妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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32 襲撃

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翌日。

シアン、カクタス、パキラ、3人の主従は焦っていた。

昨夜遅くに王宮へ戻り、『明日は出来るだけ早く北の森を訪ねよう』と決めていたのに、流石に色々と疲れていた様で。

昼近くまで寝過ごしてしまい大急ぎで出掛ける準備を整えていた時そのニュースが飛び込んで来た。

カルミアが騎士達60人余りを引き連れて北の森へ向かっている。

目的は――ロサ嬢の討伐!?

『アタシは無実よ!アタシは罠に嵌められたの!シアン様に懸想したロサに騙されて媚薬を盛られてッ…それで心ならずも晒す事になった痴態をロサはシアン様に見せてアタシは捕縛されてしまったのよ!だけどアタシは潔白よ!全ては媚薬のせい、ロサのせいなの!直ぐに牢から釈放されたのがその証拠よ!』

騎士達を集め、時々メモを見ながら涙ながらにそう訴えたカルミア。

事実を知る4人の騎士――昨夜共に媚薬を飲み破廉恥に体を繋げた4人(サル行方不明の為3人)にはかん口令を敷き、何も知らない騎士達に大嘘を吹き込み同情を誘う。

更に。

『極悪人のロサにはこのアタシ、罪のない王子妃カルミアを陥れた罰を与えなければならないわ!
このまま引き下がったらアタシは罪を認める事になり国外追放になってしまう…そうしたらアタシの騎士であるあなたたちも騎士でいられなくなるかもしれないわ!そんなのおかしいでしょう?だからアタシの騎士達よ、アタシの為に、正義の為に、アタシに力を貸してちょうだい!ロサを引捕えて真実を吐かせ、アタシの名誉を回復するの!そうすればアタシたち、今まで通り楽しく暮らせるのよ!』

最後の頃は時々ではなくずっとメモを読み上げ騎士達を鼓舞したカルミア。

メモを書きカルミアを焚き付けたのは侍女長である。

昨夜、王都の牢に入れられたカルミア達を『フランマの名のもとに』解放しピンク御殿に連れ帰った後。

侍女長は茫然とするカルミアに静かに言う。

『バカな子――お前、何もかも失ったのよ…
当然王子妃ではなくなったし、一応『フランマの姫』としてグラキエスでは裁かれず国外追放という形でフランマで裁かれる事になるけど…自分の本当の出自を考えたらお先真っ暗だって分かるわよね…』
『そんなッ――だってアタシ、今まではちゃんと…あのピンクのお酒さえ飲まなければッ‥』
『どんな言い訳だって通用しないわ。可哀想に…あの娘のせいで』
『あの娘!?』
『ロサとかいう』
『!‥そ、そうだ‥アタシあんまり覚えてないけどサルが『ロサ』とか騒いでた』
『彼女が王子殿下を仮面舞踏会へ連れて行かなければお前の乱痴気騒ぎもバレなかったのにねぇ…お前のこの窮地、彼女のせいよねぇ』
『ゆ、ゆるさないッ』
『あら、まさか復讐でもするつもり?』
『復讐?そう、それよ!やってやる!あのドブス、ただじゃ置かないんだから!』
『手伝ってあげるわ』

侍女長はニヤリと笑う。

『えッ…ありがとう…アンタ、いい人だったのね!』

6才まで平民だったカルミアに侍女長の笑顔の意味は分からない。

笑顔の奥で侍女長は思う。

(『フランマの女』の血を引くというピンクの髪と瞳――全然期待外れだったわね…あの恐ろしい魔女クフェアとは比べ物にならない…それでも、グラキエスに桁違いに魔力の強い王子が生まれた事を気にされていたあの御方の為に僅かな可能性でも賭けるしかなかった)

侍女長に言われるままメモを基に騎士達をまとめ上げて行くカルミアを見ながら。

(騎士達の人気は得た様だけど6年も掛けて結局第一王子を傀儡にする事は出来なかった。とんだ無駄骨だった。お前には死んでもらう。その前に一働きしてもらうわ。あの王子、傀儡に出来ないなら――)

侍女長の思惑通り、本格的に武装した騎士達60人余りが北の森を目指す。カルミアと侍女長を乗せた馬車を守りながらの進行だが、邪魔する者も無く一行は順調に進み北の森のロサが住む城へと到着する。

森の異変に気付き窓から様子を窺っていたロサ。

「クースとトースは森の奥へ。
奴らの目的は私。二人を追う事は無いだろう」
「そんな命令聞くはずないと分かってますよね?」
「森の奥へ逃れるのはロサ様です。さぁ、早く!」

3人無言で見つめ合う中、城のドアが乱暴に叩かれる。

「おい!極悪人のロサ!出て来い!出て来て罪を白状しカルミア様に詫びるのだ!お前の悪事は分かっているのだぞ!」
「さっさと出て来なければこんなドアなど蹴破って‥」

ドアが一瞬小さく開いたかと思うと直ぐにバタンと閉まり。

ドアの前に小柄な双子が剣を構える。

「お引き取りを。
ロサ様は今体調が優れず誰にもお会いになれません」

双子の左側――クースが騎士に告げると、騎士は馬車まで戻って行き言われた事をカルミアに伝える。

「はぁ!?何ソレ仮病でしょ!今さらビビッてんじゃねーよ!あぁもういい!今すぐ強行突破‥」
「まだよ!」
「え、どうして!」
「待っているの…第一王子が来るのを」
「は、何で?何でシアン様が来るっての?
…もしかして、アタシに未練とか?」

頬を染めて聞いてくるカルミアに『こんな…ここまでのバカもいるのね』と言葉を失いながら侍女長は説明するのも面倒とばかりに『とにかく来るのよ』とだけ吐き捨てて一生に一度会うか会わないかレベルのバカから視線を外す。

(第一王子は絶対来る!今までどう画策してもピンク御殿に来ることもカルミアに会う事も断固拒否を通して来た彼が昨日ピンク御殿を訪れたのはロサという娘の為だと聞いた…あの憐れなまでに残念でしかない不細工な容姿の娘の何が彼を動かしたのかは永遠の謎だが…ロサという娘のピンチにきっと駆けつけて来る!
そこを――)

侍女長はフッと息を吐き、気を取り直して。

クッと口角を上げ狂気を感じさせる笑顔をカルミアに向ける。

「復讐したいのでしょう?なら徹底的にやらなきゃ…
第一王子の前でロサと言う娘をお前の騎士達に凌辱させるの…」
「ええ?ムリだよ、みんな『ブス過ぎて目ぇ瞑っててもムリ』って言って‥」
「俺が犯ってやろう」

カルミアと侍女長の会話に入って来たのはサルトゥス。

「サル!アンタ、どこ行ってたの?ゆうべ牢を出してもらった後、どっか消えちゃってたでしょ?」
「ロサはもう俺を要らないと言った――そんな事許せるはずない。思い知らせてやる――メチャメチャに犯ってやる!俺の女だってこと体に刻み付けてやるッ」
「‥サル?何言ってんの?…アンタ何か変よ…いつものサルじゃ」
「ロサは俺のものだ!俺のなのに‥クソッ」

この男は一体誰なのとカルミアは思う。

あんなに別れたがっていたドブスに何で?

まるで執着してるみたいじゃないのよ!?

「男と女の間はね、お前が思っているほど単純じゃあないのよ…」
「は!?な、何よ、男の事ならアタシの方がずっと…ずっと…」

子供の頃から男にチヤホヤされて来た…そんな自負があるカルミアはそれだけで自分は男女の事に長けているという根拠のない自信を持ち続けて来た。

そんな自信は『昔は美人だったんだろうな、色々経験してるんだろうな』と思わせる侍女長の一言で不意に崩れてしまう…

え…アタシもしかして何も分かってない?

サルはあのドブスが好きなの?

きのうあんなに体を重ねたアタシの前で執着して見せるほど?

そんなッ――

宙を彷徨わせたカルミアの瞳は遠くの空に不吉な何かを捉える――
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