妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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51 妃殿下、私の彼から手を引いてくれませんか?

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さて、こちらは王都。

宮殿は公的ゾーンとプライベートゾーンが明確に分けられている。

そのプライベートゾーンにある藍紫殿にはグラキエス王国第一王子シアンとその妃ロサが住む。

朝食を終えたシアンがこれから公的ゾーンへ出掛けようとしていた頃。

公的ゾーンのエントランスホールでは珍事が起きていた。

公的ゾーンから慌ただしく文官長が駆け込んで来て言うには。

「妙齢の女性達が大挙して押しかけて『妃殿下に直訴したいことがある』と…いずれも高位貴族家のご令嬢ゆえ断れず困っておりまして」
「なに、私のロサに直訴だと?」
「ヒッ」

天上人はかくあらんと思われるほどに尊く美しい王子が瞬で鬼の形相に変わり地の底から響いて来る様な低い声で問えば文官長は震えあがり腰を抜かしてしまう。

「…殿下、ここは我々が収めますゆえ」
「どうぞいつも通り執務室へ」

そう恭しく申し出るのは最近益々男振りが上がったと噂のイケメン側近コンビ、カクタスとパキラ。

「…だが、私のロサに関わる事なら私が‥」

鬼の形相のまま答える王子に側近達は落ち着いた声で。

「単に殿下にお会いしたいというけしからん目的かもしれません」
「ここで殿下が出られては味を占めて今後も似たような行動を続ける懸念がございます」
「ちなみに一々『私の私の』煩いです」
「全くもってその通り」
「ですから先ずは我々が対処いたします」
「殿下は執務室へどうぞ」

確かに一理ある…これまでもシアン目当てに何だかんだと理由をつけては王宮で騒ぎを起こす令嬢がいた…話は分かった…だが…

「‥お前達、今どさくさに紛れて何か言ったな?」
「いえ、何も」
「はい、何の事やら」
「………………」
「「………………」」
「…まあいい…では頼む」
「「御意」」

そうしてエントランスホールに駆け付けたイケメン側近達は嫌な予感が的中する。

騒ぎを起こしているのは彼らと関係のあった令嬢達。

令嬢達に言わせれば『親密な恋人』。

彼らに言わせれば『かつての遊び相手』。

カクタス側7名、パキラ側9名、総勢16名の何れも高貴な家柄の令嬢達。

花も恥じらう結婚適齢期の令嬢達がパーティーに来たのかと思うほど着飾って王宮受付ホールを埋める姿は遠目には美しいが対峙するカクタスとパキラには悪夢でしかない。

ただ、それぞれ複数名である事から分かる事だが正式な婚約者などではなく互いに納得済みの『遊び』の関係だった。

そう、19才のカクタスと20才のパキラより少し年上の彼女達。

結婚適齢期と言っても後期の彼女達は高貴な生まれと美貌に恵まれモテモテなのをいいことに未婚・既婚問わず常に複数の恋人を侍らせラブ・アフェアを謳歌して来た『悪女』達…

『いい?本気にならないでよね?面倒はイヤなの』『あなたは大勢いる恋人のうちの一人に過ぎないの…勘違いしないで?』『あなたなんていつでも捨ててあげる…それが嫌ならいい子にしてなさい。私の機嫌を損ねない事ね』等々、事あるごとに言い放っては彼らが『本気の関係』を望むのを牽制して来た彼女達。

カクタスもパキラも『年上美女に翻弄される美青年』を演じて大人の恋愛ゲームを楽しんできた。

そんな関係だから2度誘いを断れば自然消滅がルールのはずだが…

何故か断っても断っても誘ってくるのでキッパリと別れを告げた途端徒党を組んでわざわざ一般貴族も訪れる王宮エントランスホールにやって来たのだ。

そんな彼女達の直訴とは。

ズバリ
『王子妃殿下に私のカクタス様から』
『王子妃殿下に私のパキラ様から』
『『手を引いて頂きたいの!』』

意味不明だと額を押さえる二人に令嬢達は畳み掛ける。

「確かに最初は遊びだったわ…だけど今は違う!今は本当にカクタス様をお慕いしているの!…だって、元々イケメンだったけどこの数か月でグッとカッコ良くなられて…」
「そうよ、パキラ様も男振りが上がられて…こちらが本気になった途端『もう個人的にお会いすることはありません』なんて酷過ぎるわ!…考えられる理由は一つ…妃殿下に何か言われたのでしょう?」
「一体何を言われたんですの!?…ゆ、誘惑されたんですのね!?」

『そうならどんなにいいか』と思い目を伏せる側近達に令嬢達はヒートアップ。

「妃殿下は魔法学園の生徒でしたわよね!ご成婚に伴って休学されているそうですけど。‥まぁ、ですが‥実は私の妹が現在魔法学園生なんですけど、妹の話では目立たな過ぎて誰も妃殿下の事をちゃんと思い出せないそうですわ。…つまり成績も容姿も底辺‥あら、私の意見ではありませんわよ、魔法学園生達の意見なのですって‥ほほほ‥」
「その上妃殿下は昔からイケメン騎士好きでピンク御殿では口に出来ないほどイヤラシイ事をしていたと聞いたことがございます!」

――ん?

「いかがわしい舞踏会にお気に入りの騎士達と入り浸っては違法な快楽に耽っていたとか」
「汚らわしいことですわ」
「6年前に1度だけお茶会でご一緒しましたけどピンクの髪と瞳の『フランマの姫』はグラキエス語も話せずマナーも平民以下の下品な女でしたわ!」

やはり。どうやら令嬢達はロサとカルミアを混同している。

確かに『フランマの姫』『ピンクの髪と瞳の色』『年齢』など言葉だけで特徴を並べれば共通点がある。

実際会えば二人の共通点は全くのゼロなのだが。

「全然イケてないくせに!シアン殿下という世界一の男性の妃だというのに!その上イケメン側近にまで手を出そうとはとても許せることではありませんわ!」
「カクタス様、」「パキラ様!」
「妃殿下に騙されないでくださいませ!」

妃殿下に対する不敬発言が止まらない令嬢達にカクタスとパキラが我慢の限界を迎える。

「いい加減にしろ!妃殿下への侮辱、許されると思っているのか!?」
「高位貴族令嬢であっても妃殿下への不敬罪は重罪…覚悟頂こうか!」

「きゃぁッ!?」
「え、ええ!?」

いつも穏やかな笑顔で接してきていた彼らの見たこともない冷たい表情と声――令嬢達は思わず悲鳴を上げる。

だが美しい自分達のか弱い悲鳴にも彼らは一切動じずその表情は怒りに歪んでいる。

と、その時一瞬エントランスホールが光ったかと思うと同時に響く女神の声!

「私への直訴とはソレか?」

――!!?――

カクタスとパキラはパアッと顔を輝かせ声の方を振り向き片膝をつく。

「「ロサ妃殿下ッ」」

感極まった二人はそれ以上言葉が出ない。

ヤンデレ化したシアンがロサを藍紫殿の奥深くに隠してしまってカクタスとパキラでもロサに会うのは久しぶりなのだ。

ロサは二人に美しく頷くと改めて令嬢達に視線を移す。

『ヒェァッ‥』

思わず変な声を出してしまう令嬢数名。

声も出せず気絶寸前のその他。

嘘でしょ!?女神だわ女神が目の前に!どういうこと!?みんなで結託して成婚式やパレードを盛り下げてやろうとボイコットしたせいで今初めて見たけど…女神だわ女神が実在してる!どーゆーことなのぉ~~~!?

体は金縛り状態、頭の中はグルグラ状態の令嬢達にロサが柔らかに声を掛ける。

「ロサ・グラキエスだ。私への不満を直訴しに来るとは中々に骨のある令嬢達だ」

ザザザッ!

総勢16名の何れも高貴な家柄の令嬢達が一斉に今やるべきことをやる。

令嬢達が絶対しないはずの『土下座』を。

ガクガク震えながら。

「もも申し訳ごじゃいましぇんッあ、あの、全くの勘違いで!」
「そうでし!私は王国に仕える臣下として分を弁えておりましゅ」
「アレでしゅわ!そう、私、突然パキラ様に振られたものでしゅから!」
「そッ、ソレでしわ!カクタス様を返して頂きたくこの様な不躾な振る舞いを」
「そうなのでしゅ、パキラ様から手を引いて頂きたくお願いに参った所存で」
「「妃殿下に不満など滅相もございましぇん!」」
「滑舌」
「「ヒェァッ‥」」

皆の代表としてというより自身の言い訳の為に必死に言葉を並べる公爵令嬢アラネアと同じく公爵令嬢パピリオ。

幼児の頃にさえ注意された事の無い滑舌を注意されて真っ赤になる。

何故令嬢達が誤解しているのか尋ねようとカクタスとパキラに視線を移したロサは目をパチパチする。

(…二人が鋭い眼光で周囲を睨めつけているのは何故だ…)
と。
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