妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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17 ロサは諦めモード

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モフ助は大きな体で信じられないスピードで大空を駆け、あっという間に目的地――王都最北端の北の森に着地する。

ブワーーーッ
ザザザザザーーーッ

モフ助が着地した場所は整備された庭の様で近くに小さな城が立っている。

一瞬の夢から醒めた様な心地のシアンとカクタス。

ロサとクース&トースは到着後サッとモフ助の背から降りていたがボーっとしてしまっていたシアンとカクタスはモフ助に振り落とされて地上へ降りる。

「‥ッ」スタッ!
「っと」スタッ!

イケメンの性なのか…
振り落とされてもカッコ良く着地する男達…

一瞬モフ助に怒りを覚える二人だが『大丈夫か?』と聞いてくれるロサの無表情顔に言い知れぬ不安を感じる。

「ゴホッ…大丈夫だ。
有難う…ここは?」

シアンは当り障りのない返事と質問をする。

「私達…私とクースとトースで魔法学園に通う為に借りて住んでいる」
「こんな遠い所に!?
魔法学園はオーナーと俺の母校だからよく知ってる。
あそこは王都中心地にあるから北の森から通うのは大変だろ?
寮があるのに何でこんな遠くて人里離れた寂しい所に?」

馬車で1時間半――いや、王都とはいえ北端の田舎、道も整備されておらず悪路だからそれ以上だろうと見たカクタスが疑問の声を上げる。

「私は定期的に体が弱くなる。そうなると誰にも会えない。医者にもだ。だが学園の寮は授業を休むと学校医が訪ねてくる。仕方なく完全に引き籠れるここに移った」
「ロサ様は乗馬がお得意なのだ」
「ここから学園まで愛馬のエクウスに乗ってビュン!だ」

クースとトースが得意げに答えるのを聞きながら『だから乗馬服なのか』と納得するイケメンズ。

ロサがカフェ・キャプルスを飛び出して行ったのを追い掛けたシアンとカクタス。

馬の前でロサが突然バッ!と巻きスカートを脱いだ瞬間は固まったが、ロサはスカートの下に乗馬用のズボンを穿いており巻きスカートをマントにして軽々と大きな馬に飛び乗った姿は正直かなりカッコ良かったと男達は思い出す――

「ところで『定期的に体が弱くなる』とは一体…医者にも会えないとなると病気という訳ではないのか?」
「病気じゃない」
「あの、殿‥オーナー、女性には色々とありますから…その、体のデリケートなバイオリズム的な事を聞くのは失礼かと…」

女性特有の『月のもの』的な事かなと察したカクタスは遠回しにシアンに仄めかすが。

「ん?」

とシアンは全く分からない顔である。

イケメンがそんな顔をすると普通顔がするよりずっとバカっぽく見える。

そんな発見に再び笑いそうになりながらも今まで全く女性に関心を寄せてこなかった主の無垢の無知にどう対処したものかと悩むカクタス。

と、ロサが穏やかに。

「こんな所へ連れて来てしまって済まない。
とにかく王宮脱出が重要だったし、モフ助が人目に付かない場所といったらここしか思いつかなかった。予定外の空の移動で喉も乾いたろう…乾いた?それなら是非城に寄ってくれ!何でも出来る我が従者ツインズが淹れる美味いお茶を振舞おう」

いやこちらこそ助かった、喜んでご馳走になるとイケメンズがホイホイ城内へ。

危機意識が低い、私が悪人なら城内に極悪な仲間を潜ませ犯罪を仕掛けてくるかもしれないのだぞと真面目顔のロサに一言苦言を呈され更に。

『ちなみにここには私とクースとトースのみ。何もかも有能過ぎる二人が整えている』と何故か従者の有能ぶりを推す謎のアピールなどもされながら応接室へ。

クースとトースは主に褒められているというのにムゥッと押し黙りその主に対して剣呑な視線を向けている。

「うん、確かに美味しいお茶だ!」
「ロサ嬢の従者達は実に有能だ!」

などと従者を褒めてロサを喜ばせた後、シアンとカクタスは本題に入る。

「ところでピンク御殿での騒ぎは何だったんです?何故騎士達が剣を抜く事態に?」
「あれは私の首を刎ねようと‥」
「「なにッ!?」」

シアンとカクタスが秘密通路でピンク御殿に着いた時既に騒ぎは始まっており、事の経緯を知らない。

まさか鍛え上げた騎士達が集団で令嬢一人の首を狙っていたとは!

「一体、なぜ‥騎士の中にはロサ嬢の婚約者も居たろうに…」
「第一王子妃殿下の命令だ」
「「‥ッ!」」
「私の婚約者のサルトゥス様は一番張り切って私の首を刎ねようとしていたな…」
「「‥なッッ!?」」
「流石だ…やはり私の結婚相手は彼しかいない…」
「「いや何で!?」」

不誠実などというレベルではない。

命を狙って来るなど敵以外の何物でもない。

「『何で』と聞かれても‥キャプルス殿が女性が苦手な理由を私に話す義理が無いのと同じだな。…簡単ではない」
「‥ッ‥立ち入ったことを…済まない…
そうだな、簡単ではない」

神妙な顔で同意するシアンを目の端に映してロサは考える。

(不思議な事だ…キャプルス殿に聞かれるとうっかり呪いの事まで話してしまいそうになる…)

「‥コホッ、それより、このクース特製レモンケーキは素晴らしいぞ!こっちのチーズクッキーはトースが焼いたのだ!甘いものが苦手でも‥」
「「ロサ様!」」

先ほどからシアンとカクタスに従者ツインズを売り込むかの様なロサに遂にツインズが低い声を揃える。

「…何だ?」
「マイナス思考になってますね」「ご自分が自爆後の事を考えてるの丸わかりですよ」「サルトゥスを諦める前にまだやれる事があるはずです」「自爆は本当にもうどうしようもなくなってからの最終手段ですからね?」

もうクースなのかトースなのか分からない勢いで二人ほぼ同時に捲し立てる。

同じ声が重なり『わんわんわん』という感じで何を言っているのかよく分からないシアン達だがそれでも物騒過ぎる言葉を耳が拾う。

「「自爆!?」」

『‥あ‥』と言い固まった3人に今度はシアンとカクタスが言葉を連ねる。

「自爆って何の話だ!?」「何故ロサ嬢が自爆しなきゃならないんだ!?」「あのゴミ婚約者のせいか!?」「あんなゲス婚約者のどこがいい!?」「最終的にも自爆はダメだろ!」「とにかく理由を話してくれ!」

「「力になりたい」」

最後に重なったシアンとカクタスの言葉にロサは小さな目をパチパチさせる。

――病的に親切!

「なぜ?二人とも…特にオーナーの方は最初は相当感じ悪かったのに」
「‥エッ!‥あぁ、最初‥済まなかった!‥あの時は君がわざとぶつかって来たのかと…そ、その、私と知り合う為に…実際そういう令嬢が多‥」
「自信過剰ですよね」

クースが冷たく遮り、

「ぶつかっておいて謝罪もなく自分にぶつかって尻もちをついた女性に手も貸さないとか失礼以前の問題でしょう。よそ見してたのはオーナー殿もでしょうに」

トースが冷たく責め、

「大体、簡単に『力になりたい』って仰いましたけど、あなたたちに何が出来るって言うんです?」
「イケメンとして生きて来たせいで万能感みたいなものを持っているのかもしれませんが、そんなモノ何の役にも立ちませんよ?」
「大体、ロサ様の話を聞いた上で『やはり自分達の手には負えない』なんて許されないと分かってます?」
「話を聞いてしまったら逃げられない。
その覚悟はあるんですかね?」

止まらないツインズ。

主ロサに対して失礼な態度をとったメガネイケメンズに対する怒りは溜め込まれ今ここに噴出している様で。

「‥あぁ二人ともそこまで!…弱気になった私が悪かったよ…
キャプルス殿にカク殿、従者ツインズが済まなかった」

ロサが皆に謝罪する。

「弱気とは?」

本当に疲れ果てた感じのロサにシアンが問う。

一体何が君をそんなに苦しめているのだと。

「‥ふ、サルトゥス様を取り返すのは無理そうだと…そうなると私に残された道は…
君達は高位貴族だろう?私の自爆後に有能な二人を雇ってもらえないかと望んでしまった。だが…そう、まだ諦めずに努力するよ…努力……はぁ…………
…こほっ、だけどもし事がそうなったらその時はあの二人は有能だから…ウッ」

思わずロサが呻いたのは…クースとトースがその大きい瞳からポロポロと涙を零し始めたからで。

これにはシアンとカクタスも気まずげに目を逸らす。

「クース、トース、ごめんてば」
「‥悪いのはあのクソ女です!」
「そう、アバズレ第一王子妃!」

ポロポロ泣きながら怒りのターゲットが移ったツインズ。

ロサが苦笑して窘める。

「不敬だよ、関係者に聞かれたら厄介な事になる」

多分最たる関係者――

アバズレ第一王子妃の夫がここにいる――
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