妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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02 ロサの運命

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数か月前。

平凡な茶色の髪と瞳に丸メガネをかけたポッチャリ令嬢ロサは自分が通う魔法学園のカフェテリアで別の男と向き合っていた。

男はくちなし色の髪に山吹色の瞳をした明るい印象の美丈夫。

筋骨隆々とまでは行き過ぎていないガッシリ系で、上品でありながら男臭さも滲ませる、女が無条件で惹かれてしまう体型の男はフッと笑顔を見せる。

少し離れた席に座る女子生徒達が『きゃぁ』と黄色い歓声を上げ、あの美丈夫は一体誰?生徒ではないわね大人の雰囲気よね素敵デートしてみたいと大騒ぎ。

イケメンを発見した少女の当たり前の反応であるがロサは違う。

「用件を聞こう」

この上なく愛想の無い対応である。

相手を不快にする為にわざとしているのではなく、これがロサの普通なのである。

「ごめん、話は後で…今日はその約束を取り付けに寄っただけなんだ。実は今日これから兄上と会って確かめるべき事がある。その上で君と話したくて…君とモンス辺境伯家の将来に係わる大切な話だ。それにはここはオープン過ぎるしね…もっと落ち着いた場所でゆっくり話したい…例えば君の住まい‥」

「「却下」」

ロサではなく、ロサの後ろに控えていたロサの双子の従者、クースとトースが口を揃える。

「‥やぁ…君達相変わらずだな…10年前から見た目も中身も全然変わっていないという究極の『相変わらず』だ…」

男の指摘は的を得ている。

ココア色の大きな瞳を持つ顔は美少年もしくは美少女で、髪はスキンヘッド。

いつも帽子を被っているが、どんな帽子もとてもよく似合って素敵だとロサは思っている。

年齢や性別などの基本情報については主であるロサも知らない。

細くて背が低く一見すると子供にも見えるが子供ではないだろう。

何故なら10年前からずっと変わらず同じ容姿だからだ。

2人は10年前、ロサが伯母の家に引き取られた2ヶ月ほど後に訪ねて来て。

『クース』『トース』と名乗りロサの従者だと主張し一緒に暮らし始め今に至る。

随分謎な2人であるし、そんな2人を従者として受け入れているロサもまぁ謎だ。

「メイズ様、誤魔化さないで頂きたいですね」「ロサ様が一人でお住まいになる場所に男を招待するはずありませんでしょう?」「結婚を控えた女性に対しての当たり前の礼儀ぐらいわきまえてもらわないと困ります」「「邪が過ぎます」」

まるっきり同じ声で捲し立てる2人に『う』『あ』などの声を漏らしながら目を白黒させるメイズ。

「クース、トース、あまりガミガミ言ってやるな。メイズ殿は私を女性として意識していないからこそ気軽に自宅訪問を口にされたのだ」
「ロサ嬢…違ッ‥」
「気遣いは無用だ。ところでメイズ殿はコーヒーなる物を飲んだことは?」
「えッ‥いや無いが…
それより俺はロサ嬢を素晴らしい令嬢だと思っていて、だから‥」
「では話をするなら『カフェ・キャプルス』という店はどうだろう?王都の中心街からはやや外れているが話題の店なのだ。今このカフェテリア内に女子の集団が5つあるがどの集団でも話題になっている。女子の話題になるという事はその店はイケているのだ」

そう言われカフェテリア内を見回せば。

80%席が埋まった店内。

学園入口にあるこのカフェテリアは一般客も受け入れているが今店内に居る客は全て学園の生徒でその8割が女子。

放課後にケーキやお茶を囲んでおしゃべりに興じているのであろう彼女達。

頬を染め目を爛々とさせた彼女達の今の話題はくちなし色の髪に山吹色の瞳をした明るい印象の美丈夫。

なので迂闊に店内を見回したメイズは全員と目が合ってしまい…『きゃぁ』『目が合ったわ』『違うわ、私を見たのよ』『素敵、話し掛けて下さらないかしら』などと悲鳴にも似た声を上げられ慌ててロサに視線を固定する。

「私は安全地帯か」
「あ、いや、」
「まぁいい。キャプルスは『コーヒー』という新飲み物が売りの店らしい」
「『コーヒー』か…それは珍しい…面白い。さすが王都…ってロサ嬢!俺は君を‥」
「『カフェ・キャプルス』で決まりだな。では週末‥と言っても明日だが…それでいいだろうか?」
「明日‥ああ、大丈夫だ」
「時間は?私の方は何時でも。そちらに合わせる」
「俺も何時でも…お茶的なものだろ…午前10時…は昼食に響くか…じゃあ午後3時…ではこの季節すぐに暗くなってしまう…難しいな…」
「では午後2時で。店は午前9時から開店しているそうだ。簡易的だが個室もあるらしい。予約不可なので空いていれば個室で話そう。では明日」

そう言って席を立つロサにメイズはパチクリしている。

「忙しいのだろう?」
「あ、そうだった。この後‥ハハ、君といると楽しくて時間があっという間に‥」

ふと言葉を切りメイズは神妙な顔でロサを見る。

「…これから兄上と会うのだが…」
「?さっき聞いたが」
「君は会いたいとは思わないのか?…婚約者として」

そう、メイズの兄サルトゥス・モンス辺境伯令息はロサの婚約者なのである。

「思わない」
「‥ッ‥」
「サルトゥス様も同じだろう。私がこの学園の3年に編入するためここグラキエス王国王都に来たのは去年10月。その事はサルトゥス様に手紙で伝えている。それから3ヶ月目になるが手紙の返事すら届かない」
「ッ‥兄上は何と不誠実な‥申し訳ない…
ロサ嬢…俺は前々から思っていた…兄上は君に相応しくないと‥」
「私とサルトゥス様は契約結婚をするのだ。契約内容には恋も愛も情も無い。手紙の返事を出さないからといって不誠実には当たらない」

苦し気に話すメイズに対して無表情を崩さず淡々と話すロサは本当に何とも思っていない様だ。

「父上からその事は聞いたが…実は父上も困惑しているのだ。
俺は内容までは聞いていないが父上によればかなり不公平な…兄上ばかりが得する内容で…婚約を決めた時ロサ嬢は6才と幼かったから分からないのだろうと一度はそれで通して。後からロサ嬢が契約内容を見直せるようになっているのだが一向にその気配が無い。このままでは歪な契約内容のまま結婚となってしまうと‥」
「私から見れば契約内容は完璧だ。御心配には及ばない」

そう言って出口に向かい歩き出すロサ。

メイズは慌てて追い掛ける。

「恋も愛も情も無い契約結婚なんて不幸すぎる!それでは君の幸せはどこにあるんだ!?」
「それが私の運命だ」
「運命!?運命なんてッ‥」

ロサはドアの前で足を止め振り返り背の高いメイズを見上げる。

「運命は変えられない。私はあそこで恋バナに興じる16才とは違う。一生恋も幸せとも無縁でただ働いて無意味な生を全うし死ぬだけだ」
「‥そんなッ!?」

父は詳しくは教えてくれないが、ロサが何か難しい事情を抱えているのは匂わされている――だが、いくら何でも…

そんな16才なんて!?

絶句してしまったメイズに向けてというよりは独り言の様にロサは続ける。

「それが出来なければ――つまりサルトゥス様との最低な契約結婚が叶わなければその時は――」

無表情な目は『それもいい。むしろその方がいいかもしれぬ』と言っている様で。

クースとトースが大きな目を瞬き俯く。

『何か救いは無いのだろうか?』と――
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