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終章
3
しおりを挟む弾は直撃せずジョンの耳元をかすめる。耳から血を噴き出したジョンは、悲鳴を上げながら腰を抜かした。
無様な姿にペレは喉奥で笑った。
「面白いくらいに鳴くなお前。昔買ってもらった叩くと鳴る人形。あれに似てる」
「血がぁ!誰か!誰か助けてくれ!」
兵士たちの何人かが王を守ろうとそちらへ動く。人の減った隙をついて、ペレは兵士の一人二人を蹴飛ばし、囲みを突破する。
銃は貴重品だ。この国でも取り扱いが少なく、見慣れてもいない。目にも留まらぬ速さで王が負傷したのを目の当たりにしたら、訓練を積んだ兵士でもたじろぐ。
ペレが持っている銃は小型で威力は弱い。携帯重視で選んだ代物で、鎧も貫けないポンコツだが、それでも威嚇くらいにはなる。
呆然としているアビア国の使者には目線だけを送る。同じ国の者達だが、ペレとは関係は無い。向こうはもしかしたらペレの顔を知っているかもしれないが、まさか真の名前をこの国でさらすような馬鹿な真似はしないだろう。
正殿を走り抜けると、廊下の柱から一人の男が姿を見せた。
王宮の使用人のような服を着ているが、得体のしれない怪しさから、これがエマの言っていた男だと気づいた。
後ろからは追手が迫っている。ペレは銃を撃って何人か倒した。弾切れして、エマを片手で抱えている体勢では装填出来ない。
「ジョースターだな?」
「ペレさんですね」
「逃げ道はどこだ。案内しろ」
「貴方一人ですか?仲間はいないのですか」
「俺一人で潜入した。護衛は外で待機中だ」
まさかこんな騒動になるとは思ってなかった。エマが元夫に近づき王宮に戻ったと聞いて、ちょうどアビア国の使者も来ていたから、冷やかしがてら正殿に忍び込んでいただけだ。
ペレはかつて御者をしていたイオリネとは暴力沙汰の勘違いで繋がりがあった。イオリネは密かにエマの企みに気づいていて、ペレに情報を流していた。
イオリネは止めてほしいとハッキリ言っていた。こんな結末になることを知っていたのかもしれない。
こちらへ、とジョースターが駆け出す。ペレもついて行く。
「封鎖された地下通路から外へ出られます」
「追手を撒きたい。手立ては」
「他に協力者はいます。エレオノール様を落とさぬようお願いします」
廊下から中庭へ、別の棟に入ると、そこは使用人たちの居住している部屋だった。ジョースターに導かれるまま階段を降りると、ワインの保管庫にたどり着く。ワイン樽を除くと、床に地下へと降りる扉が現れた。
「ここです。途中で二手に分かれますから左手に進んでください」
「お前は来ないのか」
「足留めします。まだ私には、この国ですべきことがあります」
「なら言え。エマが服用していたのは、『混交紅』という丹薬だな?」
一拍の沈黙の後、ジョースターは認めた。
「ええそうです」
「それだけならここまで効果は無い。甘いニオイがする。他に何を混ぜた」
「驚きました。よく分かりましたね。本来ならニオイは発散されないのですが」
ニオイは、他の奴らも気づいていないようだった。鼻が特別効くのではなく、毒物のニオイだけにペレは反応したのだ。そういう環境で育ってきて自然と身についた技だった。
上から音がする。追っ手かもしれない。急いで退散したいところだが、答えをまだ聞き出せていない。
「はやく言え。無力な女を利用して国家転覆を目論んだ罪は重いぞ」
「国家転覆など大層な思想は持っておりませんが、私はエレオノール様の母君に仕えておりました。娘であるエレオノール様に従ったまでです」
「主君を諌めるのも臣下の役目だろう」
「なにもかも失ったエレオノール様の為にも、私ごときが刃向かうわけには参りません」
「詭弁だ。本当に娘の為を思うなら、こんな真似出来なかった筈だ」
「貴方には分かりますまい」
全て知っていたとしても、理解しなかっただろう。ペレが諦めて通路を進もうとした所で、ジョースターに引き留められる。
ジョースターは一片の紙切れをペレに渡した。
「これを。レゼ通りの三番街にあるトートという店の主人に見せてください。調合した薬を教えてもらえるよう手配しておきます」
「エマをアビアへ連れて行く」
「よしなに」
一礼の後、ジョースターは階段を登って姿を消した。食えない男だが、とにかく今は脱出だ。エマを抱え直し、暗闇の道を走って通り抜けた。
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