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第一章

19 白くて大きい背中

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草に顔をうずめたまま、ステラは独り言つ。



「‥‥そうだよね。
お父様‥‥親でさえ愛せない私となんて、友達になりたくないよね‥‥
そうだよね‥‥
ごめんね。
寂しくて‥‥
ごめん‥‥ 、
‥‥ッ‥‥」



涙が溢れて、草を濡らす。

涙に濡れて上って来る草と土の匂いに顔を上げれば、

目から溢れ出る瞬間には温かい涙は直ぐに冷えて冷たく頬を濡らす。

ステラは眉を下げ、薄く微笑み、勢いよく草に突っ伏す。


季節は冬。

薄い寝間着で寒々とした森の中に倒れている10才の少女は、朝には凍え死んでいてもおかしくない。



‥‥‥?



ステラの左側が何だか温かい。

不思議に思って顔を上げ、左を見ると‥‥



白いモフモフがいる!



ステラの左側面に添うように腹ばいで体を伸ばして。

顔はあちらを向いている。



‥‥ゴクリ。



ソロソロと体を起こして座り直せば、白クマさんも体を起こして座り直す。

顔はあちらに、ステラには背中を向けている。

白クマさんは手足が短いので、立っていればステラより小さいが、座るとステラより大きい。


白くて大きい背中に縋りつく様にして顔を埋めてみても、白クマさんはそのまま。

逃げない。

行ってしまわない。



「‥‥一言でいいから、お父様に止めて欲しかったの。
たった一言だけでいいから『行くな』と言って欲しかった‥‥
止められたって家を出る決心は変えないと決めていたけど、
それでも‥‥たった一言‥‥
たった一言の愛情が欲しかった‥‥」



白銀のモフモフの温かさに誘われる様に言葉が溢れ出てしまう。

やはり溢れ出てしまう涙は綺麗なモフモフを濡らしてしまう。



「一言でよかったのに。
それで救われて、納得して、
『二度と帰って来ない』と笑顔で言えたのに‥‥
全てを優しい想い出に昇華出来たのに‥‥」



お母様が生きていた時は、私達はとても仲の良い幸せな家族だった。

お父様は私を抱き上げて、



『私達の可愛いお姫様。
ステラは私達の宝物だよ』



と言ってくれたのに。



お母様が亡くなった時に、

じゃなくなった時に、



私は『宝物』から『邪魔者』になった。


あぁ、そうか‥‥

あの時私に向けられていた笑顔も温もりも、全てはお母様の為だったのね‥‥

お母様を喜ばせる為に、幸せを演じていただけ。

私も知らずに演者の一人に組み込まれていた。


お母様の死と同時に舞台の幕は下りた。

次の舞台に過去の演者はただの邪魔者。



「‥‥私、もう家族はいらない。
たった一人、友達が居ればいい。
白クマさん、私の友達になって。
たった一人、私を裏切らない存在に‥‥
私を邪魔に思わない存在に‥‥
‥‥出来れば、
出来ればだけど、
私を好きになってくれる存在に‥‥」
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