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終焉のアンリミテッド

キール⑤

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「実はここに来たのは、知り合いが入って行くのを見たからなんです。レイジと言うのですが、彼はどんな用事で来ているのですか?」
 あれこれ考えてモヤモヤするぐらいならば、この場で聞いてしまった方が良い。
「レイジさんの友人なのですか? 良かった。あなたの様な優しい人が傍にいてくれて」
 そう言って破顔する。僕は罪悪感で一杯になる。人の良い神父を騙しているから。

 ホントウは殺したいほど憎いんです。
 優しくなんかない。心も身体も真っ黒だ。
 そう言ってしまいたい衝動に駆られる。

「レイジさんは熱心な信者なんですよ。いつも寄付をしてくれて情け深いかたです」
 そう言う神父は自愛に満ちた顔でヤツのことを語る。
 何でだろう? 訳もなく胸が痛い。
 トーマ様が闇の帝王なら、双子の片割れであるアンリさんは光の騎士だと感じた。
 そして、そのどちらも『ヤツ』を大切にしてるのだろう。
 そして僕は、そのどちらにも振り向いてもらえない。
 なんて滑稽で、なんて哀れな自分。

 僕は頭を振ると立ち上がる。自己憐憫なんて馬鹿な人間のすることだ。
「そうなのですね。彼が信仰を持っていたのは意外でした。僕の知っているレイジとはかけ離れてる感じなので」
 遠回しに貶める言葉が出てしまう。神父は眉を顰めた。
 その顔が普段見慣れてるトーマ様と重なって、この場に居ることが段々と苦痛になってきた。
「ご迷惑掛けてすみませんでした。失礼します」
 ろくに顔を見ずに挨拶をして、一度も振り返らずに部屋を出た。

 教会から一歩外に出るとスラムの喧騒に我に返り、アースへと帰る道すがら考える。
 トーマ様に彼のことを聞いても大丈夫だろうか? そしてレイジはどうやってアンリと知り合ったのか知りたい。
 ぼんやり考えごとをしながら歩いていると、後ろから近付いて来た誰かに背中を押され膝をつく。振り向く間もなく頭に冷たく硬い物が押し当てられ言われた。

「ねぇ、何でオレの後をつけて来たの? ストーカー? それとも何か企んでるとか?」
 レイジが拳銃の撃鉄を起こし僕を振り向かせ問う。ヤツは必要とあらば迷いなく撃つだろう。
 そうやって訓練されたプロだからだ。冷汗が背中を伝う。なにが正解か分からないが、いちかばちか聞いてみる。

「レイジ、お前が熱心な信者だとは知らなかったよ。神父のアンリさんとはいつ知り合ったんだ? トーマ様と双子の兄弟だと知ってたのか?」
 レイジは首を傾げ不思議そうに言った。
「へぇ、アンリって言うんだ、あの人。トーマ様って誰だ?」
 嘘を言っている様には見えない。どういう訳だかマスターであるトーマ様の事をレイジは知らないのだ。
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