ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ

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12 父娘の邂逅

シルヴァ伯爵邸は広大な庭を有する。
その庭に降り立った翼竜の数は30に及ぶ。
『魔獣』とも呼ばれ戦闘能力が高い翼竜が30…
シルヴァ伯爵領が属するフローラリア王国を簡単に捻り潰せる数だ。
もちろん、戦闘が目的の飛来ではないが。

29の漆黒の翼竜には2人ないし3人の騎士が乗っている。
ひときわ大きい金の翼竜には1人――
神々しい光を放ち
金の翼竜から降り立ったのはやはりドラコ大王。
その姿に一同震撼する。
似てる。
似すぎている!

桜色のメッシュが入った淡い紫色の髪
金銀のオッドアイ
類まれなる美貌――

「ウィオラ様そっくり」

シルヴァ伯爵家のメイドが思わず声を漏らす。
遥か上空からウィオラだけを見つめていたオッドアイ…
ウィオラはゆるりとドラコ大王に視線を向ける。

おお…

主にそっくりな華やかで神秘的な女神のごとき美貌の令嬢に息を呑んだ後
声にならないどよめきを上げるドラコ騎士団。
主に王女はいないが
もしいたらどれほど美しいだろう
きっと世界一の美女だろう
そんな妄想を遥かに超える尊い姿に一同声も出ない。

金銀のオッドアイ同士がチカチカと光を放つ。
ウィオラは経験したことのない不思議な感覚を知る。

――あぁ、
この人、私の父親だ。

ついさっきまでスピーナ子爵を父だと信じて疑ってなかったのに
本物を前にして初めて血縁の何たるかを感じ取っている。
母には常に憎しみを向けられて来たから感じる余裕がなかったモノだ。

なるほど強い。
だけど――

ドラコ大王はウィオラの目前に歩み寄り跪く。

あのドラコ大王陛下が跪かれた!?
おおおおお…

ドラコ騎士団が感動の渦に身を任せている。

「愛する娘よ、私はドラコ王国の王ウィスタリア・ドラコ…君の父親だ。
この邂逅を嬉しく思‥」
「ドラコ大王陛下ッ!
私を覚えていらっしゃいますかッ
19年前の祭りの夜の事、覚えていらっしゃいますかッ」

スピーナ子爵夫人がドラコ大王に駆け寄ろうとしてドラコ騎士団に制される。

「ちょっとッ!放せ、放しなさいッ
私に無礼を働くなんてどういう積り!?
ドラコ大王陛下が黙っちゃいないわよッ!
私はドラコ大王陛下に抱かれウィオラを身籠り産んだ女なんだから!
ドラコ大王陛下ッ
この者達を罰してくださいませッ!」

ギャンギャン騒ぐ子爵夫人にドラコ大王の眉間に皺が寄る。

「‥この私に許可なく話し掛ける不届き者を罰したいが君の母親では仕方な‥」
「お気遣いなく。
どうぞ罰してください。
スピーナ子爵夫人は確かに私を産みましたが母ではなく虐待者ですので」
「なに?」
「ウィオラッ
お前は何と恐ろしい娘!
母の恩を忘れ陥れようとするとは!
ドラコ大王陛下ッ!どうかその子の言う事を鵜呑みになさらないでッ!
その子は心に欠陥があるのですわ!
ええ、嘘をつく病気なんです!
ッ、娘に裏切られるなんて私は何て憐れな母親なのッ」

身を捩り涙を流して
娘に裏切られた憐れな女を演じるスピーナ子爵夫人。
その思惑はスケスケだ。

「実は私…娘だけではなく夫にも冷遇され辛い日々を送っておりますの…
それであの…
助けていただきたいの…
どうかこの私をドラコ王国に連れて行きお側に置いてくださいませ。
側妃になんて望みません。
愛人扱いで十分です。
ただお側にいられるだけで私、十分幸せですもの…」
「名は『ウィオラ』か。
そう呼んでいいか?」

ドラコ大王はスピーナ子爵夫人を無視してウィオラに優しく問いかける。

「お好きに」

ウィオラはクールだ。
スピーナ子爵夫人は唾を飛ばして捲し立てる。

「あ、あのッ!?
私はその子の母親ッ
つまりあなた様と体を繋げた女ですッ!
思い出してくださいませッ
19年前の祭りの夜!
激しく‥」
「黙れ」
「えッ!?ですがッ‥」
「ウィオラがお前を『虐待者』と訴えた。
お前はその通りにウィオラを侮辱した。
愛する娘を害され許す父がいると思うか?
たとえ娘を産んだ女であろうが許さぬ」
「そんなッ!
『虐待者』なんてウィオラの嘘ですッ!
その娘は頭がおかしい‥」
「黙れ!
これ以上一言でもウィオラを侮辱すればその首即刻刎ねてやる!」
「ひッ!?」

さすがにヤバいと理解した子爵夫人はやっと黙る。
ようやく静かに‥

「ドラコ大王陛下ッ!
私はスピーナ子爵‥
ウィオラの育ての父でございます!」

今度は焦った顔のスピーナ子爵が必死に訴え始める。

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