妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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10 その色はシアン・ブルー

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勢い込んでいたロサの動きを制するほど真っ直ぐな黒い瞳――ロサはその奥に見える本当の色に囚われている。

本当の色はシアン・ブルー。

子供の頃、森で出会った少年の瞳と髪の色…

少し話しただけで互いに名前も知らないまま別れてしまった。

黒目黒髪に変装しているが間違いない。

店前で会った時から分かっていた。

目の前の彼があの時のシアン・ブルーの少年の現在だ…

「…なぜ…」

なぜこんなにも心が揺さぶられる!?

その瞳のせいだ――

父上によく似た

穢れの無い真っ直ぐな瞳

痛みさえ感じるほどに――

「とても許せない。君の論理も事情もだがクズ婚約者が何より許せない!そんなクズ婚約者に執着する君にも腹が立っている…!」

ロサが自分の心へ向けた『…なぜ…』の問いにシアンが乱暴に返事をする。

その乱暴な返事のどこになのか分からないが何故か一瞬嬉しくなるロサ。

そんな自分に戸惑いながらシアンの手を振り解く。

「訳が分からない。付いて来られては困る。君と私は…関係ない。…君に会う事はもう一生無いのだ」

もう一生会わない…

そうでなければならない…当然の事なのに…

ズキズキと痛むのは?

再会して嬉しかったのだとこの時やっと自覚するも。

だったら尚更これ以上彼に関わってはいけないと心の内で繰り返す。

「君の方こそ訳が分からない。私は付いて行くし今後も君に会う」
「へ!?」

自分の拒否にビクともしない真っ直ぐな瞳の男にロサはポカンとした後目をパチパチさせる。

経験した事の無い騒めきで胸がかき乱される。

「…あ…それ…」

ハッと目を瞠った後頬を上気させるシアン。

「…かわいい」
「…か!?」

こんな時にあり得ないことを言ってくる男にロサはパニック寸前だ。

かわ‥何が!?
意味不明が過ぎる!
意味不明…なのに
――嬉しい?

だけど!
絶対!
ダメなんだ!

「‥つ、付き合っていられない!私は婚約者を取り返すのに忙しい!
クース、トース、行くぞ!」
「「‥はっ!」」

ポッチャリボディからは考えられないスピードで従者と共に店を飛び出すロサ。

追い掛けようとするシアンの前にメイズが立ちはだかり。

「これはモンス辺境伯家の問題だ!部外者は‥」
「彼女はどこへ行くつもりだ?答えよ!」
「ッ‥兄上が今勤めているピンク御殿‥ア」

シアン…キャプルスのあまりにも威厳のある質問につい答えてしまったメイズ。

対峙しているだけで肝が縮こまって行くような…どうやら美しいだけではないカフェオーナーに得体の知れない不気味さを感じるものの。

「兄上の問題は俺が解決する!ロサ嬢の事もこの俺が引き受ける!君は手を引‥」
「君はシッカリハッキリキッパリ振られていただろう!諦め給え」
「ぐぅッ…そそれを言うなら君こそ絶縁宣言されていたろうが!」
「そんな宣言されていない!捏造するな!」
「『会う事はもう一生無い』というのは絶縁という事だろうが!」
「「ぬぅッ……」」

睨み合う二人にカクタスが呆れながら言う。

「今は一刻も早く彼女を追うべきでは?」
「「‥ハッ!」」

ダダダダダッ!

店を飛び出すイケメン達!

この辺の馬留は一か所で。

カフェ・キャプルスからは少し距離がある為バカみたいに足の速い男達は馬に乗る準備中のロサに追いつく。

が、ロサは男達をチラとも見ずに軽々と大きな馬に飛び乗り風の様に走り去る。

(凄い――あんなにポッチャリなのにまるで重力の影響を受けていない様に…)

とか思いながらぼんやり見惚れていた男達はふと顔を合わせハッと我に返るとそれぞれの馬に乗り――

シアンはロサを追うメイズとは逆方向に馬を走らせる。

「‥ッと、殿下?」

慌てて方向転換しシアンを追うカクタス。

「先ずは王宮に戻る」
「そんな時間‥」
「行き先は『ピンク御殿』だ。変装しているとはいえ私が正面から行けるか」
「!あ、ですね‥ではつまり‥」
「ああ。一生使う事は無いだろうと思っていたあの通路を行く」
「了解です!」

ドドッドドッドドッ‥

王都を東方向へ愛馬を走らせながらチラと後方を確認するメイズ。

(‥よし。付いて来ていないな‥全く、いきなり現れて何なんだあの男は…こちらはずっと前からロサ嬢を想って来たのだ…攫われて堪るか!)

シッカリハッキリキッパリ振られてもビクともしていないメイズ。

その前方にはロサと従者達がやはり馬を急がせて…

目指すはピンク御殿である――
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