、どんな悪人も犯罪組織も悪事を諦め逃がしてくれた。

人の脳に直接アクセスし、支配可能な声――


この声はいつも出せるわけではなかった。

幼い時は、ピンチの時『ちゃんとお願いする時に出る声』だった。

年を取るごとに分かったのは、自分の意思で出せる時もあれば、相当なピンチにならないと出ない時もあり――かと思えば、その声を出す気などないのに、自然とその声になる時もあり、非情に不安定だという事。

出そうと思っても出ない時の方が多いからか、自然と意識から外れた声だったが。


あの時、全てが分かった。


ナイトとフィカスに

「「‥愛してる‥」」

と言われた瞬間。


ユウトの意識は不思議な場所へ飛んだ。

その不思議な場所で、ユウトは沢山のものを見た。


大昔、本当は何が起こったのか――

自分が存在する意義――


時間にすれば一瞬だったろう。

意識が戻った時、飛ぶ前と同じ状態だったから。


(不安定でたまにしか出ない声は僕の本当の声だと分かった。
何故本当の声が普通に出せていなかったかも。
――これからは、ちゃんと自分の声で生きられる。
二人がいるから。
愛を得たから――)


驚いた顔でユウトを見ているナイトとフィカス。

ユウトは金の瞳で二人を包む様に見つめる。



【少し時間が掛かるけど、二人の事は僕が守る!】

「「‥!!」」



守る?

不可能だ!

『覚醒』は止められないのだから。


だが。


さっきまでは震え涙を流していたユウト。

今は落ち着き自信に溢れている‥‥


不思議なことにユウトのあの声を聞いた瞬間から痛みが和らいでいる様な?

『覚醒』の進行も止まっている?


ナイトとフィカスはいくつもの不思議を抱えながら。

更に不思議で神秘的な金の瞳に吸い込まれる様な感覚の中、

『もっとその声が聞きたい』という願いが叶う。



【大丈夫――
僕に任せて】
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