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キラーチルドレン

籠の中の哀しい鳥③

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「坊主、こっちだ」
 父親に呼ばれ、男の子は村外れの漁師小屋に来ていた。
「とうちゃん。こんなとこにあの子がいるのかい?」
 その小屋は、漁師たちの道具とか置いてあるところで、お世辞にも綺麗とは、言えない場所だった。
 あの綺麗な子には似合わない粗末な小屋。

 なにか、怒りと悲しみが、ごっちやになって男の子は泣き笑いの様な顔になった。
「坊主、どうしたんだ? 」
 男の子は首を横に振りうつ向く。
 父親は入り口に何故か、新しく取り付けた鍵を開け男の子の手に握らせ、中に入るように言った。

「あ、忘れてた。中の子にコレを食べさせてあげなさい。それに、帰りは鍵を閉めて来るんだ」
 男の子の手にバスケットを持たせ父親は祝いの席に戻って行った。

「なんで、カギなんか、しめるんだよ……」
 変に思ったが、あの子に会えると云う気持ちの方が勝りドアを開けた。
 小屋の中は結構整えてあり、隅にはベッドまで置いてあった。
 ベッドは、ほんの少し盛り上がっており微かに上下してる。
『ねてるのかな?』
 近付いて、ソッと毛布を捲ると、両手で自分の体を抱き、丸まっている綺麗な子がいた。

「なあ、おいら食べものを持ってきたんだよ」
 声を掛けても、綺麗な子は振り向かず、更にぎゅっと強く抱きしめる。
 男の子は悲しくなって、綺麗な子の髪を優しく撫でながら、話し掛けた。

「おいらは、おまえの『みかた』だよ」
 その言葉に、綺麗な子はピクリとして、ゆっくりコッチを振り返る
 かなり、やつれては居たけれど充分、綺麗な子だ。
 軽く、くるくるした髪は少し茶色で、日など焼けた事などない白い肌、愛らしい瞳に可愛いぷっくりとしたくちびる。

 それなのに、両の目からは涙がポロポロとこぼれていて。
 ――守ってあげたい。
 男の子は綺麗な子をぎゅっと抱き締め何度も、何度も、言った。
「おいら、おまえをまもってあげるから。だいじょうぶだよ」

 思えばこれが、男の子の初恋だった。
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